第62話 収納

 次の日ノアに呼ばれて城の中で一番でかい部屋に向かう。


 僕の記憶ではその部屋は、無駄に広々とした部屋の中央に、ぽつんと1つ仰々ぎょうぎょうしい椅子があるだけだったはずだ。魔王が勇者を迎え撃つためだけに存在する部屋とマミーから聞いて、なんて無駄な部屋なんだと思ったのを覚えている。


 ところがその無駄部屋の中に入ると、広々とした空間は影を潜め、巨大な蜂の巣が隙間という隙間を埋め尽くしていた。


「どうじゃ、すごいじゃろ。この穴に女どもを入れると良い。栄養も供給してくれるから死ぬこともなかろう。」


とノアがふんぞり返って自慢する。


 マミーが補足説明してくれて、どうやらこの蜂の巣は元々生物を食べる植物だったらしい。それをマミーが魔改造して蜂の巣にしたそうだ。植物がどうやったら蜂の巣になるのかよく分からないが、さすがマミーだ。


「その植物はね、胎盤のような器官を持っているの。捕まえた餌をぶくぶくと太らせて貯蔵しておくのよ。」


とマミーはなぜか楽しげに説明していた。


 眠り姫たち全員が、目が覚めたらいきなりデブになっていたとか暴動でも起きそう気がするが大丈夫なんだろうか。


「今は生命維持ぐらいにセーブしてあるけどね。」


とマミーは言うが、心配だ。


 それから、僕とミーナとクルルの3人で、眠り姫たちをすぽすぽと蜂の巣の穴に収納していく。実際に泊まったことはないけど、カプセルホテルってこんな感じなのだろうか。


 日が暮れ始めるころ、ようやく全員の眠り姫たちを巣に収めきった。


 僕は部屋を埋め尽くす蜂の巣を、椅子に座って眺める。


 裸の女性たちが小さな箱に収まって並べられる様子は、昆虫の標本を想起させた。蜂の巣が勝手に服を溶かしてしまうので、裸なのは仕方ないのだ。


 それにしてもこの部屋、悪の秘密結社のようなおもむきになってしまった。どうみても人造人間を作るラボか何かである。


 ミーナが疲れ果てて、僕の股の間に挟まって眠りにつく。ミーナの頭が僕の鎧の股間にきて、ちょっと恥ずかしい。


 それをみたクルルが、ずるい!と言って僕の膝の上に乗り、股間をすりすりしてくる。


 まあ、二人とも頑張ったしなぁと思っていると、急に部屋の扉が開け放たれた。


「お前が魔王か! ――ッな! 女性たちになんて非道な仕打ちを……。幼い少女までもはべらせて……勇者として見逃せないッ! お前は私が殺す!」


と何か熱いセリフを言いながらショートヘアーの女性とその他二人が乗り込んできた。


……魔王って、僕のことか?


 これはまさか魔王を殺しに来た勇者パーティーか?こんなところまで知らぬ間に勇者パーティーの侵入を許すなんて、この城のセキュリティはどうなってるんだ。門番とかいないのか?

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