第29話 始まりの光

 宿に朝日が差し込み、ミーナが目を覚ます。


「おはよー、ドゥティ」

「オハオハ」


 ベッドから這い出るミーナの、太ももがあらわになる。僕はさっと目をそらした。


 今日は約束の三日目だ。


 宿屋の朝ごはんとして出てきたパンとスープを食べ、僕らは芳香剤の家に向かう。ミーナは僕に何か色々と話しかけてくれていたが、あまり耳に入ってこなかった。



 芳香剤の家の床には、一面に魔法陣が描かれていた。なかなか荘厳だ。


「魔力タンクとしての魔石がちょっと足りないのよ。ドゥティ、あなた相当な魔力持ちみたいだからちょっと手伝ってもらってもいいかしら?」


 と芳香剤が言う。当たり前だ。なんだって手伝おう。


 芳香剤は魔法陣の中心にミーナを寝かせる。


「じゃあ、始めるわよ。」


 芳香剤が詠唱を始めると、魔法陣の中心から光が広がる。魔法陣の線上から光の粒のようなものがパラパラと舞い上がる。


 芳香剤のひたいから汗が流れた。相当集中している様子だ。


 芳香剤は突然床にペッと唾を吐くと、


「それを舐めて! そうすれば私との間に魔力のリンクが繋がるわ!」


と言った。


 舐めると言っても僕には舌がないので、その唾を触手で吸収する。唾を吸収した触手の先っぽから、段々と熱が広がって僕の全身を覆う。


 あぁ、これが魔力か、というのが実感でわかる。完全に感覚であるが、これを芳香剤に渡せる気がする。ぶにぶにしたクラゲを投げて渡すイメージだ。試しに渡して見ると、芳香剤は「いいわ、その調子」と答えた。


 魔法陣の光が強まるのに呼応して、ミーナが苦しみ始めた。うぅぅううと呻き声をあげて、歯を強く噛みしめる。熱い、熱い!と叫んで自分の胸をむしる。


「ミーナちゃん、頑張って! もう少しよ!」


 芳香剤が声をかける。


 ミーナ、頑張れ!


 僕の体からごっそりと魔力が抜けていった感覚がした後、魔法陣の光が徐々に収まっていった。


 ……終わった、のか?


 僕の魔力量的にはまだ余裕がありそうだが、終わったのだろうか?


 芳香剤の方を見ると、ぺたんと床に座り込んでいる。汗だくだ。


「無事に終わったわ。」


と彼女は言う。


 僕はミーナの元に走りよった。ミーナはゆっくりと目を開けて僕をみる。


「ドゥ……ティ……?」


 ドゥボと僕は答える。ミーナ、よく頑張ったね。


「あはは、ドゥティだ……ドゥティだ……」


と力なく笑って、ミーナはそのまま気絶するように眠りについた。

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