第28話 ゲルヘルムの事件 下
ギルド協会は、依頼所5階に事務所を構え、その5階に大きな会議室を設けてあった。
その3階には、クラウトの恋人キャシーが働いている。
会議を終えたクラウトは、キャシーの顔を見に3階へと進んだ。
「…今日はなにもないのか!!」と黒い肌で大きな男…190センチ以上はあるであろう大男が、傭兵紹介所のカウンターにいるキャシーに詰め寄っていた。
「ジャンボさん…いえ。タイロンさん…、今日は、もう依頼はありませんし…、指名も…」と小さく微笑みながら言葉にすると
「もう、一週間もなにも無いっておかしいだろう!」と言葉にした。
「…えぇ~、そうですね。外は雪ですから…、狩りは少なくなってきていますから…」
「…おかしいだろう!狩りは無いけど、他の仕事があるはずじゃないのか?雪かきとかあってもいいんじゃないのか?」と大きな声で言葉にしていた。
キャシーがクラウトに気付くと、少し困った顔を見せて笑った。
「…あす、また来てみてください。こちらの方でも、タイロンさんを紹介しておきますので…」と言うと、大きく鼻から息を出し、目を細めながらキャシーをみる、そして、
「…あぁ~、分かった。とにかく金が必要だ。このままだと生きて行けねぇ~、なんでもやるからよろしく頼む」と言葉を残すと、その場から後にした。
クラウトたちの横を通り過ぎるジャンボを、メガネのブリッジを上げて冷ややかな視線で見るクラウト、その横でジャンボを見上げているシスティナ。
ジャンボは、まっすぐな視線を向けて二人を通り過ぎて行った。
後ろ姿を見てから、クラウトは顎に手を当て考えた。
すると、「ごめんなさい。」とキャシーが声をかけて、その場に来ると、システィナが小さくお辞儀をした。
「…すごい剣幕でしたね…」とシスティナが言葉にすると、小さく笑いながら「慣れているから」とキャシーは言葉にした。
3階にある待合室のテーブルに3人は座り、話を始めた。
キャシーは休憩を貰ったようであった。
以前のクラウトの状況に、キャシーの同僚も危惧していたようであった。
クラウトは、キャシーと交代してくれた女性にお辞儀をすると、笑みを浮かべて返してくれた。
キャシーの話しでは、キャシーの同僚は、クラウトの復活を喜んでいるそうである。
容姿と知性の高さは、この依頼所でも有名で、いずれ、どこかのギルドマスターになってもおかしくないと噂をされるだけの人物であった。
そんな彼の憔悴ぶりと、彼に付き添っていたキャシーの憔悴ぶりは、この3階の者は大変に心配していたようであったが、アサトと出会い、自分の道を見出した事による復活と、キャシーの回復には、彼女らも胸を撫でおろしていたのだ。
「ジャンボ…さんですか?」とシスティナが言うと、茶黒く暖かい飲み物を運んできたキャシーが頷いた。
「彼は、隣のゲルヘルムから流れて来た人なの」と話を始めた。
彼女のはなしだと…
どうやら、ジャンボこと、タイロンも、レインと因縁があるようだ。
彼は、2年前にデルヘルムに
小規模だったので、彼らに依頼は回って来ずに、単独パーティーでの狩りが主になっていた。
約1年が経とうとした時に、彼らレインに出会ったようだ。
ゲルヘルム近くにある、遺跡に狩りに行く話しを持ちかけられたそうである。
その遺跡には、ライカンと言う、オオカミの亜人が住みついていた。
遺跡は、地上3階、地下4階の建造物であり、話によれば、その地下は、まだまだ続いており、古の遺跡へと通じる道があるとの事だった。
いまでもそうであるが、古の遺物は、この世界では高価な換金率を誇っている。
ただ、この遺跡の情報は、デルヘルムには一切届いていなかった.
ゲルヘルムでは、遺跡にライカンの大型種『デ・ライカン』が住みついている情報があり、その『デ・ライカン』を筆頭とした一団が近辺の村や女性を狙い、かなりの被害が出ていたので、討伐依頼が出されてあった。
ただ、その当時、この遺跡の中には神秘の石と言うものが存在していた。
その石は、なにやら揮発性の高いガスを発し、そのガスに火元を近づけると火が着く。
その火は、石の発するガスが無くなるまで着き続けるような摩訶不思議なガスであった。
現在でも、貴族の間で、この石が部屋の照明や調理などにつかわれてあった。
王都では、その石を使い、ガス灯と言う、篝火とは違う夜の灯りを作り出して、歩道などを照らしてあった。
その石の採取に誘われたのだ。
ジャンボたちは、その遺跡にライカンが住んでいるのも分からずに、レインについて行き、その遺跡で囮にされて全滅をしたようであった。
その後、一人残ったジャンボは、ゲルヘルムでレイン達を見つけ出し、復讐しようと思ったが衛兵につかまり、事の真相を話したが、証拠不十分でレイン達は見逃され、ジャンボは2か月拘留されたのち釈放されたのであった。
ゲルヘルムで仲間を作ろうとしたが、言い寄ってくる者、皆の言葉を信用することが出来ず。
単発の仕事をこなすことにしたようであったが、その単発の仕事ももめ事が多く、ゲルヘルムでは毛嫌いされ始めたので、8か月前からこのデルヘルムに帰ってきたようであった。
そして、現在…この地でも同じような状況をまねいていた。
「…これは、ゲルヘルムから来た人に聞いた話で、どこまで本当なのかは分からないけど…」とキャシーは言葉にすると、クラウトは顎に手を当て少しうつむき考えた。
その考えの向こうになにがあるのか…その時の二人には分からなかった…。
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