第38話 いやな予感… 下

 林を抜けると洞窟の出入り口に着く。

 システィナは手際よく魔法石を装備した。

 アサトは小さく息を吐くと、松明に火をつける、そして、タイロンも同じく火をつけると、アルベルトが指をさして行けと命令をする。

 その言葉を聞くと、二人は並んで洞窟のなかに入った。


 出口が遠のく、光の破片でないので視界が悪い。

 足元を確認しながら進むと…、なにか走ってくるのに気付いた。

 暗闇に向けて目を細め確認すると、水が跳ねる音と共に喜びに満ちている声が近付いてきた。

 「…もしかして……」と言葉にするアサト、すると、横穴から男が飛び出してくる。

 その姿は見覚えがあり、思わず「あっ、」と声が出た瞬間。

 アサトは、「アルさん。クラウトさん…頼みます!!」と叫んだ!


 外にいたアルベルトがその声を聴くと…、

 「クソ眼鏡…聞こえたか?クソガキが何か叫んでる。…来るぞ。」と言葉にする。

 その言葉に「…あぁ…」と言い、一斉に、一同が洞窟の入り口から離れた。

 「…なにが来る?」とインシュアが、背中から剣を取り外すと構えた。


 アサトの横を、あの男…レインが通って行った。

 ものすごく喜んで…、そして、女が二人、その後にアサシンの男…すこし離れて…盾持ちの男が来る。

 その後からも声が聞こえると、アサトが盾持ちの男の足を引っかけて転ばした。

 「…クソガキ!!何しやがる!!」と叫ぶと同時に、目の前の穴から数名の狩猟人が飛び出してくる。

 その後に、ノーマルグールであろう影がゆらゆらと出てくる、それから、ゆっくりと大きな手が壁を掴んだ音が聞こえた。


 「ジャンボさん、あの人たちを頼みます。」と言うと駆け出した。

 タイロンは「おぅ」と言い、駆け出そうとするが、横になっている盾持ちを見ると頭を大きく蹴り上げた。

 男は、その衝撃に気絶をする。

 「…みんなこっちへ!早く!」と言いながら太刀を抜いた。


 その声に弾かれたように数人…4名の狩猟者が向かってくる。

 その後に、うっすらとノーマルグールの影が揺らめいているのが見える。


 …ノーマルグール…なのか?


