終章 一歩踏み出すその先に

第76話 徴少女令

 マーラー国で徴少女令が公布されたという噂を耳にする。芳香剤が渡り鳥から聞いたらしいので、情報元としてはかなり怪しいが無視はできない。


 なんでも少女が11歳になると、そこから3年間、マーラー国のために働かされるそうだ。何をさせられるのかはこの異世界だし想像に難くない。


 僕はミーナとクルルと一緒に、フェンに運んでもらってマーラー国へ向かった。最近は裸というかネックレス姿が多かったが、今はちゃんとクソダサアーマーを着込んでいる。


 マーラー国につくと僕たちは二手に分かれた。フェンとクルルにはこっそり城の中を色々と調べてもらい、僕とミーナはマーラー王に会いに行くことにする。


 しばらく城の中をあちこち勝手に探し回っていると、後宮のような王族の居住スペースで食事中のマーラーを見つける。


「おや、ドゥティではないか。久しぶりだな。」


 側近のやつらが、


「無礼な! ここをどこだと心得る!」


わめいているが、マーラーはそれをいさめて、


「よいよい。この者たちにも食事を準備せよ。」


と給仕人に命令する。


 僕とミーナが椅子に座ると、ステーキを切り分けながらマーラーは言う。


「それで、今日はどうしたんだ?」


 マーラーは一口で食べるには大きすぎる肉を、そのまま豪快に口に運ぶ。


「徴少女令というものが公布されたと聞いた」と粘土板に書いてマーラーに見せる。


「そうだ。名案だろう。お前も興味あるのか?」


「それは何だ?」と書く。


「少女が11歳になった時点で養成施設に行って性技を身に着けてもらうんだ。そして14歳までは彼女たちの住む村や、ここのような大きな街で娼婦として働いてもらう。これも国の社会保障の一環だから、客にとっては特別安い値段でね。もちろん彼女たちへの給金は税金からかなりの額を準備している。」


「そんな馬鹿な制度がまかり通るわけがない。」と粘土板に書く。


「ふむ。一体何に引っかかっているのか俺にはよくわからないが、彼女たちは若さ、可愛さという武器を持っている。その武器をしかるべきタイミングで使うことの何がいけないんだ? 男性が大人になり筋力がついたところで狩りに出て、人間の食欲を満たすために働くのと何が違うんだ? 若く、武器があるうちに人間の性欲を満たすために働いているだけじゃないか。」


まだ幼い子供に強要することではない、とマーラーに伝える。


「別に強要はしないさ。志願者だけの制度だよ。ただ給料が高いから多くの少女が志願してくれると見込んどるがな。金を稼ぐための技術も手に入って将来も安定するし、まとまった金も手に入る。一体何が不満なんだ? ……あぁ、そうか、分かったよ。お前は少女に無力な存在であることを押し付けているんだろう? ザァメンもそうだったしな。少女は自分では何も決断できないガキだと決めつけているんだ。異世界人ってのはそういう文化を持っていたのか? 10年間も生きてきてまだ何もできないガキだってんなら、一体何歳になったら人間は大人なんだ?」


 ……徴少女令は、砂漠の王国とは異なっている。こいつの言うことが本当だとすると、少女には選択の余地があり、自分の意思で参加することになる。


 僕がミーナを一人前の人間として扱い、それゆえにミーナとの恋愛が認められるものとするならば、このマーラーのいう徴少女令も認められなくてはならない。それは一人の人間の選択でしかないからだ。


 だが同時に高い給金というのがひっかかる。お金のない貧しい少女にとっては、一見選択の余地があるように見えて、それを選ばざるを得ない状況を作り出しているんじゃないか? 僕はマーラーを問い詰める。


「お前は何もわかってないな。言っただろう。これは、そういった少女を助けるための救済措置でもあるんだ。お前は国を治める者の立場で考えていないから、小さいことに引っかかって納得できていないんだ。国を守るためとなると、これは最も合理的な選択だよ。まあ、そうだな……参加は少女の自由だが、給金に目がくらんで娘を無理やりこの制度に参加させる親も出てくるだろう。だが、それは制度の問題ではなく、その親の問題だ。それに給金は親にではなく本人に渡す。少女だって14歳になったら独り立ちしてその娘を売り飛ばすような親と一緒に住む必要もなくなる。どうだ? 立派な救済措置だろう?」


 僕は否定する言葉を見つけることができなかった。

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