第42話 その先に待つ者… 下

 アサトは一同を見ながら話しを始めた 

 「この旅を始めるにあたり、僕は世界を見てみたいし、その世界を肌で感じて、これからどう生きるか決めようと思いました。アルさんやアイゼンさんは、自分の目標を持っている。その為に行動をしている、僕は…、そうですね…目標。作らなくちゃならないですね…、」と言い、クラウトを見ると

 「あの力には、勝てませんよ…」と笑いながら言い、そして、

 「僕には期待しないでください…、でも、ごめんなさい。」と頭を大きく下げて。

 「…使命感って奴です…。」と言いながら頭を上げる。


 「ぼくは師匠の仇を打つ、師匠は望んでないかもしれないけど…、クレアシアンと戦う。戦いたい…、その為に誰かが死ぬかもしれない…、でも、死なせないように頑張ります。そして…、彼女を倒して…この黒鉄くろがね山脈を一緒に越えましょう」と言い、小さく笑顔を見せた、その言葉に、タイロンが立ち上がり「…あぁ…そのクレア…なんだか分からないが、いっちょやってやろうぜ!」と言葉にする、小さく拍手をしながらシスティナが笑って二人を見ていた。

 「…なら、」とクラウトが言うと、アサト達を座らせて話を始めた。


 「今回の遠征の目標を決める。僕が決めた目標は…仲間を最低2人…多くても4人の仲間を見つける。それが、この遠征の目標にしたいが、どうかな?」と一同を見ると

 アサトは頷いて「大丈夫です。その位いなきゃ、クレアシアンには勝てません」と言うと。

 システィナが、「…仲間ですか…」とつぶやく。

 タイロンは、腕組みをしながら頷いて、「それじゃ、この金貨で旅の支度をしよう、出発は1週間後。あと、明日は、みんなで買い物に行こう、装備を整えなくてはな」と笑って見せた。


 1週間後…ぼくらはこの街を出て、この街の東にある街2つを周る遠征にでる、そこで仲間を見つけて、この大きな山脈を超えて、師匠の歩んだ道を行くんだ…。


 彼らの話をインシュアがソファーで聞いていた、ちょっとだけ目頭を押さえて…。


 チャ子は、中庭で干し肉を食べながら、ニコニコ顏でイチョウの木を見上げていた…。


 「…これをギルドに?」とアイゼンが布袋の中身を見て言う

 「はい」とクラウト

 「…なぜに?」とアイゼンがクラウトを見ると、メガネのブリッジを上げて

 「…いわゆる……ですかね」と言うと

 「…筋?…そうか…発案は君かな?」とアイゼンは言葉にして、椅子の背中に体を預けた。そして

 「…何が目的だ?クラウト君、君たちをこのギルドに招いた恩としては…あまりにも高額ではないか?」といい、しっかりとした視線を送ると、クラウトは小さく微笑み

 「1週間後、我々は遠征に出ます。予定は約3か月…120日です」と言葉にすると、ほぉ、とアイゼンが言葉に出し、クラウトの次の言葉を待った。


 「そこで、仲間を増やして帰ってきたいと思っています。そして…」とメガネのブリッジを上げて

 「帰ってきたら…、の討伐を行いたい」と言い、アイゼンを見る。そして

 「ギルド、パイオニアで!」と言うと、アイゼンは小さく笑いながら、

 「…君の意図が分かった。…約3か月かけて、私にパイオニアの戦力を整えておいて欲しいと言う事だな」と言い目を細めた。

 その言葉に、クラウトは頷く。


 「彼女が、この地に来て10年が経ちます。そろそろ頃合いなんじゃないですか?親友の弟子は、あなたの親友の仇を打ちたいと言っています。」と言うと

 「…おぃクソ眼鏡。そりゃ…どうゆう事だ?」とアルベルトが離れたソファーから声をかけて来た

 その方向を見て、クラウトが言う。


 「アサトが決めた。この地での目標は…クレアシアンの討伐、でも、アサトは知っている、自分らだけじゃ勝てない事を…だから、に来ました」と言い、アイゼンを見る。

 「この討伐戦は…パイオニアとしてやりましょう」と言い、大きく頭を下げた。

 ソファーに座っていたアルベルトが鼻で笑う

 「…ふっ、なぁ~アイゼン。俺はこのクソ眼鏡の考えには…とりあえず、同意する。借りを返さなきゃならないからな…。だが、やるかやらないかはお前が決めろ。」と言うと、アイゼンは小さく微笑みながら振り返り外を見た。


