第52話 ソルドムの教会

 大樹ハウスに帰ると、マーラーからもらった金貨1000枚と、廊下からくすねてきた壺を芳香剤に渡して「あとは任せた」と伝える。


「え、壺が褒美なの? これ本当にもらったもの?」


 と芳香剤はいぶかしむが、「国王はそういうやつたっだ」と適当に答えて納得させた。


 この家から持っていった鞘だけの模造刀も、城の壁に飾ってあったもっと高そうな剣とすり替えておいたのでそれも渡すと、


「なんか色々もらったのね……。」


と言っていた。これでしばらく食料には困らないだろう。フェンが食べ過ぎたりしなければ。


 フェンは日に日に尻尾にくっつけているリボンの量が増えている。子供達が遊び半分でつけているんだろうが、フェンも喜んでいる様子なのでそっとしておく。


 僕はそのままフェンにぶん投げてもらってソルドムの街へミーナと二人で向かった。ザァメンは一人で行けと言っていたがそんなものは知らない。僕とミーナはいつも一緒だった。これからも一緒なのだ。


 落下地点から昼夜休まず走り抜き、3日もかからず目的地へ到着した。



 ソルドムは、街の外から覗き見る感じなんの変哲も無い街だ。


 巨大なタコの魔物に支配されているわけでも、転生者であふれかえっているわけでもなさそうだ。海に面しているため海運が盛んそうで、大型の船が何隻も止まっていた。確かに、他の街よりも商人が多く散見される。


 街の奥まったところに教会らしき建物が見える。あれがザァメンが言っていた教会か。外装はいたって普通の教会だが、転生者を神として崇めてでもいるのだろうか?


 僕たちは冒険者ギルドカードを見せて街の中に入ると、すぐさまその教会に足を向けた。


 ずかずかと教会の中に押し入って行くと、牧師が膝をついて祈っているところに出くわす。


 その牧師は荘厳な雰囲気を漂わせながら、


「神よ、種の終端点、童貞に救いの手を差し伸べたまえ。」


と祈りの言葉を捧げていた。窓から差し込む光が牧師を照らし、絵画にありそうな情景になっているが、捧げている聖句はなかなかのものだ。どの世界にもいろんな宗教があるものだな、と僕は思う。


 僕はそのおごそかな雰囲気をぶち壊して、「ザァメンからの紹介できた」と書かれた粘土板をその牧師の前にずいっと出した。


「おぉ、ザァメン様の。とするとあなたも転生者で?」


と聞かれるので、「そうだ」と粘土板に書き足す。


 牧師はミーナを一瞥いちべつすると、


「あなたもザァメン様と同じ聖少女神の恩恵にあずかる方でしたか。」


と僕に向かって言った。何言ってるんだこいつ?とは思ったが、宗教っていうものはそういうものなんだろうと適当に相槌を打っていると、


「転生者のあなたならば当施設を無料でご利用いただけます。どうぞこちらへ。」


と牧師は僕たちをどこかへと先導し始める。僕とミーナはそのあとをついていった。


 僕の肩のウザ鳥には何の反応もない。ザァメンが僕に見せたかったものが何なのかまだわからないが、クソ魔法陣とは無関係で、転生者に関する何かなのだろうか?

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