第79話 災害

 僕はボロボロになった鎧を脱ぎ去り、身を縮めた。


 爆発するように体を広げると同時に、目一杯触手をだしてザァメンを襲う。さながらハリネズミだ。


 僕が本気で触手を出すと数百本は下らないはずだが、ザァメンはその全てを一瞬で切り伏せる。


 それだけでなく、ザァメンはついでに僕の胴体にも一太刀いれてきやがった。僕の胴体は一瞬だけ二つに分かれるが、すぐにくっつく。


「ドゥティ!」


と思わずミーナが声を上げる。僕は大丈夫だ。しかしこいつ、マジで強いな……。


「それがお前の本当の姿か、ロリイーター。ははは、エロゲーに出てきそうなヤツだな。俺も好きだったよ、触手凌辱モノがさ。」


 ……やっぱこいつと僕は似てないかもしれない。僕は触手モノは好きではなかった。


 悔しいが、ただ触手を振り回しただけではこいつには勝てない。何か良い手はないか? マーラーでも人質に取るか?と思って辺りをみるが、もうマーラーの姿はない。あのクソ野郎、逃げやがった。


「何か核みたいなものが浮かんでるね。こういうのは大抵、核を潰せば死ぬって相場が決まってるんだ、よ!」


と言って言葉尻に合わせて繰り出された鋭い突きが、僕の眼球をつらぬく。


 パキンっという子気味いい音とともに、僕の眼球の一つが砕かれる。視界が一つ失われた。


 まじかよ!


 僕は今まで触手や胴体への攻撃は完全にノーダメージだったが、球体を破壊されたことはなかった。痛くはないが、砕かれた眼球はすぐに治る気配はなさそうだし、これはヤバイかもしれない。球体が破壊されたとき、自分がどうなるのか予想がつかない。本当に死んでしまってもおかしくない。


 僕は尻穴球体に力を込め、極限まで触手を捻り出すと、床から壁まで四方八方に突き刺した。不意討ちを狙うのだ。


 ――今だ。


 壁から触手を突き出して、死角からザァメンを攻撃する。


 ザァメンは振り返りもせず後方から襲い来る触手を切り落とした。続けざまに足元からいてきた触手を、床ごと踏み抜いて爆散させる。


「やはり核を壊したのが効いたのか? 今ならまだ間に合う。俺の気が変わらないうちに降参するんだな。俺は少女がその触手に蹂躙されるところをちょっと見てみたいんだ。」


 悪いがそんな気はさらさらない。


 僕は触手を編んで僕とザァメンを囲む檻を構築する。そのまま檻をどんどん小さくして、ザァメンを包む。少しでも触手が触れたら、僕の勝ちのはずだ。


「残念だよ、ロリイーター。お前とはいい友達になれそうだったのに。」


と言ってザァメンは顔の前に剣を構える。刀身に魔方陣のような光の線が走ったかと思うと、剣が魔力をまとって大剣となる。


 ザァメンがその大剣を振るう。


 眩しい光と共に、いとも容易たやすく僕の檻は破られた。


 ザァメンはそのまま、返す刀で僕の球体を切り裂く。


 ――パキン。


 僕の球体が破壊される。


 破壊されたのは、尻穴球体だ。


 ――その瞬間、砕かれた尻穴球体から、奔流ほんりゅうのように触手が溢れだす。


 その流れは、とどまることを知らない。


 ――なんだ、これは!


 やばい、押さえ切れない!


 洪水のように溢れだす僕の触手が、全てを覆い尽くす。


「なっ!」


と驚愕の表情を浮かべるザァメンが慌てて逃げようとするが、僕の触手の波に飲み込まれる。


 そして、「ドゥティ!」と僕を心配するミーナすらも覆い尽くす僕の身体を、僕は止めることができなかった。


 ミーナを飲み込んだ僕の体は、部屋をぶち壊して膨張し、まだまだ侵食を続ける。

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