第26話 街に入る
街には思ったよりもすんなりと入れた。
街の前には門番が二人いて、僕は粘土板に「冒険者だ」と書いて見せた。この子の親を探して旅をしているんだとミーナを指差すと、門番が勝手に何かを察して街の中に入れてくれた。多分ミーナの可愛さのおかげだろう。
ただ別れ際に「お前臭うから早く体を綺麗にした方がいいぞ」と親切心から忠告されたのは地味にショックを受けた。
街の中に入ると、
「わぁ、色んな音がする! 知らない匂いがする!」
とミーナがはしゃぐ。さっきまでノアやマミーと別れて泣きそうだったのが嘘のようだ。
ちなみにノアは僕より先にミーナにも魔法陣のことを話していたらしい。自分の目が見えない原因が人為的なものだったとわかってもミーナは普段と変わった様子はない。しかしそれはそう見えるだけかもしれない。実際のところミーナはどう思っているのだろうか?
「ドゥティとこうやって街を歩けるって、夢みたい!」
とミーナは感極まっている。
夢じゃないんだよ、ミーナ。僕はミーナの頭を撫でる。それを言うならこうして人間のようにミーナの頭を撫でることができる今の僕の状況の方が夢のようだ。
僕は調子に乗ってミーナを持ち上げ肩車する。ミーナはわっと驚いてえへへと笑う。しかしすぐに「鎧のトゲトゲが痛いよ……」と言われてしまうので下ろす。うまくいかないものだ。
それにしてもこの街は、今まで遠巻きに眺めた街の中でも一二を争うほど栄えている。
大通り沿いには食事処が何件も並んで焼いた肉の匂いを撒き散らし、武器屋や冒険者ギルドらしき建物には物々しい雰囲気の奴らが出入りしている。
街の中心には巨大な教会を建設中なようだ。建材をエッサホイサと運ぶむさ苦しい男どもがいる。あいつらも僕に負けず劣らず臭いんじゃないだろうか。
まずは宿屋を探そうとしたところでふと気がついた。お金、持ってないな……。
「ヌェチャ、オハネ、ホッヘフ?」
「お金? マリーがこれをくれたけど、いくらあるのか分からないや。」
と言って小袋を取り出す。中をのぞいて見ると、金ピカのコインがジャラジャラと入っていた。僕もよく分からないが、結構な額なんじゃなかろうか?しばらくお金の心配はしなくて良さそうだ。ありがとうマミー。
宿屋を見つけたので、女性3人の冒険者チームがその宿屋に入るタイミングで後ろに続いて僕たちも中に入る。別にストーキングしているわけではなく、先に支払う様子を見て宿屋の値段を知りたいのだ。
女3人は2泊で銀貨を1枚出していた。これなら僕たちも泊まれそうだ。銀貨よりも金貨の方が安いということはないだろう。
僕らもとりあえず二泊お願いするついでに、「魔女について知っているか?」と粘土板に書き込んでいると、ミーナが
「あ、あの、魔女さんがどこにいるか知っていますか?」
と宿の受付のお姉さんに聞く。
「魔女? あぁ、リンさんのことかな。リンさんならこの街の北にある大樹に住んでるよ。この街の人はみんなリンさんにお世話になってるからね。」
とお姉さんが答えると、ミーナはパァっと笑って「ありがとう!」とお礼を言った。
僕たちはドブの臭いとかワイバーンの屁の臭いとかヒソヒソと話をする女3人冒険者を背にして北に向かった。
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