第12話
『……留守番電話に接続します。発信音…』
「…出ないか。何をやっているんだ、あいつは」
取り次ぎをしてくれた女性には申し訳ないと思ったが、思いついたのだからと音乃の番号にかけてみたところ、いつになく長く待たされたと思った後に、まだ聞き慣れない留守番電話への案内音声が流れた。
それがどんな意味なのかは分かるので、ひとまず諦めてスマホを仕舞う。
「といって勝手に上がり込むわけにもいかないしな…」
門から玄関まではターナの身長比で、三倍ほど。五メートルないか、といったところ。
それくらいならば、と耳をそばだててみると、奥の方から女性の声で何か喚いている…とまではいかないが、大きな声が聞こえてきた。何を言っているかまでは、分からない。
「…やむを得ん。邪魔するぞ」
埒があかない。
そういえば居宅に臨んで用向きを述べる口上なら、さっき教えてもらったばかり。早速活用しようと門をくぐる。
平たい石が埋められ、土を踏んで靴を汚すことなく玄関までゆけるのだな、と些細なことに感心しながら、開け放たれたままの玄関の前に立った。
「…不用心だな。まったく、音乃もこないだのことで少しは懲りただろうに」
中の様子を伺うと、音源が近くなったせいか音の通りのよい場に立ったせいか、先程よりははっきりと人の声が聞こえる。
「……ってばかり言ってないで電話くらい……」
「……!……!!」
声は二つ聞こえ、一方は何を言っているのか微かに理解出来るものの、知らない声だ。
もう一方は…よく分からない。
「…何が起きてるんだ?」
待っていても時間が無駄に過ぎるばかりに思える。ターナを塀の上から眺めていた女性のことも、こうなると実はいい加減な対応をされただけなんじゃないか、と疑わしくなってくる。
しかたない。こうなったら多少の失礼は承知の上で、自分で何とかしないと。
ターナは軽く息を吸い、声を上げる。
「……ごめん!どなたか、いらっしゃらないか!」
凛とした声が響く。
それはよく徹ったとみえて奥の言い争いは止み、やがて奥からパタパタとスリッパ履きで板敷きの廊下を駆けてくる様子があった。
「…あー、ごめんターナ…せっかく来てくれたのに」
音乃だった。
見慣れた顔をみて、ホッとする。
「…いや、別にいいんだが…お前、その格好は何なんだ…」
「え?変?」
「変というか…」
音乃はジャージパンツに、何処かの土産物のような、ターナにはよく意味の分からない言葉が大書されたトレーナーを着て…それはまだいいが、その上にやたらと袖の太い上着を着ている。
「あ、ターナ
「…防寒具のように見えるのだが」
「まーねー…実家の感覚で着るモノ送り込まれても困るよ…五月の東京で着るよーなものじゃないのに」
「あー、まあよく分からんが、大変だな。…妹?」
「あ、うん、妹が来てるの。もー、予告も無しに今朝突然だよ?ターナに知らせる暇も無かったんだから。とにかく上がってよ。いちおー紹介はするからさ」
「あ、ああ。お邪魔する」
くたびれた古いバッシュを脱いで、上がり込む。
中に入ると、表の、春にしては強い日差しに炙られた暑さからも隔てられた、ひんやりした空気が肌に心地よい。
靴を脱ぐターナを待っていた音乃が先に立って奥に向かう。
その後をついて行きながらターナは、そういえば、と音乃に声をかけた。
「…わたしが門の前で困ってた時に声をかけてくれた女性がいたのだが、彼女はどうした?お前に取り次いでくれる様子だったのだが」
そう聞いた音乃はピタリと歩みを止めて頭を抱える。
「…あれはそういう意味だったのね…末永先輩、私の部屋に来てなんかわけの分かんないこと言ってたからさ…『天使が来たぞ』とか。あれで来客だー、なんて分かるわけないじゃない…」
「そ、そうか。まあ、親切な人だとは思うぞ、うん」
