第71話 砂漠の王

 ハゲの案内で城に入ると、顔の整ったエルフの男が玉座の上で偉そうにふんぞり返っていた。人間の基準では二十、三十代ぐらいの外見だが、エルフだし実際のところは分からなそうだ。


「やあ、君が雨を降らせてくれたのかい? ありがとう。ここまで大規模な魔法は疲れるからね。感謝するよ。」


 イケメンエルフは、さも自分でもできるが、疲れるからやらないとアピールしたい様子だ。本当にできるかどうかはどっちでもいいが、できるならやれよ、と僕は思う。


「この国の近くで子供が死んでおった。あれはなんじゃ?」


とノアが聞くと、イケメンエルフは「子供……?」と首を傾げていた。いちいち動作がムカつくやつだ。イケメンだからそう思うのだろうか?


「……あぁ、もしかして水子みずこのことかな? あれは子供ではないよ。あれは、生まれなかった子供たちさ。」


 ……現に生まれてるからあそこで死んでたんだろ? 何を言ってるんだこいつは。僕とノアは幽霊でも見たっていうのか?


「この国ではね、赤ちゃんは5歳になった時点でこの世に出生したことになるんだ。それまでは、まあ、胎児か何かさ。」


 ……よくわからない話だが、まあそれはいいとしよう。それでそれは、砂漠の真ん中に幼女が裸で息絶えるクソみたいな事態とどう繋がるんだ?


「そのまだ生まれていない子供たちが5歳になった時、大人みんなで責任を持って選ぶのさ。将来美人になりそうな子供と、そうでない子供をね。そして将来美人になりそうな子供だけが無事、生を受ける。そうでない子供は、はじめからいなかったんだ。」


 ……は?


 はじめからいなかったって、子供たちは生まれてきているじゃないか。どうするんだ? 


 ……決まってる。この国の外に、砂漠に捨てているのだ。このクソエルフは。それがあの子供たちだ。


「子供の生き死にを決められるなんて、随分と偉いんじゃの、お前は。」


とノアは吐き捨てるように言う。


「偉い、偉くないの問題じゃない。これは子供たちのためでもあるんだ。ブサイクに生まれた少女の生きる道は、死ぬよりも辛いだろう。そんないばらの道を歩いてほしくないだけなんだ。」


 そんな美醜びしゅうの問題で、5歳まで生きた少女たちの精神はないがしろにされているというのか? あの子たちにとっては、自分が捨てられた理由すら分からないだろう。突然裸一貫で砂漠に放り出され、国にも戻れず、酷暑の中あてもなく歩きはじめた子供たちの気持ちはただ無視されるのか? ブサイクだからというだけで? そんなの自分ではどうしようもないだろ。ふざけてる。


「ひどいやつだと思ったろう。でも、そうじゃないんだ。死んだ子どもたちにはまた、来世がある。僕だってもともとはブサイクだったけど、死んでこの身体になったんだ。みんなにだって来世はあるだろう。今回たまたまブサイクに生まれてしまった運のない人たちに、早めにリセットさせてあげてるだけさ。」


 アホか。そんなものはこのクソエルフの自己正当化に過ぎない。僕も転生者だけど、地球に生まれる前の記憶はないし、ここで死んだらまた転生する保証はどこにもない。ましてや他の人も転生するなんて誰にも分からないはずだ。


 クソエルフは続ける。


「……それにしても、魔族にも君みたいな可愛い子がいるんだね。僕のタイプだ。どうだい、ここで僕と一緒に暮らさないかい? 楽をさせてあげるよ。あ、でも今日みたいな水魔法は禁止させてもらうよ。この国では水が貴重だから、水魔法使いはものすごい権力を持つんだ。だからちょっと、そこは管理させてもらうよ。」


 ノアはふんっと鼻をならし、


「そうか。じゃあ、これをくれてやるのじゃ。」


と言ってクソエルフに向かってネックレスの僕を放り投げた。


 クソエルフはそれを受け取り、


「なんだ、これは?」


いぶかしげに僕を眺める。


「――やれ。」


 ノアの号令とともに僕は尻穴球体から触手をズヌリと出し、驚愕の表情を浮かべるイケメンクソエルフの顔面を殴りつけた。


 クソエルフの頭が挽き肉になってはじける。


 案内してくれたハゲや大臣らしきハゲ達が騒いで逃げ惑う。


 僕は尻穴球体に更に力を込めて触手を何本もビュンビュンと出して、騒ぎ散らすハゲ達の胸を貫く。


 全てのクソ共を永眠させたところで、室内に静寂が訪れた。

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