第25話 転移魔法

「はい、これも、これも。これも持っていって。」


とマミーがミーナに替えの洋服をこれでもかというほど渡す。あたふたと大量の洋服を受け取るミーナは、真っ白な汚れひとつないワンピースに身を包んでいる。


 一方で僕は、至る所にドクロをあしらってトゲトゲしているクソダサいプレートアーマーに身を包んでいる。今時中学生でもこんなデザインかっこいいと思わないだろう。しかし頭も含めて全身おおえるので重宝する。ノアからもらったのだ。とどめにミーナからもらった冠を頭にのっけている。


「この魔法陣の上に乗れば転移できるのじゃ。向こうに着いたら魔女を探せ。あいつは人とも交流があったから街にでも行けばヒントがあるじゃろ。」


とノアが言う。


「ミーナちゃん、寂しくなるわぁ」


とマミーが言う。


 僕は?と思うがミーナがぐすりと鼻をすすって今にも泣きそうなので、水を刺さないように黙っておく。


 クソダサアーマーとはいえ人っぽい姿にもなれたし、粘土板と棒切れももらった。一応人として意思疎通はできるだろう。


 城に来てからも魔法を使った発声練習はおこたっていなくて、ナ行と「ン」は発音できるようになったが、初対面の人にはまだ使い物になるレベルではない。


「ノア、ホンホウニアヒハホウ」

「何言っとるのかわからんのじゃ。礼なら全部終わってから言え。」


とノアは言う。なんだかちょっと怒っているように見える。


「さっさと魔法陣の上に乗るのじゃ。」


 ノアに促されて、僕とミーナは魔法陣に足を踏み入れた。


「おい、お前、ちょっとしゃがむのじゃ」とノアが言うので、キスでもしてくれるのか?と思ってしゃがみ込むと、僕の冠をひょいと取って、ミーナに放り投げる。


 同じタイミングで、マミーが詠唱を初めてミーナの体が球状のバリアで守られた。なんでバリア?と思っていると、


「ドゥティ、死んでもミーナを守るんじゃぞ。」


 あれ、初めて僕のことをドゥティと呼んだ気が……と考える間も無く、僕はロケットさながらに空に射出される。


 あばばばばば。


 猛烈なGがかかり僕の体が鎧の下半身に集まる。つま先からピュルっと飛び出そうだ。


 やっとのことでミーナを見ると、なぜかミーナは手を振っている。ノアとマミーにまだお別れを言っているのだろうか。とりあえずミーナの入っている球体バリアの中は安全そうでよかった。というかこれ着地はどうするんだろう……死んでもミーナを守れってまさかこれのことじゃないよな……。


 しばらくミサイルの気分を味わった僕とミーナはどことも知らない森の中に不時着する。滞空時間は思いの他長く、飛んでいる最中にそういえばノアは攻撃魔法専門って言ってたな、転移魔法なんて使えるわけがなかったんだと考えるくらいには暇であった。


 隕石のように森に突っ込んで木をなぎ倒し、野鳥の群れをガーガーと騒がせたにも関わらず、ミーナを守るバリアと僕のクソダサ鎧は傷一つついていなかった。結構いい鎧なのかもしれない。


 ミーナを守るバリアがしばらく解けそうもなかったので、僕はミーナ球を担ぎ、下半身から長い触手を3本出して森をひょいひょいっとまたいでいく。


 すると遠くに街を見つけた。

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