第30話 傭兵への依頼 下

 「…30枚だとぉ?」雇用紹介所カウンターでジャンボが声を上げる。

 「依頼者は、それくらいしか満足できなかったみたいですね」と、キャシーが微笑みながら言葉にした。

 「…あのクソガキ、あんなに俺を叩いておいて、これだけかよ…」と言いながら、布の袋に銀貨をいれた。


 「じゃっ」と手をあげその場を後にしようとした時に、キャシーが声をかけた。

 「待ってください。また依頼が入っています」と、その言葉に振り返ると

 「明日の10時ここに来てくださいって事です。報酬は今日と同じ、成功報酬…銀貨50枚です」と微笑みながら言葉にした。


 翌日、3つ目の鐘が鳴ると共に、ジャンボはその家のドアをノックした。

 「どうぞ…」と、間もなくなかから声がする。

 ジャンボはゆっくりと扉を開けて中をみると、キッチンの方から女の子がエプロン姿で駆け寄って来た。そして

 「タ…タイ……ロンさんですね、こ…こんにちは、わ…私は…、シ…システィナです。」と、おどおどしながら言葉にすると、不思議そうに中をみてからシスティナに視線を移す。


 「…お…おれに傭兵の依頼をした人に会いたいんだけど…」と言葉にすると、システィナは頷いて

 「は…はい、わ…わた…わたしが…依頼しました」と頭を下げた、はぁ~?と言うような顔でシスティナを見るジャンボ。

 「きょ……今日は、わ…わた…私に手伝って…ください」といいながら顔を上げると、呼吸を置いてゆっくりとタイロンを見上げた。


 少し視線が合うと、慌てて部屋の中を見渡し、

 「ま…まずは、2階の部屋のお掃除をお願いします」と引きつりながら言う。

 「狩りは?」と、システィナに言うと

 「か…かり…狩りには行きません、お、お、お掃除を…お願い…します。」と言いながら、再びタイロンを見上げた。

 「きょ、今日は天気がいいので、ま…まど…窓は全開で大丈夫です」と言葉にすると、

 「…報酬は…」と半信半疑で言葉にするジャンボ。

 「は…はい、お支払いは、ちゃんとしますよ。ちゃ、ちゃ…ちゃんと、わた…わたしの要求にこたえて…くれたら…」と答えた。

 タイロンは頭を掻きながら…それじゃと中に入り、依頼通りに掃除を始めた…。


 2階が終わり、1階のトイレを掃除しているとシスティナが来て声をかけた。

 「お…お昼なので…ご飯を…どうぞ…」と、その言葉に、首を傾げながら立つと天井にぶつかりそうになり、システィナは目を大きくさせた。

 その表情に少し、顔を赤らめるタイロン。

 天井をちょっと叩いて、「大丈夫。壊さないよ」と小さく、引きつりながら笑って見せた。

 その表情にシスティナも小さく笑い、手をキッチンの方へと差し出した。


 キッチンの食卓には、肉や野菜、そして、パン。などが並んでいる。

 席に着くと、スープを目の前に出す。

 「ど…どうぞ。」と言いながら、小さく微笑む、その表情を見ながらタイロンはスープに口をつけた。

 「あっ、う、うまい…」と思わず言葉が漏れた。


 そのスープは、ニンジンとタマネギ…そして、チャ子の干し肉とジャガイモが入っていて、汁には、干し肉の他にほんのり魚介類の香がした。

 タイロンには、その味が遠く、懐かしい感じがしていた。


 「あ…ありがとう…ございます。」とシスティナは小さくお辞儀をする。

 「…あっ、いや…。これは君が作ったのか?」とタイロン

 その問いに笑みを浮かべて

 「は…はい…わたし…お料理が好きなんです。毎日…朝と夕方は作るようにしてます。私はこのパーティーでは、なんの役にも立てないかもしれない…でも、アサト君も言っていましたが、自分の出来る事を精一杯やるって…だから、今できる事をやってみようと思っています。魔法の練習もそうですが、このような事も…私は好きなんで…食事…」と言葉にすると、タイロンは…

 「…今…出来る事…」とつぶやくと、

 「ハイ…頑張って…生きなきゃ…、そ…その為にも…」とシスティナはうつむいた…。


 そのあと、タイロンは家じゅうの掃除をして、午後15時にはデザートを頂き、17時に依頼が終わる。

 タイロンがアサトの家を後にするとき、システィナがバスケットを差し出した。

 「お家に帰ったら食べてください…味は保証しませんけど…」と、ちょっと顔を赤らめながら言葉にする。

 そのバスケットを受け取ると、ほのかに暖かいのに気付いた。

 先ほどのスープが入っている、そして、重さから言って、その他にもパンと肉が入っているようだと感じた。

 小さくお辞儀をしてその場を後にする。


 翌日の8時に、報酬を受け取りに傭兵紹介所に現れたタイロン

 「…こんなに…もらっていいのか?」とキャシーに声をかけると

 「はい…なんか、褒めて下さったので、満足だったみたいですよ」と笑顔で言葉にする。


 その手には、銀貨40枚があった。


 ただ掃除をして、食事をいただいた。

 デザートも…そして、晩御飯…、あれは、懐かしい味のしたスープと焼き立てのパン。

 肉はローストされており、ニンニクのきいたドレッシングがかけられてあった…。

 ただ…掃除をして、食事をいただいただけなのに…。


 「タイロンさん…」とキャシーが言葉にする。

 「?」とタイロン

 「今日も、ご指名です。」と言い、紙をタイロンに渡した。

 そこには住所が書いてあった。

 「…あれ?」と首をかしげたタイロン、その向こうには笑顔のキャシーがいた。

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