第24話 その一線… 下

 しまりのない結末を迎えたレインたちは、周りの目を気にしながらゆっくりとその場を後にし始めた。

 すると、インシュアが「おっと…」と言いながらレイン達の前まで進み、レインが持っていた甲羅虫の甲羅を奪うと

 「これは、お前らがどうこう出来る品物じゃねぇ~事はしっているだろう?」と言う。

 レインはインシュアを見た後に、その後ろにいるシスティナを見て舌打ちをした。

 「…くそ…、生きてやがったか…」とぼそっと言葉にする。

 「…あぁ~、残念だな。」とインシュアが言うと振り返り、来た方向へと進んだ。


 「行くぞ!」とレインが言葉にして、仲間たちと店を後にした。


 アサトがシスティナの前に来ると、大きくお辞儀をして大粒の涙を流した。

 そして、その涙で床を濡らした。

 「…あ…ありがとう…ございます」と言葉にすると、その光景を見ていた店内の狩猟者達は、次々に席に着き、再び話し声がこの店内に広がり始めた。

 カウンターの男は、システィナの行動を見ながら運ばれてきたエールを飲んでいた。


 隣のテーブルの客を、さっきまでいたレイン達のテーブルに移させると、アサトらは、ポドリアン達とテーブルを並べそのテーブルに着いた。

 ポドリアンとグリフは、事の成り行きの真相を聞くと、神妙な面持ちで腕組みをした。


 「…最近…多いんだよな…その手の手法。」とポドリアンが言葉にする。

 「…あぁ…、おれも何度か聞いたことがある。どのパーティーとかは分からないが、アイゼンらもギルド内での調査を指揮していた。これはデルヘルムのギルド協会でも話題になっているようだ」


 ギルド協会とは、月に一度、12名のギルドマスターが集まって、運営の仕方や、依頼の配布状況、近辺の獣や被害などの情報交換など、多方面の情報交換を行っており、狩猟者にたいしての注意喚起などをして、安全な狩猟が行われるようにしている組織であった。

 その中でも、最近この手の被害報告が多々あった。


 レインは、ある筋からの情報で、似ていた男にそっくりだったこともあり、アルベルトが広場で見ていたのだった。


 彼は、隣街とこのデルヘルムで、このようなおとり作戦みたいな事をしているようである。この街には警察機構は無く、犯罪は衛兵が管理していた。ただ、この案件については証拠も無く、捕まえる手段がないため、ギルド協会内でも、度々問題視されていたのだった。


 「お嬢さんは…生き残ってよかった。」とポドリアンが言葉にすると、グリフは頷く。

 「…だいじょうぶですか…?」とレニィが声をかけると、システィナは小さく頷いた。

 エールとジュースが運ばれてくると、インシュアがすぐさま、そのエールを飲み干し、もう一つのエールに手を出す。


 アルベルトとクラウトもエールを口にする。アサトはジュースを飲む。

 「…そうだな…これも狩猟者の定めだよな…」とインシュアが言うと、手にしていたエールに口をつけた。


 「…わたしは…」とシスティナが声に出すと、一同が彼女を見る。

 「…こんな事をしていて、いいのでしょうか…、仲間があんなことになってしまったのに…」とか弱く言葉にすると

 「…まぁ~な。でも、これも選択の一つだ。命を懸け、生きる為に狩りをしているならリスクは伴う。お嬢さんはこの次の選択を許されたんだ。いなくなってしまった者をなげくよりも、これからを考えなきゃな。」と言いながらポドリアンはエールを飲み干し、お代わりを頼む、そして

 「よき友は去った。でも、我々には世界にあらがうチャンスを貰ったんだ!このチャンスを楽しもうではないか」と手を挙げて笑った。


 「世界にあらがう…ですか?」と言葉にすると、

 「うん。この言葉は、僕らのギルドマスターが言った言葉だよ。」と言いながら、アサトはジュースを口に運んだ。

 「そう、泣くこと、なげく事はいつでもできるがな、笑う事は簡単にはできない。だから、笑える時に笑う。」とポドリアンが、運ばれてきたエールのコップを大きく掲げた

 「…ッチ、おまえらは、笑っている所しか見た事無いぞ」とアルベルトが口にすると、インシュアも頷きながらエールを飲み干した。


 システィナを宿舎まで送る。

 チャ子はサーシャが店に迎えに来た、その姿を見たポドリアンとグリフは、レニィを連れて早々に店を出た。

 酔っていたインシュアとアルベルトは、サーシャにつかまり、こっぴどく怒られていたので、アサトとクラウトがシスティナを送る事になった。


 システィナの宿舎は、アサトらの家とそんなに変わらない場所にあった。


 いつもは5人で反省会をしながら帰る道も、今日は一人。前を歩くシスティナの背中が小さく見えた


 「…世界に…あらがうか…」とクラウトがつぶやく。

 「ハイ…、僕の師匠も言っていました、この世界にあらがえ、そして、この世界に生きたあかしを残せ…的な事を」とアサトが言葉にする。

 「ナガミチと言う人の製本を読ませてもらったが、その言葉は、彼の為にある言葉だな」とクラウトがメガネのブリッジをあげる。


 「…どんな…事を…したのですか?」とシスティナが言葉にした。

 クラウトは、その言葉に掻い摘んで話すと、宿舎近くの道にある花壇にシスティナが腰を掛けた。

 「これから…わたしは、どう生きていけばいいのでしょうか…」と弱い口調で言葉にする。


 「わたしも…」と言葉にして、メガネのブリッジを上げてクラウトが話した。


 「…どういう風に生きていくか決める為に、アサト君と旅をする事に決めた」

 「…旅ですか?」とシスティナ、その言葉に、アサトとクラウトが目を合わせて

 「…すみません。」とアサト

 「…これは僕のわがままで…成り行きで、クラウトさんの命を貰って、僕がどう生きるか決める為の旅に、クラウトさんを引き込んでしまったのです。」と小さく笑い、頭を掻きながらシスティナの言葉に返した。


 「…迷っているのですか?」とシスティナ

 「はい…と言うか、分からないんです。だから…今、教えてもらっているモノを大事にして、やれるところまでやったら、決めようって思っているんですよ」と返した。

 「わからない…ですか…。そうかもしれませんね。無理に壁の外に行かなくても…生きて行ける…でも、どうやって生きていけば…」とシスティナ

 「…だから…考えるんです。やる事をやって…」と言うと空を見た。


 冬に近い夜空は澄んでいて、星の輝きが強く、手に届くんではないかと思えるほどだった。

 その夜空に、ナガミチが笑っている顔が映ったような気がして、アサトは小さく微笑むと


 「あらがって…、この知らない世界で生きたあかしを見つけて…」と言葉にした。

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