第13話 賢者モード

 しばらく何も考えられず立ち尽くしていたが、ふと我に返った。


 あれ、今までの僕はなんだったんだろう。なぜかものすごくネガティブな思考になっていた気がする。自分がそんなにポジティブな人間とは思えないが、なぜか死にたくなるような感情が去来していた気がする。


 まあいいか。僕はいそいそとハンバーグ触手を使って木のツルを元の位置に戻す。


 するとハンバーグ触手の異変に気づいた。謎の薄黄色い液体がハンバーク触手の先端にべっとりと付いている。からしマヨネーズだろうか?そんなわけはない。


 そして心なしかハンバーグ触手が動かし難くなっている気がする。いや、動きがぎこちなくなっているだけではない。長さも縮んでいる。


 しばらくするとハンバーグ触手は1メートルにも満たなくなり、最終的に全て体の中に埋もれてしまった。


 するとそこには元の6個目の球体があった。やはりこの球体がハンバーグ触手になっていたのか。


 しかしなぜハンバーグ触手は球体に戻ってしまったのだろうか?


 そもそもなぜハンバーグ触手は生えてきたんだ?


 わからないことは多いが、まだこの球体が僕の体の中にあるということは、またハンバーグ触手が生えてくるかもしれない。


 いや、絶対に生やしてやる。


 今はまだ使い方もよく分からないが、自由自在にハンバーグ触手を出し入れできるようになるのだ。そして再度ミーナに触れるのだ。僕は固く決意した。


 しかし、いずれにせよ僕はハンバーグ触手を失った。


 とりあえず今はミーナからもらったこの冠をどう持ち歩けばいいのかが問題だ。どこか安全な場所に置いておくことも考えたが、僕は石の上に冠を乗っけて石ごと運ぶことにした。石を常に持ち歩かないといけないのはちょっと辛い。


 僕は先ほどリコの実をミーナにあげられなかったことを思い出し、また取りに行くことにした。


 今はあのクソ男も家にいないようだからミーナの家まで届けよう。シル婆はいるが寝たきりだしまあ大丈夫だろう。



 リコの実を大量に取った僕は木の皮を引き剥がし、端に細長い石を突き刺して取っ手を作った。


 簡易的台車の完成である。


 リコの実を山のように乗っけた台車を引きずってミーナの家まで戻ってきた。こっそりとミーナの家の中を覗く。


 ミーナは今度は縄をなっていた。本当に器用だな……。目が見えないとは思えない手際の良さだ。そして上から見るとミーナの胸元が丸見えだ。


 まだあのファッキンクソ男は戻っていない。シル婆もいるが寝てる。完璧だ。


 窓から声をかける。


「ヌェチャ……ヌェチャ……」

「わ! びっくりした。ドゥティ?」

「ドゥボ!」


 続いて僕はその辺の石を拾ってドアをノックした。


「あ、今あけるね」


とミーナは言ってドアを開けてくれた。


「ドゥボ!」(お邪魔します)


と言いつつ僕はリコの実満載の台車と一緒に家の中に入り、近くにあったミーナの作ったカゴにリコの実をガサガサと注ぎ込んだ。


 ミーナは「わ!なになに!」と驚いていたが、それがリコの実であることに気がつくと、花が咲いたように笑った。


「ドゥティありがとー!」

「ドゥボ!」(どういたしまして)

「あ、よかった。ドゥティ、元に戻ったんだね。」

「ドゥボ?」

「ほら、ドゥティさっきちょっと元気なさそうだったから。心配してたんだ。」

「ドゥボボボ」


 ミーナはそんなに僕のことを見てくれていたのか……。嬉しすぎる。そして僕のことを分かってくれている。理解してくれている。僕のミーナへの好意が決して一方的なものではないということが確信できた。


 ミーナと少しだけ話をしたあと、僕はクソ男が帰って来ないうちにミーナの家を後にした。


 名残惜しいが仕方がない。僕のようなモンスターが村の付近に生息していることがバレてしまったら色々と面倒なことになるのは目に見えている。


 それに、僕は次にやることがあるのだ。


 リコの実以外にも、ミーナが食べれるものを探しに行くのだ。

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