第21話 弟子入り

わらわはノア、魔王じゃ」


とノアはドヤ顔で言う。


「魔王……?」

「アホウ……?」

「誰がアホウじゃ!」


 そんなこんなで城の中に入れてもらって自称魔王のノアの話を聞くと、何か魔物がどうとか勇者がどうとか色々言っていたが、要は引きこもりらしかった。ますます共感を覚える。


「本当は出てくるつもりは無かったんじゃが、お前らがいきなりあんなことを……」


とノアは言う。


 あんなことというのは僕の日課のことだろうか。僕も別にあの聖なる儀式をノアに見せるつもりは無かったのだからお互い様だ。むしろそれで出てきたということは僕らにとってはラッキーだった。


「まあよい。お前らはどう見ても勇者には見えんからな。マリー! 紅茶!」


とノアが言うと、どこからか「はいはーい」という返事が聞こえて、胸の大きなメイドが紅茶を持って部屋に来た。


「こいつはマリー、サキュバスじゃ。」

「ノアのお世話がかりをやってます。マリーです。以後お見知りおきを。」


と言って一礼するマリーにもノアより小さいが角が生えている。ついでに尻尾も生えているようだ。


 おっとりとした顔つきや机の上にクッキーを置くその所作が、サキュバスというか若奥様という風情を醸し出している。


 ミーナはクッキーに大変感動していた。あまーい!おいしーい!と満面の笑みを浮かべて喜んでいた。こんなにミーナを喜ばせるなんてちょっと悔しい。クッキーに負けた気分だ。


 僕も犬アーマーの口から触手を一本長い舌のように伸ばしてクッキーを吸収する。


「オイヒイ」

「それにしてもお前は奇怪きっかいなやつじゃの。こんな種族の魔物見たことないぞ。」

「ドゥヌチィ、ヒンヘン」


と、クッキーをみんなで食べている間にマリーがいつのまにか紙とペンを持って来て僕に渡す。


 ありがたいのだが僕はこの鎧だとペンが持てないし、触手だとペンを吸収してしまうことを実演して見せると、あらあら、こまったさんですねぇと言って今度は粘土板と尖った石の棒を持って来た。


 なんだこれ、完璧じゃないか!


 僕は粘土板に「ありがとう」と書いてマリーに見せる。マリーはニコッと笑ってノアの脇に待機した。その時に、ミーナに「今相方さんに筆記用具を渡しましたからね」と伝えていた。うぅ、大人の女性だ......目の見えないミーナへの気配りも完璧だ……叱られたい……勝手ながらマミーと呼ばせてもらおう。


 関係ないがこの粘土板の素材でアーマーを作りたいな。石みたいに硬くないし、自由な形に成型できるのは重要だ。


 まあそれは置いておいて、僕は粘土板に「弟子にしてくれ」と書いてノアに見せる。


「弟子にしてくれじゃと? そういえばミーナもそんなことを言っておったの。じゃがさっきも言ったが勇者がいつ来るか分からん。殺されるかもしれんぞ。」


 どうも魔王というのは今ではほぼお飾りな世襲制の役職らしい。ほとんどの魔物は各自好き勝手しているだけで、手下という訳ではないし、そもそもそれなりに知能がある魔物は少数なようだ。


 それでも人間界では30年に一度くらい定期的に勇者が誕生して魔王を討伐しに来る。そして今はちょうどその勇者活動期らしい。


「妾を殺したところで何も変わらんというのにのう。変わらず魔物は人間を襲うし、人間は魔物を襲う。」


とノアは諦観とともに言っていた。


「どこかの国の政治パフォーマンスじゃろう。魔王を倒して平和にしてやるから国に属して税を収めよ、という訳じゃ。」


とも言っていた。僕はノアが何歳なのか気になりすぎてあまり聞いていなかった。


 僕は粘土板に「勇者が来たら僕が殺す。だから魔法を教えて欲しい」と書いてノアに見せる。


 ノアはぷふっ吹き出して「お主、妾より魔王っぽいのう」と笑った。


「僕はこの城のガーゴイルだ」と書いて自慢の翼を見せる。


 キメ台詞のつもりだったのだが、ガーゴイルのパーツを勝手に持ってくんじゃないとノアに叩かれた。

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