 外は、多くの狩猟者や一般人が行き交っていた、雪も解け、春が来ているこのデルヘルムに人がまた戻ってきている。

 そう、あのトンネルを通る事さえできれば…多くの者が、安全に黒鉄くろがね山脈の向こうと行き交うことが出来る…頃合い…なのかもしれない

 「…あぁ…クラウト君。君の言っている通り…頃合いなのかもしれないな…」と言いながら、小さく微笑みを浮べていた。


 すると、アイゼンの部屋のドアが大きな音を立てて慌ただしく開き、ポドリアンが息を切らして入って来た。

 一同がポドリアンを見る。

 ポドリアンは呼吸を整えてから、一度、大きく息を吐き出してアイゼンを見ると、

 「…まいった…さっき村で聞いたんだが…また、やられた!」と言う

 「おぃデブ髭…何の話だ?」とアルベルトが立ち上がりながら言うと、ポドリアンは、アルベルト、クラウト、そして、アイゼンの順で見てから言葉にした

 「…第2次討伐戦。…またドラゴンが来て…ほぼ壊滅だそうだ」と…。


 その言葉にアルベルトは目を細めた。

 そして、クラウトはブリッジを上げてポドリアンを見ている。

 アイゼンは、目を閉じて小さく息を吐き出すと、再び振り返り、窓から外の風景、そして、夕暮れが迫る空へと視線を送った。


 それから1週間後…正面門には、馬が2頭と馬車が1台あり、その前にアサトとクラウト、システィナにタイロンが立っていた。


 報酬の金貨20枚で馬を買い、金貨5枚で中古の馬車を買ってタイロンが直した。

 この馬車は、8人が乗れるようだ。


 タイロンが使用する、イミテウス鋼40%で出来た盾と鎧、兜の中古を購入した。

 システィナは青地にキイロと白の装飾が施されていて、軽量のイミテウス鋼の鎖帷子を表生地と裏生地の間にいれているローブを3着新調し、同じ色合いの三角で大きなつばをもつ尖がり帽子を購入した。

 クラウトも、軽量のイミテウス鋼の鎖帷子を表生地と裏生地の間にいれている、襟首の長く、裾も一直線に落ちている神官のローブを3着新調した。

 アサトは、肘あてに膝あて、そして、肩パッド。手の甲を守るモノと胸当てを3つずつ購入し、サーシャにナガミチの服を自分に合わせて仕立て直しを頼んだ。

 あとは、遠征用に、生活用品や食料に飲み物。

 野外での宿泊の為の装備などを購入したら、金貨60枚は使ってしまった。


 ま…仕方ないよね…


 泣いているチャ子と笑っているサーシャ。

 ポドリアンは、「グンガに会ったら、そろそろ帰ってこいと伝えてくれ」と言うと、その隣で、「あいつはキチガイだからな。言ってる事を理解できるかな…、」とグリフは笑いながら言葉にした。

 レニィが大きく手を振り、テレニアとキャシー、そして、依頼所にいた女性職員らが微笑みながらいて、その後ろにアルニアがつまらなそうに見ていた。

 インシュアは少し鼻をすすっていて、その隣でアルベルトは、「また3か月後に帰ってくるんだ、なにもそんなに悲しむ事じゃないだろう」といつも通りの冷ややかな目で言葉にした。


 アイゼンは、その者達の前に立ちアサトに手を出す。

 その手には、銀色に輝く板がついてあるネックレスがあった、それを見たアサトは微笑みながら「…ありがとうございます」と言葉にして受け取る。

 アイゼンは出した手を広げて微笑むと、アサトはその手を握り…

 「じゃ…行ってきます」と言葉にして小さくお辞儀をした。

 それを見て、「気をつけてな」とアイゼンが小さく微笑みながら言葉にした。


 アサトは一行がいる場所に行くと…「じゃ、行こうか…」と言葉にした。


 一行は頷いて、門に向かい歩みをすすめると、門の前にナガミチが見えた。

 壁にもたれながらアサトをしっかりと、優しい瞳でみている。

 そのそばに近づくと、握りこぶしを作って手前に差し出し、そして、左胸を小さく2度叩いて笑顔を見せた。


 その行動に小さく頷く

 …うん、心も共にだよね…分かっています、行ってきます…親父…

 と、心の奥で言葉にした。そして…


 3か月後…、また帰ってきます。


 仲間をふやして…。


 門を出ると空を見上げた、その空は大きく、そして、遠くに感じた…、あの時と同じく遠くに…。

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