第10話 新しい武器
気がすむまで石を撫で回したミーナとお別れした僕はふと思いついた。
この石の中に入れないだろうか?
ミーナに撫で回される石が羨ましかったということもあるが、僕の体は無機物は吸収しない。
正確にいうと水や塩は吸収するので、これは吸収する、吸収しないというちゃんとした区分はよくわからないのだが、経験則として石や土や金属は吸収しない。木や肉や貝殻は吸収する。
僕が触っても吸収しないものの中に入れば、ミーナに触れるんじゃないだろうか?
フルボディの鎧とか良さそうだ。
ミーナは僕のことを犬か何かだと思っているので、犬の形をした鎧……なんてある訳ないか。
しかしこれは名案だ。早速手頃な大きさの石を探しに行こう。僕は川に向かった。
ある程度川の上流にきただろうか。手頃な大きさの石も増えてきた。
最初は僕の体がすっぽり入る大きさの石を探していたのだが、よくよく考えてみるとある程度の大きさの石に穴を開けて、それを何個も何個も腕輪のように触手にはめていけばいいのだ。
それで犬の形を作れば完璧だ。僕はドブブと笑いつつ石を集める。
ミーナに触れる。
どれだけ待ち望んだことか。こんな簡単なことをすぐに思いつかなかった自分をぶん殴りたい。
ミーナに頭を撫でてもらえる。
リコの実を集めてパンツが見えてしまっているミーナのスカートをそっと直せる。
ミーナのパンツ。
服と同じで破れていたり染みたり汚れたりしていたパンツ。僕はありありと今目の前で見ているかのように思い出すことができる。
ミーナのパンツを想像していると僕は体に違和感を覚えた。
胴体部分に何かが動いているような……。
目を向けると、何かが僕の体をミチっと突き破って出てきた。膿が破裂したかのように、新しい触手が生えてきたのだ。
なんだこれは!?
頭が真っ白になる。不思議と痛みはない。
訳がわからない。
こんなことは初めてだ。この触手団子の体にもすっかり慣れたものだと思っていたが、それは間違いだった。
新しい触手は、挽き肉を寄せ集めて作ったかのような質感をしている。焼く前のハンバーグだ。
ハンバーグ触手と名付けよう……なんて言ってる場合ではない。
なんだこれは?僕の体の中から出てきたよな?と思い体を念入りに見回す。
……ない。
体内にあった球体が1つ減っている。目も含めて6個あったはずなのに今は5個しかない。
この触手はあの球体から生まれたのか……?
試しに動かしてみると、僕の思いのままに動く。やはり触手だ。
いや、どう見ても触手なのだが、なんというか急にもう1本手が生えて3本になった時のことを想像してほしい。誰もが色々一通り動かした後「これは手だな」と言うことだろう。そんな感じだ。自分でも何を言っているのかよくわからないがそうとしか言えない。
しかしこの触手は他の触手と随分毛色が違う。
僕は試しに川の中にいる魚を3匹しゅぱぱぱと捕まえる。
おぉ、これは速いぞ。
なんというか伸びがある動きをする。繊細な稼働もできる。なんて高性能なんだ。ハンバーグ触手。なんだかもっと振り回したくなる欲求に駆られる触手だ。
振り回すと気持ちがいい。
ん、あれ?
僕は気付いた。
魚が、吸収されない……?
希望も込めて僕はもう少し待った。ハンバーグ触手で魚をぎゅっと握りしめて待った。
魚は吸収されていなかった。
これは!!
僕は喜びのあまり森をかけまわって木を撫でくりまわしキャンキャンと逃げようとするザコウルフを撫でくりまわした。襲いかかってきた熊のモンスターも撫でくり回してそのまま放り投げる。殺さない。今僕はとてもハッピーだからだ。
ハンバーグ触手は、ミーナに触れる!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます