第5話 お返しをする
「ブグォ」(ふぅ)
真夜中、僕はモンスターの死体を運んでいる。僕は今朝のご飯のお礼にモンスターを狩ったのだ。ミーナも食べられそうなモンスターをだ。
名前は分からないが、ウルフっぽいモンスターを5匹狩り、ミーナの家に運んでいる最中なのだ。
きゃんきゃん吠えるだけのクソザコだったので、とりあえずザコウルフと呼んでいる。
うっかり触手で触りすぎてしまうと体が勝手にザコウルフを吸収してしまうので注意して運ぶ。
夜中のうちにミーナの家の前にザコウルフの亡骸を積んで影から見守った。
……ミーナは、喜んでくれるだろうか?
朝になるとミーナよりも先に、村人のおっさんがザコウルフの山を発見して驚いていた。見回りか畑の様子でも見に来ていたのだろう。
おっさんはすぐに村の中心部へと駆けて行き、村長らしき爺さんやその他大勢を引き連れて戻ってきた。
爺さんたちは、神の差し伸べた手だのモンスター同士の縄張り争いだの、ザコウルフの山がなぜできているかについて大騒ぎしている。
ゆくゆくは村全体にまで広がる騒ぎになってしまったようだ。なんか非常に申し訳ない。
その後ザコウルフ(ちなみに村長たちはシルバーウルフと呼んでいた)の山をどうするかでもう一騒ぎあった。街まで運んで換金するか、村で食べるかについて話し合っているようだ。
最終的に血抜きなどの処理がされておらず街まで運んでいる間にダメになりそうだということで、村のみんなに分け与えられることになった。
本当はミーナだけにあげるつもりだったのだが、ミーナも食べられるならまあこれでよしとしよう。
さて、僕は僕の仕事に戻らなくては。ミーナの通り道で待ち伏せしなくてはならない。
待ち伏せること数時間。
来た!
「ヌェチャ、ヌェチャ……」
「ドゥティ? おはよう、また会えたね。」
と言ってミーナは笑った。
「ねぇ、知ってる? 私の家の前でシルバーウルフが何匹も死んでたんだって。ドゥティの仲間じゃないよね?」
「ドゥボ」
「よかった。私はよくわかんないけど、シルバーウルフっておっかないモンスターみたいなの。ドゥティも気をつけてね。」
「ドゥボ! ドゥボ!」
「はい、これあげるね。」
ミーナはまたカピパンと野菜屑を僕にくれる。
「昨日より少なくてごめんね。半分こだよ。えへへ、さっきお腹が空いて食べちゃったんだ。」
「ドゥボ……」
全部食べていいのにと僕は思うが、それをうまく伝えることができない。
でも今日はザコウルフの肉がある。お腹いっぱい食べてくれ、僕の天使よ。
「今日村のみんなにシルバーウルフのお肉が配られるらしいんだ。」
「ドゥボ!」
「もし私ももらえたら持って来てあげるね。」
「ドゥボ……」
それはミーナに食べてもらいたいがどうやって伝えればいいものか。ミーナは優しすぎて大変だ。
「じゃあ行くね、ドゥティ。また明日ね。」
「ドゥボ!」
水を汲む時だけのわずかな時間。僕とミーナだけの時間。至福の時だ。
それにしても普段ミーナは何をしているのだろうか。
ずっと影から見守りたい衝動に駆られるが、僕も元々は人間だ。節度を持っている。そんな覗きのようなことはしない。ここはグッと我慢だ。
いや、でももう人間じゃないしちょっとくらい良いのでは?いやいや、ダメだダメだ……。でも触手を長く伸ばせばバレなさそう……。いやいや……。
僕は悶々とした。
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