おざなりにフォローするターナの相槌にも、ため息しか出ない音乃だった。
「そういえばこの家はやけに広いようだが。誰かの屋敷なのか?」
「あー、えっとね。昔この辺りの大地主さんだった人の家なんだけど、今はもう若い人も出てっていっちゃってね。お婆さんが一人とお手伝いさんしかいないから、空いた部屋を学生に下宿させてくれてるんだ」
音乃の部屋は玄関からは大分奥まった位置にあるらしく、歩きながらそんな会話が出来るくらいには間があった。
「お前の他に何人くらい住んでいるんだ?」
「えーと、さっきターナが会った末永先輩の他に学生が四人。私除いてね。全員揃うことは滅多に無いなあ、そういえば。で、一回生は私だけだから、ちょっと肩身が狭いけど」
家は広いが、廊下は流石に二人が並んで歩くほどの幅はない。
ターナは、前を歩く音乃の背中が、いいことを思いついた、とでもいうようにピクリと跳ねるのを見た。
「ね、ターナもここに住まない?」
そして振り向き、そんなことを音乃は言った。
「ここね、朝ご飯はお手伝いさんが作ってくれるんだよ。ターナ、結構朝ご飯無しのことが多いでしょ?それ身体に良くないよ。ここに住んでれば規則正しい生活も出来るよ?」
「…あー、気遣いはありがたいが…」
音乃の勢いに気圧されて軽く身体を逸らしながら、ターナは答える。
「仕事場まで遠すぎる。流石にこの辺から毎日向かうのは大変そうだ」
「いーじゃん、跳んでけば。電車より速いんじゃない?」
「毎日毎日そう飛び跳ねていけるか、バカ。目立つし、大体結構疲れるのだぞ?」
流石に呆れる。音乃が好意というか、自分と一緒に居たいと思って言ってくれるのは素直に嬉しいのだが、それだけを理由に、しないでもいい苦労をする気にもなれない。
「いい思いつきだと思うんだけどなあ…」
まだ諦めがつかないのか、口を尖らせている音乃。
本当にこいつ、わたしより年上か?と苦笑しながら、ターナも言葉を続ける。
「…今の部屋もな、それなりに思い入れがある。自分の意志で来た場所とはいえ、右も左も分からぬわたしを受け入れてくれたのだからな。大家さんはお前も見た通り怒ると怖いが、いつもは親切だしわたしも好きだ。だからまあ、そうわがままを言うな。場所が分かったのだから、わたしの方からも遊びには来れるしな」
「…うー、分かった…」
ターナより高い背を丸めながら、音乃は不承不承という態で主張を引っ込めた。そんな様子がターナにはひどく好ましく思える。
「ほら、妹が待っているのだろう?早く案内してくれ」
「あ、忘れてた」
当人が聞いたらさぞ腹も立つだろうな、と言いたくなるようなことを呟き、音乃は歩き始めた。
そしていくら広いお屋敷とはいっても別の話題が始まる程では無い。
「ここだよ」
と、二人は「KASHIMIYA」と表された木製のプレートが掲げられた襖の部屋に程なくたどり着き、音乃は整備が行き届いているのだろう、音も無く襖を開け放つと、
「マキ、私の友達来たからちょっと場所開けて」
と、中に居た人影にそう告げた。
「え、音乃ちゃん友達いたの?」
音乃の妹、なのだろう。胡座で畳の上に座っていた少女は振り向くと失礼なことを言い、それからターナの顔を見てあんぐりと口を開けて絶句した。
「ほら、ちょっとどいて………って、何ぼーっとしてんの?」
そんな様子を見て音乃は、最初は当たり前のように声をかけようとしていたが、妹が瞬きもしないで自分の後背を見ていることに気付くと、肩を揺すって目でも覚まそうとする。
「マキ?どーしたの?」
…のだが、器用にも頭の位置は微動だにせず身体だけは音乃に揺さぶられるまま、やっぱり視線はそのまま。
しかし音乃はその向かう先がターナの顔にあると知ると、少し自慢するようにニヤリとまだ座り込んでる少女を一瞥。
「…ふふん、キレイなコでしょ、わたしの友だち」
「ねっ…ねねねね……」
