第27話 魔女に会う

 大樹というだけあって魔女の家はすぐに見つかった。


 その大樹は僕が目一杯触手を伸ばして届く高さの2倍ぐらい高かった。つまり2ドゥティの高さだ。


 木の幹にはドアがついており、妖精が住んでいそうなメルヘンチックな雰囲気を漂わせている。心なしか木漏れ日が暖かい。


 ワイバーンの屁の臭いを漂わせたこんな僕がこの妖精空間を汚してしまってもいいのだろうかという罪悪感を覚えるが、こちらにはミーナという妖精がいるのでプラマイゼロだろう。


 僕は意を決してドアをノックする。


 静かにドアが開かれ、中から顔を出したのは魔女というイメージからは程遠いエルフであった。長い透き通るような金髪を後ろで束ねている。多分あの髪の毛を1束お部屋に置いとけばいい芳香剤になるだろう。それでミサンガでも作ったら僕の臭いも消えはしないだろうか。ちなみに胸は2分の1マミーといったところだ。


「どうしたの?」


と芳香剤が聞くので、僕は慌てて粘土板に「ノアからの紹介で来た。この子を助けてほしい」と書いて見せた。


「ノアの? とりあえず入って。中で詳しく聞かせて。」


と言うので僕はミーナの後ろからコソコソと家に上がった。食パンを侵食するカビってこんな気分なんだろうなと思った。密室で僕と一緒なんて大変申し訳ない。


 芳香剤は僕とミーナに椅子にかけるように言って、自分はハーブティーを淹れ始める。僕はその間に粘土板にミーナの魔法陣のことや、何か解除方法がないかという話を書き込んだ。


 ミーナは「あ、あの、わたしミーナって言います!」とまだ芳香剤が戻って来てないけど自己紹介を始める。


 芳香剤は机の上にハーブティーを置いて、


「初めまして、ミーナちゃん。私はリンよ。よろしくね。」


と言った。ミーナの声は聞こえていたようだ。この流れに乗るしかないと思って僕も「ドゥヌチィ、ドゥヌチィ」と自己紹介する。


「ドゥヌチィね。あなたも初めまして。」

「ドゥティって名前なの。上手く喋れないの。」


とミーナがフォローしてくれる。


 僕は粘土板を芳香剤に見せると、


「……ミーナちゃんで21人目ね。」


と呟いた。


 何が21人目なのだろうか。もしかして魔法陣で目が見えない人が、なのか?


「とりあえずその魔法陣を見せてちょうだい。なんとかなるかもしれないわ。」


と言って芳香剤はミーナの手をとり別の部屋に行く。僕はその間「21人目」の意味について考えていた。


 まさか文脈的に今日この家を訪れた人数が21人だと言うわけではなかろう。あれはやはり魔法陣で盲目にされて、芳香剤が治療した人が21人目という意味だろう。他に20人もいたのか?しかもここに来た人が20人というだけで、もっと大勢いる可能性が高いだろう。ますます意味がわからない。誰が、なんのために?


 芳香剤がミーナを連れて戻って来る。ミーナが、


「ドゥティ! わたしの目、見えるようになるって!!」


と喜びのあまり大きな声を出すので、僕は心の底から安堵する。ミーナ、君は幸福な道を歩くべきなのだ。今までの分も取り返して、幸せの限りを尽くすのだ。


「3日後にまたきて。準備をしておくわ。」


 解除できるのか?と粘土板に書く。


「完全な解除ではないけど、ほぼ無効化できるわ。この魔法陣は人体から魔力を奪う魔法陣と、その魔力を使って視力を奪う魔法陣の二段構造になってるの。視力を奪う方は解除できるけど、魔力を奪う魔法陣は根が深くて難しい。だから奪った魔力をそのままミーナちゃんに還元するように修正を加えるわ。」


 そんなことができるのか。魔法は奥が深いようだ。


 僕は自分の予想が外れることを期待しつつ、「21人目ってどういう意味だ?」と書いて見せる。


「……これとよく似た魔法陣で身体機能に欠損を加えられた子供の数よ。視力を奪われた子もいれば、足が動かない、記憶が1日しか保たないという子もいたわ。」


 僕は衝撃を受ける。どこのゴミクズがそんなことをしているんだ?魔法の実験か何かか?どんな理由であったとしても許されることではないはずだ。


「10年くらい前から始まって徐々に増え続けているわ。ほとんどが女の子。たまに男の子もいるくらい。全員が子供ということは共通してるわ。」


 ……よし、わかった。別に僕は自分が正義を代弁するつもりは毛頭ないが、ミーナから光を奪ったこと以外にもそのゴミクズを殺す理由ができたようだ。


「どうやってあの魔法陣を解除するのか考える方が先じゃないかの?」というノアの言葉が頭を過ぎる。


 僕は先に子供たちを助けるべきなのかもしれない。僕は何様だ?ヒーローか何かなのか?と同時に思うが、これは助けたいという僕の正直な気持ちでもある。そうだ。僕はもっと気持ちを中心に置くべきなのだ。


 だがこれは想像以上に大規模だ。僕が子供を助けている間にその10倍の不幸な子供たちが量産されていたら意味がない。元を断つ必要がある。

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