第51話 転生者

 ザァメンの連れる少女のうち一人はおそらく目が見えていないし、もう一人もぱっと見ではよくわからないが、何かしらの異常があるだろう。治す必要がないはずがない。そもそも治す治さないは本人ならまだしも、ザァメンが決めることではない。


 こいつは何を言っているんだ?


「なぜ?」と粘土板に書いて見せると、ザァメンは、


「彼女たちは俺が守る。だから治す必要はない。」


と答える。後ろの少女二人もコクコクと頷いていた。


 意味がわからない。そういう問題ではないだろう。この少女たちは本心から同意しているのか?


「守るんだったら治した方がよくないか? 脳みそまでザーメンなのか?」と書くと、ザァメンは急に笑い出した。


「あっはっは! そうか、ドゥティ、君も転生者なのか! 俺たちは仲良くなれそうだ。」


とザァメンが言う。


 転生者……だと?この世界に来てから初めてその単語を聞いた。まさかこいつも転生者なのか?そしてなんで僕が転生者だと分かったんだ?


「ザーメンという単語はこの世界にはないんだよ。俺の名前に反応するのは転生者だけさ。俺が見つけただけでも君で5人目だ。」


 ミーナとクルルがキョトンとしている。転生者の意味を掴みかねているのだろう。ただ僕にだけは完全に通じている。


「君も転生者ならソルドムの街の教会に行くといい。僕の紹介だと伝えれば全て伝わるだろう。あ、一人で行くことをオススメするよ。」


と言ってザァメンはきびすを返して立ち去って行く。最後に、


「また会おう、ドゥティ……いや、ロリイーターくん。次会う時に君がどういう男になっているかが楽しみだよ。」


と言い残して巨大な門の向こうへと消えていった。


 一体なんだったんだあいつは?


 僕と同じ転生者ならもっと色々と話を聞きたかったし、転生者は僕以外に少なくともあと4人もいるのか?そいつらは今どこで何をしているんだ?


 それに最後にザァメンは僕をロリイーターと呼んだ。確かに色々と噂になっているようだが、すぐに僕とわかるようなものだろうか?


 そして結局なんで少女たちを治すつもりがないんだ。


 確かにたとえ目が見えなかったりしても、本人がそれを受け入れて満足しているならば、それはそれで一つの個性と言えなくもない。なんの欠損もない体こそが絶対的に正しく、みんなそうあるべきだ、と僕も思っているわけではない。


 それとも僕は彼女たちをさらってでも無理やり治療するべきだろうか?


「ガッハッハ。二人とも気が合いそうでよかったわい。」


というマーラーの馬鹿でかい声で僕の思考は中断される。転生者という点では共感するものの、今のところ気が合いそうとは思えないが。


「ソルドムの街ってどこにあるんだ?」と粘土板に書いてマーラーに見せると、


「ここから馬車で10日ほど南の、海沿いにある街だな。塩の名産地だ。」


 ここからそんなに遠くはなさそうだ。


「この国に、身体機能を欠損された少女たちがばらまかれている。何か知っているか?」とも聞いてみる。


「ほう、そんなことが。悪いが初めて聞いた。」


 こいつも知らなかったか。それならもう国王に用はない。「何か手を打った方がいいぞ」とだけ書いて見せて、僕たちは褒美として金貨をもう1000枚もらって大樹ハウスへと帰った。


 帰りがけに「てんせーしゃってなあに?」とミーナが聞くので、「違う世界からきた人のことだ。僕もそうだ」と書いて答えると、ミーナは目をキラキラさせて違う世界のことをあれこれ聞いてくるのであった。

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