第29話 傭兵への依頼 上

 数日後の夜、クラウトはアサトを連れ出し、『ジーニア』の店に行った。

 その日も、おおくの狩猟人が酒を飲み交わし、その場は盛り上がっていた。

 危険を承知で山越えをした者もいたが、この地に残っている狩猟人は少なくはない。


 今、話題の甲羅虫の洞窟などに向かっている狩猟者もいたが、洞窟はここだけでなく、ある程度遠出すると同じような洞窟は沢山あり、そんな洞窟などで越冬をしている種族を狩る者もいた。


 クラウトは、店に入るなり指をさす。

 「彼は、タイロン…ジャンボと言われる男だ。」と

 「ジャンボ?」とアサト。


 その後ろ姿は大きく、首や顔は真っ黒な肌で、頭はサイドを刈り上げ、上の髪は肩くらいまで長く、そして結わえてあった。

 髪の質は、チリチリの細かい天然パーマのようである。

 白いシャツに黄土色のズボンと長いブーツ姿であった。


 長い外套のマントから雪を払いながら、アサトらは兎耳の女性、以前来た時にあった女性…とは違う、ピンクの長い髪が前にたらされ、うっとりとした目つきの兎の亜人と人間の合いの子“イィ・ドゥ”に席へと案内された。


 「ピッチさんの?」と聞くと、女性はふふふっと笑いながら

 「一番上よ」と言う。

 その言葉になぜか照れた。

 席に案内されると、アサトの前に肘をついて胸の谷間を見せながら、うっとりとした視線で近づいてくると

 「何を飲む?…それとも…私をご所望?」と言葉にする。

 その言葉に赤くなり、一度、女性の胸の谷間を見てから目をそらした。

 「ヤック、インシュアさんと違うんだ。からかわないでくれ」とクラウトが言葉にした。

 「クラウト…この子可愛いじゃない。」といい、エールとジュースねと言いながらその場を後にした


 「まったく…」と言い、クラウトはジャンボを見る。

 ジャンボはカウンターでエールを飲んでいた。

 「ここまで来るうちに説明はしたが、アサトはどう思う?」と言うと、その言葉にジャンボを見る。

 「…どう…と言われても…」

 「僕の見立てだと、彼はかなりの戦力になると思う、君次第だが、僕はこのパーティーの要として、彼を仲間にしたいと思う」とアサトを見て言う

 「仲間…ですか?」とアサト。


 「…無理は言わない、でも時期も時期だ。僕は、自分なりにこのパーティーでの存在を考えていた。僕はこのパーティーでの参謀と考えている。自分勝手だが…」と言うと、その言葉にアサトは小さくうつむき

 「…そうです。実際、アルさんたちから卒業したら、僕が頼り、そして道をつけてくれるのは、クラウトさんだと思っています。」と言葉にすると、クラウトは、メガネのブリッジを上げ

 「僕は、冬が過ぎたら遠征に出ようと思っている。アルベルトやインシュアさんを除いて、純粋なチームアサトで……、この遠征で少なくとも2名、多くて4名の仲間が出来ればいいと思っている。」

 その言葉にアサトはクラウトを見る。


 「仲間…ですか」とアサト、その言葉にクラウトは頷き

 「この遠征は、いずれこの黒鉄くろがね山脈を越え、大きな海を越えた地へと進む旅の為の一歩と思っている。君はこの地だけ旅をして、生き方を決めようと思っていたのか?」

 「…いえ…、僕は…」


 ナガミチの言葉を思い出していた。

 世界にあらがい、そして、生きたあかしを残す。

 その言葉は、システィナに対しても言った同じ言葉であり、この言葉を見つける為には、ここだけでは終われないとは思っていた。

 ただ、今までこの壁の中で、修行に明け暮れていた事に、すっかりなじんでしまっていた自分に気付いた。


 「…そうですね。ぼく…すっかり忘れていました。おかしいですね、クラウトさんに言われるまで、このまま修行をしている所でした。…遠征…、行きましょう」と笑いながら言葉にする。

 「…うむ、アイゼンさんやアルベルトとも、このことについては相談済みだ。ただ、このままのパーティーでは戦いにならない、戦闘の要、盾持ちが必要だ、盾持ちの力次第でメインアタッカーの君が有効に生きる、そして戦術の組み立てもできる。」と言葉にして、ジャンボを見る。

 アサトも、続けてみる。


 「…扱いづらそうですね。怖そうだし…大きいし…チャ子が喜ぶかも…」といい、運ばれてきたジュースを口にする

 「そういうのが、一番戦力になるんだ」といい、エールを口にした

 「…ジャンボ…さん、ですか…」と言いながら、アサトはジャンボの大きな背中を見ていた。


 数日後、そろそろ暖かい陽気が現れてきた8月後半。


 牧場では、チャ子が牛相手に遊んでいた。3の鐘が鳴るころに、そこに向かって外套に身を包んだ大男がゆっくり坂を登って来た。


 チャ子が、その男に気付いてアサトの所に行く

 …ゴリラ…みたいだ。とアサトは思いながら男の姿を見ていた


 そばに来ると

 「お前か?俺指名の傭兵依頼をだしたのは?」と見下ろしながら言葉にする。


 …ジャンボ…でかぁっ。そばにいるだけでも迫力があるのに、そんな声で話しかけられたら…と思いながらちょっと後ずさりして、小さく引きつった笑みを浮かべながら何度も頷いた

 「けっ、こんなクソガキが…1日で銀貨50枚もくれるのかよ…世の中どうしたらこうなるんだ」と外套の中で腕組みをしながら周りを見た。

 アサトの傍にいるチャ子が、警戒態勢に入っている。


 …チャ子ちゃぁ~ン。


 「一応…成功報酬なんで、僕がなっとくしなきゃ全額は支払いませんけど…」と言葉にすると

 「あぁ~~ん?」と怪訝そうな顔をアサトに見せた、すると、チャ子がアサトの前に立ち、戦闘態勢でジャンボを見上げていた。

 「チャ子大丈夫。あっ、この子はチャ子です。ぼくの修行に付き合ってもらっています。」といい、戦闘態勢のチャ子の頭を押さえて下げさせた


 「ふん。」と鼻を鳴らすと

 「まぁ~依頼所のねぇ~ちゃんからも言われているから分かっている。それで、何を狩るんだ」と言葉にすると

 「いえ、狩りはしません」と言い。

 「今日は僕に付き合ってもらいます。そうぉ~ですね…まずは木柱になって貰えますか?」と雪に刺してあった木刀を手にする。

 「木柱です。あっ、兜もつけてください。んで、ただ立っているだけでいいです。ぼくジャンボさんを叩きまくるんで」と笑い、木刀を構えた…。


 そして…

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