 アサトは出口に向かう狩猟者の脇を、奥へと注意しながら進む。

 すると、ふいをついたように飛びかかってくるノーマルグールが確認できた。

 咄嗟に太刀を振りノーマルグールを斬りつける。

 ノーマルグールは、その刃に後退をすると、再び闇に溶け込んだ。

 松明を前方に向けて確認する。と…再び、ノーマルグールが闇から現れて来た。

 咄嗟に松明を投げて太刀を両手で持ち、松明の灯りに照らされたノーマルグールを確認すると、間髪置かずにそのノーマルグールめがけて刃を繰り出す。

 ノーマルグールは刃をかわすと、再び、警戒しながら闇へと後退をした。

 それを確認したら、きびすを返すように出口へと向かって駆け出した。


 林の前でアルベルトは、目を細めてなかの様子を見ていると男の影が見えた。

 その影は、なにやら楽しそうに駆けてくる、そして、聞き覚えのある声…が飛び出してくると「ッチ…あいつか…」と言葉を発した。

 「あっ」とシスティナ。

 出て来たのはレイン、そして、神官の格好の巻き髪の女、尖がり帽の女、それから少し置いてアサシンの男が出て来た。


 「みんな来たか?」とレインが言うと、「…いや、盾持ちが来ねぇ」とアサシンの男が声を上げる。

 「いい、とにかくにげるぞ!!」と言いながら林に向かって走ってゆく。

 それを見たアルベルトが、その4人に向い足に投げビシを投げつけると、レインから順番に前のめりで転んだ、

 「…ったく誰だ!」とレイン。すると


 「…クラウトさん」とシスティナが声をかける。

 「いいよシスティナさん。拘束して」と言葉を発すると、システィナは呪文を唱えて4名の足を氷で凍らせた。

 「…なんだこれ!!」とレイン、そして、アルベルトに気付くと少し引きつった顔で「…『ギガ』が来るぞ…こんな事したら…俺たち食われるだろう」と言葉にする。


 その言葉に「それで、お前たちは助けたのか?」とアルベルト

 「助けるって…」とレインが言う。

 「…あぁ~いいや、自分の身は自分で守れよ。俺の堪忍袋の緒は、残念ながら、今日はないからな」と言い、入り口へと視線を変えた。


 中から数人の悲鳴が聞こえ、その悲鳴は大きくなってきていた。

 「インシュアさん。彼らに傷を、囮になって貰います」とクラウトが言うと

 「…あぁ~、そう言う事か…さすがだ、クソ眼鏡。」と言いながら、レインの額に軽く傷をつけて血を流させる、そして、アサシンの男、神官の女、魔法使いの女とつけた。


 声が近付くのに気付いたシスティナが、出入り口に走り出す。

 それを、インシュアが見て「ちょ…シスちゃん。なにを!」と後を追う。

 システィナは洞窟の入り口に着くと、出る力一杯の声で叫んだ

 「出たら…横に逃げてください!」と…、すると、3名の狩猟者が出てくると同時に、その声に反応して真横に逃げ散った。

 「シスちゃん!」と、インシュアがシスティナを抱えるとその場から離れ、林の入り口にいるクラウトの傍までいってから下ろして。

 「まったく…シスちゃんは無茶するんだから…」とニカニカした笑顔を見せて言う

 「あ…インサン…ありがとうございます」と顔を赤くして言葉にした。


 アルベルトもクラウトに近付くと

 「…それで?クソ眼鏡。おとり作戦は成功だな。これからどうする?」と聞くと

 「アサトは必ずここに連れてくる。後は囮を殺さずに…囮に近づくグールを適当にあしらっておいてくれ」と言うと、アルベルトは不敵な笑みを見せて

 「…なかなかの名案だ。」と言い、出入り口に視線を移した


 しばらくするとタイロンが飛び出してくる、次に狩猟者の男…そして、

 「クラウトさん!アルさん!来ます!!」とアサトが駆け出してくる。

 それから、少し間をあけて、白い肌に真っ黒な瞳のノーマルグールが4体、アサトにつられて暗闇から出て来た。

 アサトは動けないレインの一行を見ながら林の近くに着く。


 「…あれは?」と指を指す。

 「…あぁ…これが本当のおとりだ」とアルベルトが言葉にすると

 「インシュア行くぞ、俺たちは、ノーマルにあいつらが食われないようにしていればいいようだ」と言いながら、囮のそばに向かった。

 その後をインシュアがニカニカ顔で付いてゆく。


 アサトの横で息を切らしているタイロン。

 システィナが水を差しだして一息をつくと、

 「さぁ~、卒業試験の始まりだ。ここからはぼくたちの力でやる。作戦は、アサトが向かって右側の足を集中して攻撃、できればアキレス腱を狙って。足の傷が大きく成り次第、ジャンボは向かって左足を持ち上げて転がす、それまでは、『ギガ』の攻撃を耐える。システィナさんは、氷の壁で、ジャンボを守り、ジャンボの補佐を。仰向けにしたら、あとは任せる。…首の動脈、脇でもいい、とにかく、致命傷になるところを攻めろ…いくぞ!」と言うと

 ジャンボとアサトが並び、その後ろにクラウトとシスティナが並んで入り口へと向かった。


 ジャンボは盾をしっかりと握りなおし、アサトは柄の位置を確認する。

 システィナはロッドを立てて両手で強く握る、クラウトは目を細め、そして、ブリッジを上げた。


 暗闇から大きな影が揺らめきだし、今にも出てきそうであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る