第9話 フルーツをあげる

 フルーツを運んでくるのは骨が折れた。


 触手で持つと勝手に吸収してしまうので、仕方なく木を丸ごと引っこ抜いて運んできたのだ。木の幹を全て吸収し尽くす前に村まで戻ってこれよかった。


 見た目は完全にりんごのフルーツを発見したが、毒があると困るので念のためそこらにいたザコウルフの口にねじ込んでしばらく様子をみた。


 その結果、毒はなさそうで安心した。僕は毒耐性があるらしく食べても毒かどうか分からないのだ。


 きたきた。ミーナだ。


「ドゥティー、いるー?」

「ドゥボ!」


 はち切れんばかりに笑うミーナ。昨日の無感情にカゴを作ったり野菜クズを食べるミーナとはまるで別人だ。


 やっぱりミーナはこうでないと。


「おはよ、ドゥティ。はい!」


 と言ってミーナはカピパンを手のひらに乗せて差し出してくる。

 

 僕はその小さな手のひらにりんごもどきを置いた。


「ほぇ、これなあに?」

「ドゥボ!ドゥボ!」

「丸い……リコの実の香りがする……これってリコの実?」

「ドゥボ!」


 僕は名前を知らないので適当に相槌をうつ。多分リコの実だろう。


「くれるの?」

「ドゥボ!」

「わぁ! ありがとうドゥティ!」


 ミーナは木桶を下に置いて、しゃくしゃくとリコの実を食べ始める。大事そうにリコの実を両手で包んで食べる姿は、ハムスターを彷彿とさせる。


「おいしいー。こんな新鮮なリコの実初めて食べたよ。はい、半分こ!」


と言ってミーナは食べかけのリコの実を差し出す。


 ……。


 こ、こ、これは間接キスというやつではなかろうか……?いや、俺ももういい大人だ。これしきのことで動揺するわけにはいかない……。間接キスがなんだというのだ。平常心だ、平常心。


「ドゥブブブフォ」


 嬉しすぎて笑いを堪えることができなかった。


 ミーナの食べかけのリコの実をニチャニチャと貪る。う、うまい……異世界にきて初めてご飯が美味しいと感じる……。


「おいしい?」

「ドゥボ!」


 僕はもう10個ぐらいリコの実をどさどさっとニーナに渡す。


 別に食べかけのリコの実が欲しいわけではないが、ミーナにお腹いっぱいになって欲しいのだ。


 そうなのだ。


「わわ、こんなにいっぱいあるんだね! ありがとう。」


 ミーナは手からこぼれ落ちたリコの実を手探りで拾う。


 ボロ雑巾のようなスカートを風呂敷のように使ってリコの実を集めている。自然にスカートをたくし上げるような形になり、なんていうか...パンツが見えている。女の子ならもう少し気をつけて欲しいものだ。


 途中から木桶を持っていることを思い出したのか、木桶の中にリコの実を入れていく。


「シルフィにもあげよっと。」


とミーナは言う。


 シルフィ? ミーナにはお友達がいたのか?僕が首を傾げているとミーナは、


「シルフィっていうのはね、一緒に住んでるおばあさんなんだ。体の調子が悪そうなの。」


と言った。


 あの婆さん、そんな美人ネームだったのか……。シルフィと呼ぶのもなんか憚れるので僕はシル婆と呼んでおこう。


 リコの実を集め終わったミーナは、ぱんぱんとスカート払って言った。


「ドゥティ、ありがとね! 頭撫でてあげる!」


 おぅ。どうしよう……。


 撫でて欲しいのは山々だが、ミーナの手を吸収してしまいそうで恐ろしい。というか間違いなく吸収するだろう。僕は人殺しになんてなりたくないし、ましてやミーナを吸収してしまうなんてありえない。


 そんな僕の心配も知らず、ミーナは空中で手をわしゃわしゃしておいでーと言っている。


 とりあえず近くにあった大きめの石をミーナの手元に持ってった。


「わっ、ドゥティの頭ってすっっごい硬いんだね!」


 と言いながらミーナは石をわしゃわしゃする。

 

 石みたい!とミーナは言う。


 まあ、石だからね、と思ったがそっとしておいた。


 思う存分撫で回してくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る