第70話 砂漠の国

 砂漠のどこかにある小さな王国の前に、ノアは降り立つ。砂漠は果てまで続いて終わりが見えない。広大な砂漠だ。


 僕の身体では気温の変化が分からないが、太陽の自己主張がいつもより激しい気がする。


 次はこの国なのかとぼんやり考えていると、


「いま人が倒れておったようじゃ。ちょっと戻るぞ。」


と言ってノアは砂を巻き上げながらジャンプして、数キロほど王国から離れた場所に着地する。


 そこにはまだ5歳かそこらであろう幼女が3人倒れていた。全員服すら着ていない。


 ノアは子どもたちを抱き上げて、


「……全員もう死んどる。」


と言って眉間にしわを寄せる。明らかにノアはキレている。


 なんで砂漠のど真ん中で、こんな小さな子供が死んでるんだ? 見える範囲に国があるのに? しかも3人もだ。誰も気づかなかったのか?


 ノアは魔法陣を展開して、


「安らかに眠れ。」


と呟いて、その幼女たちの死体を骨まで焼き尽くした。


 ノアはあたりをキョロキョロと見回す。


「……あれもそうじゃな。」


 遠くを指差すノアが示す先には豆粒のような影があり、よく目を凝らすと確かに人のようであった。


 そこには同じく5歳ぐらいの幼女が1人行き倒れていて、まだかろうじて息があった。


 ノアが抱き起こすと、かすれた声で「……み…ず…」と絞り出す。


「悪いの。わらわにできる水魔法はこれだけじゃ。」


 ノアがパチンと指を鳴らすと、空に巨大な魔法陣が描かれた。


 辺り一帯に暗雲が立ち込めて、分厚い雲の層を形成する。


 そして、土砂降りの雨が砂漠の大地に降り注いだ。


 上を見ると空を覆う雲の中を、いかづちで出来た金色の龍が泳いでいる。


 ……なんだこのアホみたいな魔法は。ノアのことだし、本当はあの龍で攻撃する魔法なんだろうか? さすが魔王だ。スケールが違う。


 幼女は、金魚のように口をパクパクさせて雨水を飲む。


「……あり……が」


と言ってノアの腕の中で幼女は意識を失った。


「ここもまともな国ではなさそうじゃのう。」


 ……同感だ。


 ノアは気絶した幼女を氷の玉でくるんで、転移魔法で射出した。


 それ、大丈夫なのか?幼女生きてるか?と心配になるが、


「細かいところは向こうでマミーが良きに計らってくれるのじゃ。リンもいるし大丈夫じゃろう。」


とノアは言った。



 砂漠の王国の中に入ったノアは、常に旱魃かんばつに悩まされるこの地に雨を降らせた恩人として歓待された。


 トントン拍子で話が進み、国王直々に礼がしたいということで城に呼ばれるほどだ。


 そんな訳でノアは、使者らしきハゲたおっさんの案内のもと、国王に会いに城に向かった。

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