そう言われてようやく、少女は一際目を剝き立ち上がると、音乃が小さな悲鳴をあげる程の勢いでその肩をひっつかみ、こう叫んだ。
「音乃ちゃんどこでこんな上玉捕まえたのっ?!」
「「……上玉?」」
期せずして、ターナと音乃の声がハモった。
「ちょっとちょっと!何このきゅーきょく的美少年はっ!!一歩間違ったら犯罪だよ、犯罪!ねねね、幾つ?歳幾つ?!音乃ちゃんより年下だったらあたしにちょうだいっ!!!それがダメなら…えっと、えと、あなたおにーさんか弟さんいる?いるなら紹介してよっ!!あ、この際おとーさんでもいいよっ?!」
「変態止まれっ!」
「あいたぁっ?!」
肩を強く握られていたせいだろう、腕の上がらなかった様子の音乃は、頭突きで少女の暴走じみた述懐を止めた。
「初対面の相手に恥ずかしい真似しないでよマキ!ほらターナがついていけなくてぼーぜんとしてるじゃない!」
「あ、あたた……音乃ちゃん相変わらずいいモン持ってるぅ…」
額を押さえてうずくまる少女。
「いや、別に呆然とは…ただ、わたしには残念ながら兄も弟もいなくてな。父は…多分元気だろうが紹介するというわけにもいかない。済まない」
「はぇっ?!…あーうん、そうマジメにとられても。ゴメンね、あんまりにも美少年だったもんだからちょっと…突然かなり極めてときめいちゃった」
生真面目に頭を垂れるターナにかえって申し訳なくなったのか、少女はまだ痛むだろう額を右の手のひらで押さえながら立ち上がり、慌てた様子でターナに謝る。それを見て音乃もため息をついてようやく肩をおろすのだった。
「…あとマキ?ターナは美少年じゃなくて美少女。とびきり付きの。…まあ確かに男の子だとしてもそーとーにカッコイイと思うけど」
「ええっ?お、女の子…ぉ?うそぉ…」
「うそって何よ。こんなに可愛いのに」
「いやだって………えーと、ぺったんこ?」
「ぺったんこ言うなこのポンコツ娘っ!!」
「はわたぁっ?!」
再びの折檻はゲンコツの一発。
今度はふざける余裕も無いのか、ぐぉぉ…とか呻いてまたもや音乃の足下にうずくまっていた。
「…ぺったんこ」
そんな二人を眺めながらターナは、気落ちした様子ではないものの流石に胸中ひっかかるものでもあるようで、自分の胸元を両手でぺたぺたと撫で回していた。
「……ぺったんこ…はぁ」
…いや、胸にひっかかるものは無いようだった。
「えーと、
「どんな自己紹介よ」
姉妹漫才が終わってしまえば、ターナには意外と物腰も折り目正しく見えた蒔乃だった。
「ご挨拶痛み入る。ターネァリィス・アミーリェティシア、だ」
それに応じてターナも、正しい正座とピンと張った背筋から頭を下げた。
「…ちなみにあたしは十六なんだけど。えっとぉ…た、たーなりー…?さん?」
「ターナでいい。ネノにもそう呼んでもらっている。それとわたしは十五だ」
「ええっ?!あたしより下だったの?」
「…そのようだな」
おののくように身体を反らして驚く蒔乃に、やや微妙な顔つきでターナは答えた。
音乃にもそれっぽいことは言ったが、この世界でのターナの年齢といっても「設定年齢」のようなものだ。厳密に数字が一つ違うことで上だの下だの言っても始まらないのだが、そこのところまで説明するわけにもいかない。
「…マキさあ、ターナより年上なんだからもう少し落ち着き持ったら?この差は酷いと思うんだけど」
それでも、部屋の隅で急須にお湯を入れていた音乃がにやにやしながらそう言ってよこす。妹の行状にもの申すいい機会だ、とでも思っているのだろう。
「あによぉ、音乃ちゃんだってスケートしてない時はぽやーっとしてて天然丸出しじゃん。あたしのこと言えた義理でもないでしょー」
「そうなのか?」
蒔乃は音乃の方ではなくターナの方を気にしながら言っていたから、きっと自分に言いたくて仕方が無いのだろう。
