第3章 人さらい

第32話 始動

 ミーナの目が見えるようになったところで僕らは街を歩く。


 道沿いの屋台ではフルーツが売られていて、ミーナが「これは何ですか?」と聞くと、屋台のおっさんは「これはリコの実だよ」優しく教えてくれる。


「これがリコの実! こんな色だったんだ!」


とミーナは目を輝かせる。僕はついでに粘土板に「リコの実」と書いてミーナに見せて、字の勉強も兼ねる。


 特に何も買う予定はないけど武器屋や防具屋を周り、特に入団するつもりもないけど冒険者ギルドにもいく。いわゆる冷やかしというやつだ。


 何を見てもミーナは感動している。路地裏に生える雑草にも感動していた。


 こうして一日中一緒に街を回るなんてまるでデートみたいだなと思ったが、よくよく考えると僕はデートをしたことがなかったのでこれがデートと言えるのかどうかはよくわからなかった。


 日が暮れる前に僕たちは芳香剤の家に戻る。あれからなんだかんだでこの家に住まわせてもらっているのだ。


 芳香剤はいつも本を読んだり実験したり研究者のような生活を送っている。僕は魔力を融通したり必要な材料をその辺から狩って持ってきたりしてお手伝いしている。


 家に住ませてくれて、その上ミーナに魔法や文字を教えてくれているのだ。このぐらいお安い御用である。ついでに僕の体に吸収させてゴミ処理もやらされるが問題ない。


 ちなみに芳香剤は魔道具も作れるようで、僕の山賊の籠手こてを使ったお手製発声器をちゃんとしたものに変えてくれた。そのおかげで今の僕はカ行とマ行も発音できる。これでようやくミーナと呼べるのだ。芳香剤には足を向けて寝られない。


 大樹ハウスに帰ると、芳香剤が「頼まれてたものができたわよ。」と言って鳥の形をした木彫り人形を渡してくる。よし、ついに完成したのか。


「それなあに?」


とミーナが聞く。


「これはミーナちゃんにあったような魔法陣が周囲で発動していると、音で知らせてくれる魔道具よ。」


と芳香剤が答える。僕は「アヒカホウ」と芳香剤にお礼を言ってその鳥を鎧の肩にくっつけた。もうちょっと目立たないデザインにはならなかったのだろうか。


 次の日その鳥を肩に乗せて街に行ってみると、孤児院の近くで鳥がゲヒョーゲヒョーゲヒョーと鳴き出す。予想外に大きい鳴き声でしかも止め方がわからず難儀なんぎした。


 ミーナに孤児院の中をみてきてもらうと、当たりだ。


 声を失った幼女を発見する。


 まだ5、6歳だろう。ミーナが孤児院の院長に話をして、リンの名前を出すとすぐに治療に快諾かいだくしてくれる。この街でリンは有名人だ。


 高速移動モードは使わず人間のように徒歩で大樹ハウスまでその子を連れて行き、治療して翌日孤児院に返す。


 院長は涙を流して感謝したが僕は「礼ならリンに」と書かれた粘土板を見せて立ち去る。


 この調子だ。どんどんいこう。

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