第7話 村を覗きみる

 ミーナとお別れすると、僕はすぐに行動に移る。


 村から少し外れたところから、地中に触手を伸ばす。


 僕の触手は距離に反比例して、長く伸ばせる触手の本数が少なくなる。体積を一定に保つためだろうか。もう3年間も共にしている肉体だ。そのくらいの感覚は掴んでいる。


 触手を1本だけ、先頭に目を1つ置いて伸ばし続ける。


 最長で50メートルはいける。これを僕はミミズモードと呼んでいる。さらに細くすればもっと遠くまでいけるかもしれない。


 今は最も細くて人間の親指ぐらいまでしかできないが、練習すれば糸ぐらい細くなれる……気がする。


 とはいえいくら触手を細くできても、眼球らしきものがソフトボールぐらいの大きさだ。それを支えられなくなってしまっては意味がない。今くらいでちょうどいいのだ。


 片方の目で遠くから村の様子をみつつ、人がいないところを狙ってボゴォと触手を地中から出す。


 まずは触手用の道を作ることが先決だ。


 ミーナの家をはじめとして、全ての家をこっそりと監視できるように地中に穴を掘り進めて行く。


 ボゴォ。ボゴォ。ボゴォ。


 30分ほどで地中の道は出来上がった。


 どれどれ、まずはミーナの様子をみてみようか。


 地中から触手を出し窓から家の中を覗く。


 いた、ミーナだ。


 ミーナは家の隅にちょこんと座ってカゴのようなものを編んでいた。器用なものだ。


 他には今にも死にそうな寝込んだ婆さんと、片腕のないおっさんがいた。


 家族……には見えない。


 なんだこの家は?


 しばらく眺めていたが、婆さんは本物の死体じゃないかというほど動かないし、おっさんは片腕でずっとナイフを砥いでいる。ミーナも黙々とカゴを作っている。会話は何もない。それぞれ極力距離を置くように生活しているように見える。


 何かしら訳ありなのは間違いない。


 その中で、僕は見逃せないものを発見した。


 台所に塩漬けにされたザコウルフの肉がある。それだけなら長期保存する為にミーナが肉を食べられなかったのかと納得したところだが、その脇にあるスープにはザコウルフの肉が使われているようだ。というか普通に屑ではない野菜もある。


 これは家の中に問題がありパターンかな……。


 しかしこの家はなんだか特殊なようだ。それを知る為にも他の家をみてみることにした。


 次の家では、女性が3歳くらいの子供の体を拭いていた。


 木桶に水を張り、タオルを濡らして体を拭いてあげている。姉弟か?それともこの年齢でもう子持ちなのか?まだ20歳前後にしか見えない。


「はい、綺麗になった。」


 と言ってその女性は子供のお尻をぺしりと叩く。


 ついでに僕の体も綺麗にしてほしい……。ほら、僕の体って臭うらしいし。そういえば臭いが原因でバレてしまうかもしれない。気をつけよう。


 まあいいや、次の家にい……


「さて、次は私の番」


……くのはやめてもうちょっと見てみるか。


 ミーナの家のことが何かわかるかもしれないしね。

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