第4話 名前をつけてもらった!

 次の日も彼女に会いに行った。


 毎日同じ時間に水を汲みに行くのでは、と思い彼女の通り道にひっそりと隠れていた。


 体感で2時間ぐらいだろうか、息を潜めて待ち続けていると、ついに彼女が現れた。


「この臭い、もしかして昨日のワンちゃん?」

「ドゥボ! ドゥボ!」

「あはは、また会えたね。」


と彼女ははにかんだ。


 もう僕は絶頂である。彼女は天使だ。笑った顔が輝いて見える。


 着ている服はボロだし体も瘦せぎすでところどころ痣もあってお世辞にも美しいとは言えないが、それでも天使だ。


「今日はね、ご飯を持ってきたんだ。朝ごはんを取っておいたの。」


と言ってカピカピになったパンと野菜の屑をポケットから出した。

 

 少なくてごめんね、と彼女は言った。


 僕は泣きそうだった。僕に涙腺があったら間違いなく泣いていたことだろう。

 はい、どうぞと言ってあらぬ方向へカピカピパンをあげようとしている彼女が愛しくてたまらない。


 ――この子は僕が守らなくては。


 僕は心に決めた。


 とりあえずカピカピパンと野菜屑はもらっておいた。体内に取り込むと一瞬で吸収される。


 犬ではないとバレるのが怖くて彼女には触れられないが、彼女が一度触ったカピパンを通して彼女の汗や垢が僕の体内に吸収されていることだろう。


 僕は堪らなく幸福な気持ちになった。


「おいしい?」

「ドゥボ!」

「そっか、よかった。私ね、ミーナっていうの。」

「ヌェチャ」

「ミーナだよ、ミーナ。」

「ヌェチャ」

「君にも名前をつけてあげるね。何がいいかなぁ……。」


 と言って彼女は思案するように首をかしげる。彼女がつけてくれる名前だったら僕はゴミでもう○こでもなんでもよかった。元の世界の名前なんて喜んで捨ててう○こを名乗ろう。


 それにしてもミーナか。可愛い名前だ。


「うーん、ドゥボドゥボ鳴くから……」


 安直!


 ミーナは僕の鳴き声から名前を決める様子だ。まあうまく喋れない僕でも自分の名前を名乗れるようになりそうだ。


「決めた! ドゥティね! あなたの名前はドゥティ!」


 ドゥティ……心なしか童貞と言われている気がするがまあ良いだろう。事実であるし、ミーナにこの童貞クズ野郎死ねカスと呼ばれるのは悪い気分ではない。


「ドゥヌチィ」


 問題は僕がうまく発音できなかったことくらいだ。

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