第72話 砂漠

 僕は尻穴球体にズヌズヌと触手を戻してまたなんの変哲もないネックレスになる。


 ノアは僕を拾うと、何も言わず僕を首にかけて、死体が散乱する部屋を出た。



 ノアが城の中を適当に歩き回っていると、まだ10歳ぐらいの少女を、男5人で輪姦まわしている現場に遭遇する。


 そのうちの一人の男がノアに気付いて、


「おっ! 君はもう初潮を迎えてるかな? 初潮を迎えた女の子は男が望んだらいつでもセックスしないといけない法律があることは知ってるよね?」


 とノアに言う。


「死ね。」


 ノアの右ストレートで男の上半身が消し飛ぶ。


 突然の出来事にきょとんとする他のクソどもを、僕が触手で串刺しにする。クソ団子の完成だ。完成したクソ団子はそのへんに捨てる。


 あのクソエルフは少女自身のために美人になりそうな子供を選んでいたと言っていたが、結局は自分や他のクソ男のためじゃないか。ただかわいい少女とセックスしたいだけじゃないか。


 本当に、何から何まで胸糞悪い国だ。


 吐き気がする。


 ただ、一番胸糞悪いのは、僕にもかわいい少女とセックスがしたいという欲望があることだ。


 ……僕は、こんなカス共と同類なんだろうか?


 ミーナはかわいい。もしミーナがブサイクだったら僕は、あの時、あの村で、ミーナに話しかけることはなかっただろうか?


 ……それは、あり得たかもしれない。


 僕は自信を持って、例えばあの時目が見えずに歩いていたのがブサイクな少女や婆さんだったとしても、声をかけていたとは言い切れない。実際僕は寝たきりのシル婆はあの村に置いてきた。助ける、助けないを見た目だけで選ぶその時の僕は、クソエルフとなんら変わらないカスだ。


 ただ、事実としてミーナはかわいい。かわいいのだがそれは、チンカス教会がせっせと見目麗しい子供を生産し続けた結果だ。


 ……同じだ。僕も、このクソエルフたちも。


 僕は自分の手は汚さず、他のクソロリコンどもの努力の結晶の、おいしいところだけをかすめ取っているだけだ。余計たちが悪い。


 僕がミーナを好きと言うとき、それはこのカス共のような腐った性欲の正当化でしかないのではないか……?


 ノアに吹き飛ばされて下半身だけとなった男を見ながら、僕は思う。


 ――ノアのワンパンで吹き飛ばされるべきなのは、本当は僕じゃないのか?



 ノアは城の地下で、女の子を5歳になるまでまとめて効率的に育てる施設を見つける。


 赤ちゃんたちは小さな籠に入れて並べられ、さながらそこは養鶏場ようけいじょうであった。パイプがそれぞれの籠に伸びて、ラクダか何かのミルクを赤ちゃんの口に運んでいる。


 ノアはすべての子供をアイス球にしてバシュンバシュンとノアの城に向けて射出した。



 子供も含めて砂漠の王国に暮らす人々全員を、殺すか、適当な街に飛ばすか、ノアの城に飛ばし終わる。もうこの国は空っぽだ。


 ノアが最後に指をクイッと曲げると、空に渦巻く雷雲から金の龍が降りてきて、かみなりなのか鳴き声なのかわからないが、耳をつんざく爆音とともに全てを吹き飛ばした。


 砂漠の王国は、痕跡も残さず更地に変わった。


「あ、エルメとサスケがどこにいるか聞き忘れたのう。」


 まあよい、とノアは跳躍して何もなくなった砂漠をあとにする。跳躍で生じた爆風が、空を覆う雷雲を払う。


 けれども、僕の中には胸糞悪さが残り続けた。

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