第20話 城に着いた

 結局1週間ほどあちこち駆け回り目的の山を見つけた。


 禿げた急峻な岩山で、誰も近づけないぞという山の心意気を感じる。


 僕は石ころ犬アーマーの隙間から触手を10本出し、ミーナを乗せたまま断崖絶壁をネタァと登る。


 頂上に到着すると前に来た時とあまり変わらず、古びた城が隠れるように存在していた。


 そうそう、この門の前の石像がガーゴイルなんだよなと思い出しつつ動き出す前に破壊する。ミーナに何かあったら大変だからだ。せっかくなのでガーゴイルの死骸というか破片を漁って翼のパーツを石ころ犬アーマーにくっつける。


 今の僕は翼の生えた犬だ。


 さて、以前は悪辣あくらつなトラップやらなんやらで追い出されたが、今回は大丈夫だろうか?今日はちゃんとした用事もあるし不法侵入でもないので問題ないと信じたい。弟子入りさせてくれという一方的なお願いではあるが。


「着いたの?」


とミーナは僕に聞く。


「ドゥボ!」

「やったー! あ、ちょっと待ってね……入る前にトイレ行ってもいい、かな?」


と言うので、僕は岩陰にミーナを案内する。


「じゃあ、ちょっとあっち行っててね」

「ドゥボ!」


と良い返事をして僕は元の場所に戻る……フリをして羽根つき犬アーマーを脱ぎ去り、スカートをたくし上げてしゃがみ込むミーナの前に静かに横たわる。


 これは日課だ。僕はミーナのおしっこを全身で受ける。一滴も余すことなく吸収する。


 僕は匂いは分からないが、ラベンダーのような芳醇な香りがすることだろう。ミーナの体内で程よい温度に保たれた温水が僕の体に染み渡る。このぬくもりを感じる度に、生きるってこういうことなんだなと僕は思う。人の優しさ、暖かさというものはこれのことなんだな、と理解する。


 おしっこを終えたミーナが立ち上がると、ドゥティーと呼ぶので、僕は羽根つき犬アーマーの中にニュルリと入り込みミーナを迎えにいく。


 城の門前に戻ってきた。さあ、中に入ってみよう。


わらわの家の前でお前らは何をやってるのじゃー!!」


という叫び声と共に門がバンと開かれた。


 頭に角を生やした赤い髪の少女が、顔も真っ赤にして息を荒げている。


 ハレンチじゃハレンチじゃと騒ぎ立てる彼女の様子を見ながら、僕は人間にはないものが生えている仲間として勝手にシンパシーを抱いていた。僕はおしっこはしないけど彼女はおしっこするのだろうか。


「わわっ、わた……は、はじめまして! わたし、ミーナ、ま、魔法を教えてほ、ほしいの!」


とミーナがどもりながら言う。ミーナは初対面の人とはあまりうまく喋れないのかもしれない。


 ここは僕がフォローしなくては、と思って僕も自己紹介する。


「ドゥヌチィ、ドゥヌチィ」

「きもっ! なんなのじゃこいつは!」

「この子はドゥティっていうの! 大丈夫、いい子だよ!」

「ドゥヌチィ、イイ、ドゥヌチィ、イイ」


 全然そうは見えんがの……と言いながら彼女は名乗った。


わらわはノア、魔王じゃ。」

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