第26話 二刀流 下
チャ子は、冬はダメなようだ。
暖炉の前で、毛布を被って引きこもりに徹していた。
そしてもう一人、インシュアも外には出ずに、家に居てエールを配達してもらっていた。
ナガミチの家の2階の修復も終わり、チャ子も再びここに居候をしている。
今回の修復で、2階は部屋が増えた。
前は3部屋だったが、6部屋になった。
中庭の上に突き出した状態で、3部屋が追加された。
アイゼンの配慮で、客間や仲間が出来た時に使えるようにと図面を引き、修復、いや、リフォームをした。
ナガミチの遺産から代金を支払った。
ナガミチの資産は、多いとは言えなかったが、とりあえず、今回のリフォーム分はゆっくり出せた。
アルベルトとクラウト、インシュアとアサトの4人で、遺産の分配について話し合った時に、まずはリフォーム分を出して、残り…金貨120枚ほどは、アサトが手にする事になった。
二人はそれなりに資産もあるし、どうやら、そういうのに興味はなさそうだ。
インシュアは、「この世の贅沢は、貧乏でいる事!おれが、この家にいるうち、飲み食い、そして、このソファーを使わせてくれれば、そんなのお前が使え」と訳の分からない事を言っていた、インシュアらしいが…。
アルベルトは冷ややかな目で興味ない。と言葉にしていた。
インシュアの話しだと、アルベルトの所持金は、ナガミチよりあるみたいだ、かなり腕が立つから、依頼の金額は通常よりも高めなのだそうだ。
クラウトは、その金はパーティーの為に使おう、と言う、その意見には賛成だ。
お金の管理をクラウトに任せた。と言うか、アサトが指名をした、彼は断ったが、アルベルトの説得でクラウトが管理をする事になった。
クラウトは容姿に反しないほどにしっかりした人であった。
服装なども、黒くて長い神官服をきっちりと着こなし、また日記のような物もかいている人であった。
お金の管理を任せると帳簿を記し始めた。
話しは逸れたが…。
そんな家のリフォームが終わったころに、部屋を追加してよかったと言えるような出来事が起こった。
朝の修行に出ようとクラウトと外に出る。
すると、黒いウィッチマントを羽織った女の子が家の前に立っていた。
フードを目深にかぶっていて、手は白い毛糸の手袋、そして、大きな三角の鍔を持った尖がり帽子と、白く長いロッドを横にして持っている女の子であった。
「…システィナ?…さん?」とアサトが言葉にすると、女の子がフードを外して微笑みながらお辞儀をした。それを見て
「…どうしたの?」と言葉にする。
「…おはようございます」とシスティナが、クリっとした目を細くして微笑んだ。
「あれから大丈夫だった?」とクラウトが言葉にしながら、システィナに近づくと、
「あれから、色々考えました。」と言葉にした。そして…
「あのあと…、みんなの遺品を整理して色々な事を考えました。わたしも…、わたしは、これからどうやって生きて行けばいいか…。そして、クラウトさんやアサトさんの話も参考にさせてもらいました。答えが出なかったのでパイオニアに足を運ばせてもらいました」と言うと、クラウトとアサトが目を合わせる
「パイオニアに?」と、アサトがシスティナを見て言うと
「ハイ…アイゼンさんに会ってきました。そして、自分の心境を話しました。アイゼンさんとサーシャさんは親身になって聞いてくれました。と言うか、ぽ…ポド…リアンさんが仲介してくれたので…」と言うと、帽子を握りしめる
「二人の言う事には…、そんなに焦らなくてもいいのではないかと言われました。急いでどうこうなる訳でもないから…と、そして、…アサトさんが言っていたような事をおっしゃっていました。“今自分が出来る事を、精一杯やればいいのではないか?”と…。だから…」と言うと、頭を大きく下げた。
「…わたしは、あれから魔法の勉強をしてきました、今できる事は魔法を使う事です、そして…、誰かと一緒じゃなければ生きて行けない事です…こんな弱い気持ちの私ですが…どうか、アサトさんのパーティーに入れてください!」と言葉にした。
その光景を窓からチャ子が見て、インシュアを起こし、指差しながら言葉にしている。
アサトとクラウトは、顔を見合わせていた。
頭を掻きながら窓の外を見ているインシュアは、その光景を見て、あくびをし、腹を掻きながらソファーに戻った。
アサトが、システィナの前に立ち大きく頭を下げた。
「ごめんなさい」と、システィナは、頭を上げてアサトを見る
チャ子は手で口を押さえ、寝ながらその言葉を聞いているインシュアは小さく笑っている
クラウトは、メガネのブリッジを上げて、アサトを目を細めて見た。
アサトの行動を見ながら「…そ…そうで…」とシスティナが声をだすと、アサトは顔を上げて大きく微笑んだ。
「ぼく、弱いです。」と言うと、システィナは目を丸くしてアサトを見る。
「ぼくは、まだまだ誰も守れないほど弱いです。毎日、アルさんにダメ出しされて、心が何度も折れそうになっていました、クラウトさんも手伝ってくれていますけど、自分がどれだけ成長しているのかわかりません、だから、システィナさんのように、ぼくも誰かと一緒じゃなければ生きて行けません。…こんなにポンコツなぼくですけど、最初に謝っておきます。それを許してくれるなら…ぼくらと行きましょう!」と手を出すと
「…は…はい…」と、その手をとった
「システィナさん。君は本当にいいの?僕もそうだったけど…、アサト君が向かおうとしている旅には、想像もできない事が待ち受けている可能性がある、それは、死を伴うことになるかもしれないよ、僕らの為に、アサト君の旅を妨げる事も出来ない、アサト君が進もうとしている道を、盲目の状態でついて行かなければならない…それでも…大丈夫なの?」とクラウトが言うと
「クラウトさん、そんなに脅さないでくださいよ」とアサトがシスティナの目を見て言う。システィナは大きく深呼吸をして
「わたしは大丈夫です」と言うと
「誰かに引っ張って行ってもらわなきゃ生きて行けないです。自分で自分を守る強さも欲しい、アサトさんやクラウトさんらの為に…頑張りたいです。今までとは違う自分に…強い自分に…」と言うと
「大丈夫ですよ、システィナさん。ぼくも強くなります。“強い”の意味は分からないけど…、でも一緒に強くなりましょう。」と微笑むと、振り返りクラウトを見る
「…それに…、クラウトさん」と言葉にする
「僕に、“くん”を付けて呼ぶのはやめてください。クラウトさんは、アルさんと同じなんですから、呼び捨てで構いません…と言うか、そっちの方がいいです。」と言葉にした。
その言葉にクラウトはちょっとうつむき、メガネのブリッジをあげると
「…そう…わかった。」と言い、アサトを見る。
「とりあえず僕からの提案だ、システィナさんに現状を知ってもらってから、仲間にはいるかどうかを選択してもらおう。」と言う
クラウトは以前にアルベルトから言われた言葉を思い出し、そして、この言葉の正しさを理解していた。
この草原だけで狩りを続けるのであれば、簡単に仲間を増やすことはできるが、この旅は、そんな簡単な事で仲間は増やせない、一度仲間に入ったら、主導権はアサトにあり、アサトが選ぶ道を自分らが妨げてはならない。だから、このパーティーの参謀として、しっかりと伝えておかなければならないと思っていた。
「…そうですね…じゃ…お願いしてもいいですか?」とアサト
その言葉に頷くと、システィナを家のなかへと招いた。
その後ろ姿を見てから、アサトは一人牧場へと向かった。
その走る後ろ姿をシスティナは見送っていた…。
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