第25話 二刀流 上
2の鐘がデルヘルムに響き渡ると、修行場の牧場にアルベルトとクラウトがやって来た。
アサトは、いつものように基礎修行をやっている。
インシュアは飲み過ぎたのか、今日は休みだと言っていたようである。
アルベルトとクラウトは、神妙な面持ちでなにやら顔を突き合わせて話している。
クラウトが、ナガミチの書籍に目を通していた。
チャ子は相変わらず元気で、今朝は牧場主の手伝いをしていた。
頷いているアルベルト…、クラウトがなにやら説明をしているようだ。
…なにがあったのかな?
アサトは、チラリチラリと二人を見ながら修行にいそしむ。
しばらくすると、アルベルトがアサトに近づき、「…よし、今日から最終段階だ」と、言葉にすると立ち上がれと命令をする。
その後ろにクラウトが来ると言葉を発した。
「おはよう、アサト君、今日から私も修行に付き合う」
「…、壁外には行かないんですか?」とアサトが言葉にすると
「あぁ?お前を野に放つと、こっちが迷惑なんだよ。」と、アルベルトが目を細めながら言葉にした。
相変わらず…言葉がキツイ…。
「いや、それは言い過ぎだアルベルト」と言葉にして、アサトの前に立つクラウト。
「ッチ」と、相変わらずの舌打ちをしながら腕組みをした。
「ナガミチの書籍を…」と言葉にすると
「…まて、クソ眼鏡」とアルベルト。
その言葉にクラウトが振り返る。
「…その人は、俺の師匠だ。呼び捨てにするな」と言葉にした。
…へぇ~、案外、アルベルトさんは、ナガミチさんを慕っていたんだ…と感心するアサト。
アルベルトの言葉に、クラウトが小さく微笑むと、再びアサトに向いた。
「このナガミチさんの書籍には、太刀の扱いについての説明書きが書いてあり、その中の最終章には、太刀の戦いの最終形が示されてあった」と言う
「最終形?」とアサト
「そうだ、君も知っていると思うが、この手の武器は、“太刀”と、“刀”と言う2種類があり、刀は両手持ち、太刀は片手持ちに特化しているようだ、今までの修行内容をアルベルトから聞いたが、ナガミチさんは、君に、この最終形へと持っていけるような基礎訓練をしていたようだ。」と言い、アサトを見た。
「…?」とクラウトの言っている意味がわからないアサト。
そんな表情のアサトを見ながら「この書籍に記された最終形…それは、”二刀流”だ」とクラウトが言葉にした。
「…”二刀流”…」とぼんやりと言葉にしたアサトに、少し肩を落としながら「…ッチ、ようは両手で太刀を持って振るんだ!」とアルベルトが付け加えた。
両手で太刀を振る……。
考えてみれば、何気なく修行をしていたが、木刀の訓練では、構などは左右であった、構だけではない、素振りも左右で行っていた。
実際、毎日のように左右の構えで振っていたので、どちらでも構えられるし、どちらでも同じ力で振り切る事が出来る。
「そこでだ…」とアルベルト、
「俺は、師範証みたいなものは持ってない、だから、その手の修行はまったくと言っていい程お前に指導ができない、それに、このクソ眼鏡は、頭はいいが運動はクソ音痴みたいだ。」と目を閉じながら言った。
そして、再び、目を開けて言葉にする
「…二人で相談したが、ここからの修行は、とりあえず木刀を2本使って、ひたすら打つ。」と言うと、ポドリアン達が立てて行った木柱を指さして言葉にした。
「1本でやっていた修行を、今度は2本持ってやるんだ。いいか…」といい。
アルベルトは、クラウトと書籍を見ながら木刀の打ち方を教えた。
まずは、両手での太刀の使い方である。
斬る時は同時では無いようだ。
先に右を当てる、そして、左を当てる。
最初は、同じ方向から振り始め、右上から振り下ろす時は、左の刃が最初に当たるように振り下ろす。
次に、左上から振り下ろす、その時は、右が最初に当たるように振り下ろす。
今度は右下から振り上げる、そして、左下から振り上げる。
当たる順番は、上から振り下ろすタイミングと同じである。
それを一通りおこなうと、次は、右手は、右上から、左手は、左上からタイミングをずらして振り下ろす。そして、逆の順で振り下ろす訓練を行う。
ようは、Xの文字を描くのである。
次に下から振り上げる修行を、左右逆の順番で訓練を行う。
左右別々に振り下ろす、そして、振り上げてXを描く訓練は意外と辛い…。
今度は、
刃を平行に
刃先を下に向けての
刃先を垂直に平行に立てて
木柱の前でしゃがみ右足を軸に回転する、そして、左足を木柱の横に踏み出して進み後方へ回ると、木刀を使って斬る…を行う。それが終わると、逆足で行う。
アルベルトと最初に行った動の修行。その応用。
二刀流で、その修行が体に馴染むまで行った。
朝から晩までアルベルトのダメ出しに耐えて、何度も、何度も斬る。
体が疲れてきたら、クラウトの回復魔法をかけてもらう。
全快になったら、再び繰り返して行う。
戦闘の基本としてこの修行を行った。
10日間。
朝からとっぷり陽が暮れる頃までやっていると、案外、体に馴染むものだ。
動きもスムーズになり、攻撃にフェイントなど、ちょっとした小細工が出来るようになった。
また、攻撃前に体を回転させながら繰り出す連続の攻撃など、色々、攻撃のレパートリーが増えた。
体が馴染むと、基本修行、木刀1本での応用修行、木刀2本での応用修行をやり、なぜか夜になると、中庭で瞑想をする。
その瞑想は、アルベルトによると、感覚を研ぎ澄ます、そして、空気の呼吸を読む訓練だと言う。
“
最近、雪が降ってくる時間が多くなってきている、が、いつも足場はしっかりしていないと言う事で、どんな状況でも修行は休む事が無かった。
また、瞑想の時間もそうである。
中庭は雪が積もっていても、冷たい冬の雨が降っていても…、その修行は終わらない。
最終修行と言う事で、クラウトも同じ屋根の下に泊まる事にした。
アサトが修行をしている間は、ナガミチの書籍を読み、修行に必要な情報を集める、そして、アルベルトと相談して新たな修行メニューを加えたりする。
アルベルトが、「なるほど…」と、クラウトの話を聞いて納得している事が多くなった。
突きなどの捨て身の技があるが、その攻撃と同じような技。
『振り返り斬り』と言う技である。
敵の攻撃を交わすと敵に背を向け、そして、振り返りながら、大きく刃で弧を描き振り下ろす技である。
ナガミチの書籍に書かれていたようだ。
だが、相手が反撃できない状況でしか使えない技であり、隙が大きすぎるようで、ひとつ間違えれば敵の格好の的になってしまう、諸刃の剣のような技みたいだった。
だが、必殺技と言う位置づけで、覚えておいても損はないと思うとクラウトが説明すると、アルベルトも納得した。
ようはカウンター攻撃である。
敵に背をむけた状態から、軸足を使って敵へと振り返る。
その時、回転しながら刃を320度、下から上、そして、下へと移動させる。
その弧の長さで力ではなく、スピードを使って斬ることが出来るとの事だった。
とにかく、この『振り返り斬り』は、遠心力を使った破壊力のある技であり、有効な攻撃であるようだ。
すでにこの修行で3週間。
季節はすっかり冬となり、牧場には10センチ程の雪が積もっていた。
どんな条件でもこの修行が休む事は無かった。
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