第2章 変遷
第18話 二人の生活
ミーナと旅に出てから1ヶ月ほどたったある日、ミーナは急に「わたし、このままじゃいけないと思うの!」と言い出した。
確かにこの一ヶ月間は夏休みの最初の3日間を延々と繰り返すような自堕落な日々を過ごしていた。
森の中で山の中で、あるいは湖のほとりで、僕たちは食っちゃ寝食っちゃ寝の獣のような生活を過ごしていた。ミーナが獣のような生活でも気に留めない性格でとても助かった。
お風呂というか水浴びだって一週間前に湖を発見したとき以来していない。
その時のミーナは恥ずかしげもなくスポポポーンと服を脱ぎ去り湖でジャバジャバはしゃいでいた。
僕はその光景を目に焼き付ける……ことはしなかった。
ミーナと仲良くなるほど、ミーナの裸を見たりパンツを覗き込んだり胸を上から下から横から覗き込むことに罪悪感を抱くようになってきたのだ。
だからスポポポーンと服を脱ぎ去るミーナをみても、僕はそのつるんとしたお尻に噛みつきたいなと思うくらいで、すぐに湖の底からミーナを餌と思って浮上してきたでかい魚のモンスターを触手で絡め取っていた。
きゃははと笑うミーナに水をかけられながら僕は、最後にこんな可愛いミーナと風呂に入れてこの魚も幸せであったろうと考えつつ魚を締め上げた。
まあそんな自堕落な生活を続けていたわけだが、何もイベントがなかったわけではない。
まず僕は石ころ犬アーマーを作ったし、ミーナと一緒に街に入ろうと試みたこともあった。
石で人の体を作り僕がその中に入ってミーナを肩車し、さも巨大な一人の人間ですけど何か?という感じで街に入ろうとしたのだが、女の子を吸収したゴーレムと思われて危うく討伐されかけた。
その「私おっきい人間大作戦」が失敗して最終的に僕の石ころアーマーは、今のでかい犬形態に落ちついている。ミーナが固い固いと不平を言うのでそのうち大量に苔を生やしてモサモサ犬にしたいと考えている。
それからもう一つビッグニュースがあった。
僕は魔法を覚えたのだ。
といってもまだ初歩の初歩の初歩の段階である。
たまたまミーナに襲いかかる山賊をぶち殺して、ついでにアジトの洞窟を突き止め殲滅した時に魔道書を発見したのだ。多分盗品だと思うが有効活用させてもらう。
その魔道書は定番の入門書的ポジションらしく、僕はそれを読んで身体強化系の魔法の練習をしている。どうも身体強化魔法は全ての魔法使いが最初に通る初心者用魔法らしい。
初めて身体強化魔法が使えた時は感激のあまり意味もなく触手を振り回しまくったものだった。
そのとき僕の触手がフォンフォンといい音を奏でるものだから、これを応用して喋れるようにならないか?と僕は思いついた。
ただ自堕落な生活を過ごしていたわけでは断じてないのだ。
僕は最初山賊の鎧の一部をペッチャンコに石で叩き潰して、それを揺らしまくって音を奏でた。
身体強化魔法の魔法陣で、どのような力で、どのような角度で、どのような速さでそれを揺らしまくるかをあらかじめ何パターンも決めておき、それらの魔法陣をいい感じの順番とタイミングで起動すれば人の音声っぽいものが出るのではないか?と考えたのだ。僕の肉体は人間よりも身体強化魔法で様々な体の動かし方ができるようで助かった。
まあ結局それはうまくいかなかったのだが、山賊が使っていた籠手を体内に吸収して、さらに籠手の内側に僕の体の一部を膜のように張ってそれを振動させることによってちょっと言葉っぽいものを喋れることを発見した。
絶え間ない努力とミーナと喋りたいという情熱の結果、今では「アイウエオ」の母音と、ハ行の子音だけはそれっぽく喋れるようになった。
ゆくゆくは全ての文字を喋る魔法陣を作って、キーボードタイピングの感覚でカタカタと魔法陣を起動して喋れるようになりたい。
そんなわけで今の僕は朝起きて眠そうに目をこするミーナに「オハオハ」と朝の挨拶をできるようになったし、ご飯という名の生魚やフルーツを食べて美味しいと喜ぶミーナに「オイヒイ」と同調できるようになった。
使う機会があるかどうかわからないが「アホ」と言うことだってできる。
さて、これだけ絶好調な僕らに対して、何がこのままじゃいけないとミーナは思うのだろうか?
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