だから興味ありそうに…実際興味はあったが…そう水を向けると、蒔乃は「待ってました!」とばかりにターナに向き直って姉のあれやこれやを話し始める。
「あのね、あのね?音乃ちゃんが中三の時の話なんだけど…」
「あっ、やめてよバカっ!」
何を言い出すのか想像がついたのか、嬉々として話し出す蒔乃を止めようとする音乃。
そんな睦まじく思えるやりとりを、ターナは微笑みながら見守っていた。
蒔乃は、ターナより拳一つ分ほど背が高く、しかし音乃が多分同年代の女性よりも幾分背が高いだろうこともあってか、妹という立場が納得いく外見だった。
割と無造作に長く伸ばした姉とは違い、髪は肩の辺りでふわっとまとめたセミロング。色も、姉の黒く艶のあるものと違って、少しムラのある濃いめの茶色。染めたのか軽く色を落としたのかは分からないが、それも闊達な言動によく似合っているようにターナには思えた。
耳の前で短く髪を編み上げているところを見るとお洒落には気を遣う性質なのだろう。そんなところも化粧っ気の少ない姉とは好対照だった。
対照的といえば、音乃はキリッとしていれば美人に見えるのだが、蒔乃はどちらかと言えば表情のコロコロとよく変わる可愛げのある少女という趣きで、音乃とはまた違う意味で男の子が放ってはおくまい、と思える顔立ちだ。
(姉妹、か)
我が身を思うと、不思議な気もする。
別れた身としては今さら姉のことを想っても詮無いが、それでも記憶はある。
そして最早会う手立てなど無いのだろう。思い出としてしか、残せるものはない。
(…何を考えているんだろうな、わたしは)
とうとう口を塞ごうと実力行使に出た姉と、それを逃れてターナに助けを求める妹のホホエマシイ絡みは、残してきたものの意味と大きさを思うターナに、俄に懐旧の念を想起させるのだった。
「い・い・か・げ・ん・に…しろーっ!!」
「ねっ、音乃ちゃんストップストーップ!そこっ、そこ、こそばゆ……ひぃやぁっ、止めて止めてやめてーっ?!」
「ああ、ネノ、それくらいでいいだろう。マキノも悪気があってやっているわけではないだろうに」
口ふさぎからチョークスリーパーに移行した音乃を、苦笑交じりに止める。
もちろん、自分が浸っている間に何か悶えながら蒔乃の語っていた音乃の昔話は残らず覚えている。機会があったらからかってやろう、との決意と共に。
「ほらー、音乃ちゃんレフェリーからストップかかってるしー。もう止めよ?ね?」
「ね、じゃないっての…もー、私どんだけターナにみっともないところ知られてしまったんだろー…」
渋々妹を解放する音乃。これだけ暴れ回った割に、畳の上に置きっぱなしだった湯飲みからは一滴もこぼれていないのは奇跡に近かった。
「まーまー、あたしとしてはお土産なんかこれくらいしかないわけだし。えーと、ターナ…さん?も満足してるっしょ?」
「ふふ、そうだな。マキノのしてくれた話は残らず覚えている。ネノ、わたしに弱みを握られたのは、失策だったな?」
「マキぃ…?覚えておきなさいよ…」
「ひぅっ?!…え、えーとターナさん?あんまり悪用しないで…ね?」
「さあ、どうだろうな?ネノに言うことを聞かせるには充分な材料だとは、思うが」
「…ターナぁ…お願いだからカンベンして…」
結構本気で参ってる感じだったので、ターナは音乃には「冗談だ」と軽く慰めてこの話は、終わった。
そして散々暴れて喉が渇いたのだろう。音乃と蒔乃はぬるくなっていたお茶を一息あおり、人心地ついたように足を投げ出して楽な姿勢になると、ふと気付いたように蒔乃の方からターナに話を振る。
「…そーいえばぁ、ターナさん音乃ちゃんのこと…あー、あたしのこともだけど、呼び捨てなんだね」
「ん?悪いか?というか、マキノもわたしのことはターナ、でいいぞ。ネノの妹ならわたしの妹も同然だ」
