第56話 毒リンゴ

 ミーナと芳香剤が部屋に入ってくる。ミーナ、こんな真夜中なのにまだ起きていたのか。


「ドゥティ、また考えすぎてない? 大丈夫?」


とミーナが僕の顔を覗き込んで言う。この顔は鎧だし僕に表情とかはないけど、ミーナは僕の心の機微きびを結構読み取る。


 そんなミーナが言うのだから、僕はまたミーナを心配させるようなことをしていたのだろう。


「さっきもここに来たんだけど、ドゥティ、私が来たことにすら気づいてなかったよ。」


とミーナは口を尖らせる。それは申し訳ないことをした。本当に気づかなかった。


 それで、二人してどうかしたのか?と思って芳香剤の方を見ると、


「ミーナちゃんの案で、これを作ってみたわ。」


と言って芳香剤は僕に何かを投げてきた。


 キャッチしてそれを見ると、リコの実だ。僕とミーナが仲良くなったきっかけでもある。懐かしい。


「そのリコの実には食べた人を長い眠りにつかせる魔法をかけてあるわ。今はあの女性たちを治療する方法がないけど、とりあえず眠ってもらって、一緒に治療法を探しましょう。」


と芳香剤は言った。


 ……その手があったか!


 僕はすぐに治るか殺すかという極端な二択しか頭になかったが、確かに言われてみるとそんな道もある。とりあえず先延ばしにするのだ。


「ドゥティ、一人で抱え込まないで、少しは私にも相談してよね。」


とミーナが言う。ミーナにしては珍しく、ちょっと怒って頬を膨らませている。


「コメン」


と僕は謝る。


 こんな名案を思いついたミーナに感謝だ。もうミーナはとっくの昔に、守ってもらうだけの存在ではないんだなと実感する。自分の意思で女性達を救おうとするし、自分の意思で牧師のキンタマだって潰す。立派な一人前の女の子だ。世界を幸福にするためだけにばらまかれた装置のうちの一つなんかでは決してない。


 僕がミーナの頭を撫でいると、


「もちろん、私に相談してくれもいいわよ。」


と芳香剤がいう。優しい。早速だが芳香剤にはお世話になろう。


「この毒リンゴをまずは200個、明日までに欲しい」と粘土板に書いて芳香剤に見せる。


「200個!? 明日ってもしかして、朝までってこと!?」


と芳香剤は言うが、


「まあいいわ。任せてちょうだい。なんとかするわ。」


と結局了承してくれる。さすが芳香剤だ。チョロ……頼りになる。


 僕がミーナを抱き上げると、ミーナは僕の顔を真っ直ぐみて言う。


「ドゥティ、やっちゃおう!」


 力強い目だ。本当に、いつの間にこんなに成長したのやら。


「ドゥボ!」


 僕は答える。


 始めよう。あのクソッたれの教団を全て残らずぶっ潰すのだ。

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