第74話 転生者と子供

 触手を出してやっとのことで城に戻ると、いつくばる佐助を椅子にして座るノアママと、そのノアママと真剣な顔でジャンケンをするノアがいた。


 ……ちょっと待て、僕の頭が追いつかない。なにやってるんだ、これ?


「負けた方がこの先100年魔王じゃからな! 1回勝負じゃ!」


とノアが言っている。なるほど、多分魔王の座を押し付けあってジャンケンしてるのだろう。


 魔王ってそんな感じで決めるものなんだ……。


 椅子になってる佐助の方は相変わらず謎だ。ノアママが佐助の着物をめくって、お尻を丸出しにしている。そして暇を見つけると佐助のお尻をビシバシと叩いているが、そういう趣味なんだろうか。佐助は見た目は美人だし染みひとつない綺麗なお尻なので、ここぞとばかりに拝みたいものだが、中身はおっさんなんだし、色々と複雑だ。


「ジャン……ケン、ポン!」


と言ってノアはグーを出し、ノアママはパーを出した。ノアママの勝ちだ。


 ノアはちっ!と舌打ちして、腹いせに佐助の尻にローキックを入れる。


「ありがとうございます!!!」


と佐助が馬のようにいななく。


 ノア、めっちゃ順応してるな……。ノアが楽しそうで何よりだ。


「……なぁ、転生者と結婚するってどんな感じなんじゃ?」


とノアがノアママに尋ねる。


「別に結婚してるわけじゃないけど、いつも一緒ではあるわね。……まあ転生者って変な人が多いけど、こんな風に案外普通に幸せになれるものよ。」


 これは普通なのか?と僕は思うけど、幻覚男や砂漠の王国よりかはずっと健全な、良い関係であることはわかる。


「転生者は常識も価値観も異なる世界で生きてきたから、お互いに歩み寄る距離がちょっと長いだけよ。やることは何も変わらないわ。サスケだって最初はやんちゃだったわよ。元の世界で好きだった人が、こっちの世界に転生しているんじゃないかって、乱暴な方法で探し続けてたわね。」


と言いながらノアママは佐助の尻をさわさわと撫でる。どういう歩み寄り方をしたらこんな関係になるのだろうか。


「転生者というよりかは、寿命の長い私達魔族が人間と結ばれようとする時は、気をつけた方がいいかもだけど。ほら、私達にとっては、人間なんて子供として生まれて子供のまま死ぬみたいなもんじゃない? たったの百年すら生きられないんだし。私達にとっては短い時間でも、人間のことになるわけだからね。でもまあ、好き同士だったら些細な問題か。」


 ノアママがちらっと僕の方を見て、


「あの子は寿命長そうだし、気にすることはないかしら。」


と言った。


 ノアもつられて僕の方を振り返り、


「あ……お前、戻っておったのか! 早く言わぬかっ! あ、あいつは別に関係ないのじゃ!」


と何故かは分からないが狼狽うろたえていた。僕はノアママの言葉が、僕にも当てはまるような気がして、それ以外のことを考える余裕がなかった。

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