第37話 いやな予感… 上
「首を狙うんだ…」とクラウトが言葉にすると、「はい」とアサトが答える。
そこは、入り口から30メートル。
もうすぐ行くと、横穴…システィナたちが出て来た横穴につく。
光の破片であたりの視界は広く、周りを確認しながらタイロンは盾を前にして進み、そのすぐ後ろにアサトが辺りを見渡しながら進む。
アルベルトは腕組みをし、インシュアは、ズボンのなかに手を突っ込んで歩いていた。
システィナは両手でロッドを力強く握っていた。
「システィナさん…」とクラウトが声をかけると「ハイ…」と答える。
「緊張しないで…今まで通りでいいよ、とりあえず、水と風、炎の石をセッティングしておいて」と言うと、返事をすると震える手でバックを漁り、魔法石をロッドにセットした。
「さぁ~ここからだ…」とアルベルト、
「じゃぁ、慎重に行こう…」とクラウトが言うと、一同は小さく頷く。
その坑道は、幅や高さがいきなり小さくなった。
それでも、6メートル四方はあるだろうか、光の破片の光がかなり強く壁を照らした。
そこから数十メートル進むと緩やかな下り坂になる、それもかなり長そうだ…。
ゆっくりとその坂を下り、地下2層に着くと少し拓けていて、まっすぐな坑道が伸びている。
一行は、その坑道をゆっくりとすすむ。
7メートル四方はあろう坑道の壁には、2メートル四方の穴が点在していた。
「ッチ、薄気味わりぃな…」とアルベルトがボソっと言葉にした、その言葉に。
「…なんか、お前らしくない発言だな…」とクラウトが返す。
「…そうか?おれは案外臆病だぞ」と言うと、辺りを見渡した。
2人のやり取りを聞いていたアサトが振り返り、アルベルトを見た
アルベルトは壁の穴を注視している。
意外だった、あのアルベルトが臆病だなんて…。
「シスちゃんは大丈夫。俺が死んでも守るからぁ」と変な声が坑道に響いた。
その声にシスティナがインシュアを見る。
ニカニカしているインシュアの顏が、光の破片のせいなのか不気味に見えた。
小さく引きつりながら笑顔をみせるシスティナ、すると
「たぶん…その右の穴だと思います」とシスティナが言葉にする。
そこには、ちょっと大きめの穴があった。
「…あのレインってやつ、案外、ここの5層まで来ているのかもな…」とアルベルトが言葉にした。
「んじゃ…行くか…」とタイロンが言うと、クラウトが制止をさせる。
「いや…今日は、ここまでにしよう。」と…
タイロンがその言葉に振り返る。
「今日は、初日、みんな緊張しているし、ここは狭いから戦いづらい…だから、今日はここまでにして、明日、またトライしよう。」と言うと
「あぁ…いい判断だ」とアルベルトが言葉にして振り返る。
少し安堵の空気が流れた、そして、一行はもと来た道を戻る、途中、甲羅虫を2匹採取して今日の卒業試験を終えた。
それから、2日間。
2層まで行って、帰ってくるを繰り返した。
「どうもイヤな予感しかしねぇ~な…」と、帰りにアルベルトが洞窟の入り口を見て言葉にする。
その言葉にクラウトも頷いた。
アサトは二人の会話を聞いている。
「なにかはわからないが…」とクラウトが言うと
「…あれは、いるな。」とインシュアが言葉にした。
「あぁ、あの穴だ。あそこが境目なのかもしれない…クソ眼鏡の見立ては、間違ってないかもな…」と顎を撫でながら言葉にする。
「…あぁ、あそこの奥に確実に待っているな。」とインシュアが言葉にした。
「それで、クソ眼鏡…これからどうする…」とクラウトを見ながら言うと
「…我慢比べでもする…か…とりあえず、あの狭い範囲ではこちらが不利だ。相手の腕力は相当なものだから、できれば間合いを取って戦いたい。魔法も、あの狭さならこっちまで被害が出る。できれば…外まで…引きずり出したい」と言うと
「…同感だ。あの状態で、ノーマルまで相手にするのは、はっきり言ってきついな。最低でも1層だな」とアルベルトが言う
「それで…クソ眼鏡…。どうやって出すつもりだ?」とアルベルトが、腕組みをしてクラウトを冷ややかな目で見る。
クラウトは顎に手をあて、少しうつむいて考えてから、冷ややかな声で、「囮…だな」と言うと。
「…しかたないな…」とアルベルト。
そして、アサトとタイロンを見る。
…えぇ?もしかして…俺たちが囮?
「ちょっと待て」とタイロン。
「ここまで来て…あいつらと同じことをする気か?」と言葉にする、その言葉にアルベルトがため息をついて
「ッチ。まだいいじゃないか…囮と分かってやるんだから、戦わなくてもいい。ただ外まで逃げてくればいい」と言うと、
「じょ…冗談じゃ…」とタイロン。
その言葉を遮るようにインシュアが言葉にした。
「あぁ~、なら、明日、ポッドとグリフも連れて来ようぜ、明日は、たしか…護衛の仕事無いからな、あいつらならちょっとかまれたくらいでも、笑っていると思うから…」と…。
アルベルトは少し考えて、「…まぁ…それでもいいか…」と言うと
「なら…そうと決まれば、今日は帰って飲もうぜ!」とインシュア
…そんなんで、いいのかな…とアサトは思っていた。
翌日。
案の定、ポッドとグリフは来なかった。というか…来るわけがない。
話しを聞くと、インシュアが囮になれと言ったらしい。
いきなりの囮発言だったが、最初は承諾したようだ。
だが、2層から地上まで走ってこい、全速力で、死に者ぐらいで…そして、噛まれても笑って出てこい、そっちの方が面白い。って、アルベルトが言ったら。
そんな距離を全速で走って、噛まれた上に、ウケまで狙えるかと言って、断ったらしい…。
そりゃそうだ、あの二人なら…ってか、たぶん、だれでも断るよ、おとりとウケを狙えって言われたら…
そういうわけで、アサトとタイロンが囮になる事になった。
洞窟近くの林を抜けると一度拓ける、そして、洞窟前の林に入る…が、その前にアルベルトが何かに気付いた。
林を抜けたところに確かに何かある。
アルベルトがその場に行く、そして、何かを見下ろしている。
一同は、アルベルトに近づき、その場を見た。
「…だれか…いたな…」とタイロンが言うと、
「…食事の後もありますし…テントのあとでしょうか…」とシスティナがちょっと離れたところを指さして言葉にした。
一同は、その方向を見る。
「…あぁ、たしかに…ここで夜を越したな…って事は…」とアルベルト。
「…うまく立ち回ってくれればいいがな」とインシュアが言いながら林の方を見た。
「…誰なんでしょう…」とアサトが言うと、
「まぁ…デルヘルムの狩猟人でない事は確かだな、遠征で来ているパーティー、それも大人数だ」と、クラウトは言いながらその場を後にした。
「ッチ…いやな予感しかしねぇな…」と言いながら、アルベルトはクラウトの後を追う。
一同もちりじりに後を追い始めた。
そこには、長さ1メートルほどの丸太が5本、円を描くように並べられている、そして、その中央には火をつけていた形跡が残っていた。
まだすこし暖かいその場は、そこからパーティーがさってから時間はそんなに立っていない事を表していた。
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