第35話 卒業試験 上

 背中に傷を負った2体のゴブリンは、アサトの左右に散ると同時に攻撃を繰り出して来た。

 咄嗟にその攻撃をよけるが動きは止めない。

 着地した右足を踏ん張って、上から1体の首に向って刃を優しく振り下ろすと同時に、そのまま刃で円を描くように2体目のゴブリンに向かって上へと振り上げた。


 1体目のゴブリンの首から血が噴き出し、振り上げた刃は、もう1体のゴブリンのわき腹に裂け目をいれた。

 横腹を斬られたゴブリンは血を出しながら転がる。

 それを追随して、仰向けにすると首を一刺しにして…振り返る。

 「アサト!太刀は2本、最後は君だ!」とクラウトの声が聞こえた。

 その声に頷くと、今使った刃を布で拭いて、もう一本の太刀を鞘から抜き、システィナの攻撃を食らったゴブリンに向って走った。


 「ぐぁ!」と、ジャンボが残ったゴブリンの頭をカチ割り、剣の刃を布で拭いていると、そこにクラウトとシスティナが寄って来て笑みを見せ、アサトの姿を追った。


 駆け寄るアサトに気付くと、ゴブリンは両刃剣を背中から外し、両手で構えて向かってくる。

 突き出してきたゴブリンの剣を太刀でかわすと、すかさず右上から太刀を振り下ろす。

 その攻撃をよける為に、飛びあがったゴブリンめがけて左手の太刀が襲った。

 ゴブリンの左腕に切り傷が現れるのを見ながら、その動きに同調をする。

 ゴブリンは、着地すると同時に右上から左下へと剣を振り始める。

 その振り下ろされる剣を、右の太刀ではじくと左の太刀で首を斬りつけ、右の太刀で、再び首を斬りつけた。


 2本の切り傷から大量の血が噴き出すと、アサトは、太刀を一本雪に刺して、手にしている太刀の刃から血を拭き取ると鞘に仕舞い、刺していた太刀を手にして布で血を拭き取ると、鞘に仕舞った。


 「…初陣のパーティーにしては…うまく行きすぎだな」といいながら、インシュアが動き出した。

 「…ッチ、仕込みの時間が長かったから、そうでなくては困る」と言い、アルベルトは空を仰いだ。

 チャ子はインシュアについて行き、狩ったゴブリンの死体を漁り始めた。

 アサトは、狩猟者をつれてインシュア達のほうへと進んだ。

 クラウトらもゴブリンの死体を漁り始めていた。


 今回の戦いは、初陣にしてはちょっとだけ難度が高かったようだ。

 実際、今回は、アサトは2体相手の予定だったが、その2体は、アサトを通り越して弱いと見た神官と魔法使いを狙った。

 それで、アサトは咄嗟に後ろにいたジャンボが相手をしているゴブリンを対象とした、ジャンボはアサトを通り越した2体へと対象を移した。

 これは、理想の形だとクラウトは説明した。

 あの時、焦ってアサトが取り逃がした方を追っていたら、陣形がバラバラになってしまうところだったと言う事だ。


 アサトの判断に、しっかりと反応を見せたジャンボもよかったようだ、すぐに対象を変えて、持ち前の引き付け効果を見せた事も…。

 システィナも上々であった。魔法の破壊力は、まだまだ火力不足は否めないが、止めるだけの攻撃は出来た。

 今回の戦闘は、80点だろうとクラウトは微笑みながら言い、皆に賛辞を贈った。


 ゴブリンの死体を漁っていたチャ子が何かを発見し

 「…これ…くっさっ!」と言いながら投げ捨てた。

 アルベルトが近付いて、その物体を確認する。

 「なんだ?」とインシュア

 「…これは…、””と言う、奇妙な揮発性のある””をだすと言う石じゃないか?」といいながらじっくりと見ると

 「パインシュタイン遺跡か?」とジャンボが言葉にした。

 「かもな」といいながら、その石をジャンボに投げた。

 その石を手にするジャンボ。


 石の大きさは、直径5センチ程の大きさで真っ黒く、少し冷たい感じがしていた。

 また、手にしていた場所はうっすらとしめり、鼻を突くような匂いがあった。


 「…これは?」となにやら、手にしている袋からチャ子が出す。

 それには10センチ程の白く反りあがり先が尖ったものがあった。

 それをクラウトが手にする

 「これは…ライカンの牙みたいだな」と言うと

 「…ライカン?」とアルベルトが言葉にする。

 「こっちにもあるぞ」とインシュア。

 「あっ、僕の方にもあります。あと…なんかアクセサリーも…」とアサトが手にして見せた。


 「…」クラウトは顎に手を当てて考えた、そこにアルベルトが近付いて

 「おいクソ眼鏡…、お前も同じことを考えているな…」と言葉にすると

 「…パインシュタインの遺跡は…ライカンの根城だったはず…石…、ゴブリン……、となれば…。もしかしたら…今は、別のモノがいると言う事か…」と言い、アルベルトを見た。

 「…あぁ、おれも同じ見解だ。このゴブどもは、その残骸から、それを取って来たのだろう、と言う事は、ライカンの死体がさらされている所があるな…だとすると…オーガか…オークだな…」と言い、考えた。


 「あいつらは厄介だ。組織で襲撃してくる…。」とクラウトは言葉にすると、アルベルトも小さく頷いて

 「パインシュタインは、ゲルヘルムに近いからこちらには被害は無いと思うが…一応、アイゼンの耳には入れておいた方がいいな…」といい。

 クラウトから牙を受け取ると、ポケットから白いハンカチーフを取り出し、その牙を包んで遠くを見た。


 …ライカン…オーガ…そして…オーク…

 アサトは、アルベルトを見ながら、二人が言っていた言葉を口ずさんでいた。


 アイゼンはその牙を手にして、この街への脅威とならなければいいがと言い、衛兵詰め所への情報を提供し、警戒をしてもらう事にした。

 また、アルベルトは酒場の情報で、どうやらパインシュタインの遺跡は、と名乗る、大型のオークが先頭に立って占拠しているようだと言う情報を得た。

 クラウトは、キャシーなどから、幻獣リベルに追随してきたオークが、その遺跡を発見して、住みついていたライカンを制圧したと言う情報得た。

 そのなかの『デ・ライカン』もに殺され、遺跡の近くに、数体のライカンの死体と共にさらされているみたいだった。

 そのライカンらを制圧したの一団には、数体の『巨大鬼オーガ』も引き連れている。

 また、近々、オークプリンスはなにやら始めるつもりなのか、遺跡の周りの木々を伐採して大きな広場を作り、そこにやぐらを立てているとの事で、ゲルヘルムの街は、警戒を強くしているとの情報も加えて得た。


 そんななか、ゲルヘルムでは、近いうちに『第2次幻獣討伐戦』が行われるようである。

 この街にも、依頼所に張り出されているようだが、それは話しの種にしかなっていないようであり、それに参加しようと思う者は皆無に等しかった。

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