「そかそか。じゃあ遠慮無くあたしも…ターナ?」
「うん」
なんだか満足したように笑いあう二人。
「ていうか、なんで私の妹ならターナの妹も同然なのよ…ターナの方が年下でしょうに。とてもそうは思えないけど」
「あーっ!音乃ちゃんがあたしをバカにしたぁっ!」
「してないわよ。マキももーちょっとちゃんとしなさい、ってだけでしょ」
「なによー、二つしか違わないくせにお母さんぶっちゃってー。どうせアレでしょ、あたしがターナと仲良くなったから妬いてんでしょ」
「バカ」
…と音乃は斬って捨てていたが、ターナにはなんとなく蒔乃の気持ちが分からないでもなかった。
というのも。
「…二人とも仲がいいのだな」
他でも無いターナ自身が、音乃と蒔乃のやりとりを見てなんだかモヤモヤしていたからである。
「だから、わたしも少し妬けてしまうな。マキノ、姉と仲がいいのは悪いことではないが、今はわたしがネノと親友の仲だ。わたしからネノを取り上げないで欲しい」
「…おー、なんかすげー告白きた。音乃ちゃん、しあわせ?」
「なっ…なんでターナがマキに妬いて私がしあわせになるってーの…よ」
と言いつつ、赤くなってしどろもどろなのだから、本心では喜んでいるだろうことは明白だったりする。
「ふふ、ありがたい話だ」
そしてそうと分かったターナも余裕たっぷりで、残っていた茶を飲み干した。
音乃は、いつか覚えてろよ、的な視線で蒔乃を睨み、知ってか知らずか蒔乃は涼しい顔。
そんな二人を見てターナは、ターナとしては当たり前なことを聞いてみる。
「そういえば、マキノはネノの部屋に遊びにきたのか?実家が離れたところにあるようだが」
「あー、長野ね。場所分かる?っていうか、ターナってどこの国のひとなの?日本語、上手だとは思うけどなんか堅いし」
「マキ、まとめて聞きすぎ」
「構わない。言葉が堅いのは仕方ないな、育ちだ。それと出身は…デンマークだ。もっとも、それは両親だけで、わたしは日本生まれの日本育ちだからデンマーク語はさっぱりだがな」
「ふぅん…よく分かんないけどすげー遠くから来たのね」
…ひとに聞かれることもあるかと思い、ターナは音乃に相談して出身についてはそのように設定しておくことにしていた。
まあ簡単にでも調べてしまえば、ターナの本名がデンマークとは何のゆかりも無いことくらいすぐに分かるだろうし、そもそも両親が外国人ならそちらの言葉くらい当然分かりそうなものだろうが。そうなったらそうなったでターナの例の力でなんとかしてしまえ、という割と行き当たりばったりな対策ではあるが、この際考えの浅い蒔乃が相手だったのでなんとかなっている。
「それよりマキノのことだ。連休で遊びに来た、といったところか?」
何にせよ、こんな時は相手に興味を示すことで話をごまかすに限る。ターナは一応本心からではあったが、蒔乃への質問を再開して自分の話をうやむやにしにかかる。
「あー…うん、まあ遊びにきたと言えばその通りなんだけど…」
「…?」
ちら、と音乃の方を見る蒔乃。
それを受ける音乃の方も何処かしら気まずい空気ではある。
「…話しにくいことなら別に話さなくても構わないが。他人が興味だけで聞くのに適さないなどということも、よくある話だしな」
「そういうわけじゃないけど。ターナ、私前に親に半分勘当されてるって話をしたことあったよね?」
「だからそれは音乃ちゃんの誤解なんだってば…おとーさんもおかーさんもそんな風に音乃ちゃんのこと責めたりしてないよ!」
「マキはちょっと黙ってて。ターナ。マキはね、今日はその…両親からのメッセンジャーだって。そういうことで来たの」
…ターナには少し身につまされる、などと考えるのも不遜に思える。音乃はそんな顔をしていた。
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