第22話 ノアとマリー
僕とミーナはしばらくこの城に住んで良いことになった。僕はぶっ壊したガーゴイルの代わりに門番と、食料調達を任される。
魔法はノアの気が向いた時に教えてくれるそうだ。
気が向いた時かぁと思っていると、マミーが「きっとちゃんと教えるために準備をしたいんでしょう。ノアはそういう子ですから」と教えてくれた。マミーマジマザーだな。
ミーナはマミーに「お風呂に入りましょうね」と連れていかれてしまった。
僕はノアに「お前臭いから山降りてそのへんの川で行水してこい」と言われて今山を降りている最中だ。果たして僕の臭いは行水した程度で落ちるものなのか疑問だが、とりあえず川に行ってみる。ついでに魚でも取ってこよう。
ミーナはマミーに甘やかされて照れ臭そうにしていた。村での様子をみていると、そういった人間の愛情のようなものが初めての経験で、どうしたらいいのか分からないのかもしれない。ちなみに僕も経験ないから分からない。自分で学ぶのだ、ミーナよ。
川に着くと羽根つき石ころ犬アーマーを脱いでじゃぶじゃぶと洗う。洗いながらふと疑念が頭を過ぎる。
普通にいい人達に見えたが、ノアもマミーも上位の魔物だろう。それに対してミーナは人間だ。この世界で魔物と人間の関係ってどうなってるんだろうか。人間と魔物が仲良くしているところをみたことがないし、何か争ってるというイメージしかないが、もし過去に深い確執があって両者互いに恨み合い……なんてことはないよな?
今この瞬間にミーナはバラバラに切り刻まれて食卓に並んでいるなんてことはないよな?
僕はいてもたってもいられなくなり、魚を取ることも忘れて急いで城に戻る。
城の中を走り回り、ノアとマミーの話し声がする部屋を特定すると、触手を伸ばして中を覗く。
……すると、ミーナがされるがままに大きなリボンのついたドレスや布を節約しすぎなセクシー衣装に次々と着せ替えられていた。
ノアとマミーがこっちの服の方が可愛い、いやこっちだと言い争っている。ミーナは初めて着るであろうその豪奢な服を撫でたり形を確かめてえへへと笑っている。まんざらでもないようだ。ちなみに僕は今マミーが手に持っている白色のワンピースっぽい服とか似合うと思う。
僕はすっかり肩透かしを食らったような、安堵したような気持ちになって魚を取りにまた川に向かう。この二人は大丈夫そうだ。信頼しても良さそうだ。疑ってしまった罪悪感もあるのでいっぱい魚を取ってこよう。
むしろこんなノアたちを討伐しようとする勇者や人間たちの方が悪いやつのように思えてくるが、そいつらにもそいつらなりの事情があるんだろう、と今なら思える。
ミーナがいた村をみてから「人間クソだな滅びればいいのに」という気分になっていたが、時間が経って冷静に考えてみると、あの姥捨小屋も村全体を守るためには仕方がないことなんだったんだろう。
あのクソ男だって好きで片腕になった訳ではないと思う。そして自分に与えられた環境の中で最大限自分が幸福になるための選択肢が、ミーナをはした金で売って酒を飲むことだったのだろう。その選択肢だけみると救いようもないクソだが、環境込みで考えると情状酌量の余地ありだ。
もう殺してしまったので遅すぎるし、今更後悔もしていないのだが、もしクソ男が化けて出て来たら「お前も大変だったな」と声をかけてやれるぐらいには大らかな気持ちになって来た。
とりあえず、すぐに人を殺すという発言は控えようと僕は思った。
もし勇者が来ても話し合いでなんとかしたいな、と。
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