第6章 少女王国

第67話 ジジイの箱庭

 ノアのひとっ飛びでたどり着いた先は森に覆われた小さな島で、島の真ん中にはお屋敷が一つひっそりと建てられていた。


 島の周りに他の陸地は何もなく、俗世から隔絶された空間であることが分かる。


 ここにノアの両親がいるのか?と考えていると、


わらわの母上は面白い場所を見つけたときに、それを手紙にしたためてわらわに送っておった。もうその場所にはおらんじゃろうが、母上が行った場所から、次に行きそうな場所の予測を立てて探し出すのじゃ。」


とノアは僕に行って、お屋敷に向かって歩き出した。


 確かに、ジャンプするだけでこれだけ遠くに行けるんだから、手紙の場所の近くにいるとかは期待できないだろう。



 お屋敷の中に入ると、そこはまたもや森だった。


 なんだこれ、屋敷の意味ないじゃんと思ったが、よくよくみると小川が流れ、外の森に生えている木とは異なった南国風の木が生い茂っていた。見るからによく手入れされており、植物園に迷い込んでしまった感覚を覚える。


 すぐそばの草の茂みから、がさりと音がした。


 動物でもいるのか?と思って音がした方向をみると、茂みの中から少女が顔だけのぞかせて、目をぱちくりさせてこちらを見ていた。そばかすのある活発そうな少女だ。


 ノアが「おい」と声をかけると、少女は脱兎だっとのごとく逃げ出した。


 ノアが茂みをかき分けて追いかける。走り去る少女の小さなお尻が見える。少女は一糸まとわぬ、生まれたままの姿だった。


 なんで裸なんだ? 森の妖精か?


 その裸の少女は、陽だまりで本を読む車椅子の爺さんのもとへ走り寄った。


「ナボ爺! お客さん!」


とその少女は言う。少女は自分が裸であることを微塵みじんも気にしていない様子だった。どこも隠そうとせず、照れもせず、あるがままの姿を晒していた。


「おや、またかい。珍しいのう……ふむ、この間の魔人と転生者の面影がある。娘さんかい?」


と車椅子のジジイは言う。


「その客人とやらがエルメとサスケのことを言っとるんじゃったら、そうじゃ。」


 ノアが答える。多分転生者の方がサスケなんだろう。忍者のような名前だ。


「お客さんだ!」

「ほんとだ!」


と言いながら、どこからともなく裸の少女が何人も集まってきて、ノアの周りをうろちょろし始めた。


 ノアはネックレスとなった僕を、少女の一人の首にかける。その少女は花が咲いたように笑って、「ありがとう!」とノアに言った。


 待て待て。


 僕を勝手にあげるんじゃない、と僕は思うが、少女の乳首が僕の球体にあたるので良しとした。


「ここはなんじゃ?」


とノアがナボ爺と呼ばれたジジイに聞く。


「ここはわしの箱庭じゃ。わしは性の対象として見られることを意識しない少女の振る舞いが好きでのう……。こうして少女たちと幸せに暮らしておる。」


 本当に幸せなのか? 確かに少女たちは裸であることを除いて普通に生活しているようだし、不幸そうには見えない。


「この箱庭の決まりは簡単じゃよ。この島の中で裸で暮らすこと。それ以外は何をしても自由じゃ。」


とナボ爺は言う。


「成長した少女はどうなるんじゃ?」


とノアが聞く。


「外に出るか、ここに残るか選ばせておるよ。じゃが、今のところ全員が、自分たちの意志でここに残ることを選択しておる。ここに残ったら少女の世話係や庭の手入れをやってもらっとるのう。」


とジジイは自分の髭を撫でながら答える。


 ……それはそうだ。この箱庭しかしらない少女たちに、ここに残るか外に出るか聞いたら、ほとんどがここに残って変わらない生活を送ると答えるだろう。


 だが、果たしてそれは自由意志に基づく選択なのだろうか?


 知識も経験もない少女が行う選択は、その少女の選択として尊重されるべきものなのだろうか?


 このジジイが、ここに残るという選択しかとれないように誘導しているだけではないのか?


 ……。


 ……これは僕にも当てはまる。


 ミーナが僕を好きだとすると、その好きは僕しか知らないからじゃないのか?


 選択肢が一つしかないときに選ばれた僕への好意は、それは恋愛と言っていいのだろうか?

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