第68話 あり得た理想郷
「まあ、お茶でも振る舞おう。こっちに来なさい。」
とジジイが言って、ノアは裸の少女たちに車椅子を押されるジジイの後に続いた。
植物園の一画に
十代半ばぐらいの少女が紅茶を入れる。その子も裸で、薄っすらと毛が生えた陰部を、さも当たり前かのように露出させていた。胸も他の少女と比べて膨らんできている。少なくともノアよりは大きい。
こういう少女がここに残ることを選択した少女なのだろうか?
ここにいる少女たちはクルルと正反対だな、と僕は思う。クルルは自分の可愛さを十分に知っていて、どうすればより魅力的に見えて男を悩殺できるかを心得ている。そういう意味ではミーナは、この少女たちに近いのかもしれない。
「じいさん、あんた転生者じゃろ?」
と紅茶を
「いかにも。それがどうかしたかのう?」
「別に。転生者にも色んなやつがおるなと思っただけじゃ。」
「……この世界は良い。自分の欲望に忠実になれる。」
ジジイは昔を思い出すように遠い目をして言う。
「もう
……よく分からないが、つまり少女の裸が見れて嬉しいなってことか? とんでもないド変態ジジイじゃねーか。どこが枯れ果ててるんだ?
裸の少女のうちの一人が、遠い目をするジジイの頭を「いい子、いい子」と撫でる。ジジイがその少女に、
「
と言う。
その少女は「わかった!」と言って机の上にあるティーカップを手に取ると、座り込んでティーカップに放尿を始める。
「小便は大地の養分じゃ。この枯れた老人にとっても養分なのじゃ。」
とド変態ジジイはノアに説明するように喋る。
少女はおしっこで満たされたティーカップに角砂糖を一つ入れるとジジイに渡して、ジジイはそれをクイッと飲み干した。
「ぷはっ。やっぱこれじゃのう。」
ぷはっじゃねえよ、と僕は思うが、僕も似たようなことはやっているし気持ちはわかるので何も言えない。
このド変態ジジイは少女をどうにかしたいという性欲もなく、ただ裸を眺めておしっこを飲むぐらいで心の底から満足なのだろうか? だとするとこれは、僕のこの身体でも実現できる一つの理想郷かもしれない。僕はこのような箱庭を創りたいだろうか?
――いや、そうは思はない。
僕は少女たちにはすくすくと育ってほしいし、彼女たちの可能性や夢を制限するようなことはしたくない。少女たちの一生をこんなド変態ジジイや僕のようなカスのお世話で終わらせたくはない。
魔法使いとしてでも、あるいは料理人としてでもなんでもいい。彼女たちがそれぞれの夢を持ち、それを実現していってほしいと僕は願う。
僕は「私もネックレスつけたい!」と言う少女たちの乳首をたらい回しにされながら、帰ったら早速ミーナに将来何になりたいのか聞いてみよう、と決意する。
「前に来たエルメとサスケが、今どこにいるか知っておるか?」
とノアはド変態ジジイに聞く。
「ふーむ。分からんのう。ふらっと来てふらっと去っていっただけじゃからのう。」
「そうか、じゃあもうここに用はない。」
おもむろに立ち去ろうとするノアを、
「待ちなされ。」
とジジイが引き止める。
ジジイはひと呼吸置いて、ノアがちゃんと耳を傾けていることを確認しながら、
「……あの二人は、それは楽しそうにそなたへの手紙を書いておったぞ。」
と言った。
そうか、とノアは誰に向けてでもなく
「世話になった。茶、うまかったぞ。」
とノアは言い残して、僕を掴んで飛び立った。
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