第23話 その一線… 上

 システィナの声に、アサトとアルベルト、インシュア、クラウトが向く。


 そこにはレインが、椅子の上に乗り何やら大声で語っていた。


 「…ッチ、なんか、用意されたようなシチュエーションだな。」と言葉にした。

 「…あぁ~、お決まりだな」とインシュア。

 クラウトはメガネのブリッジを軽く上げると、アルベルトばりの冷ややかな視線を送っていた。


 「…って、今度は、『ギガ』だよ。『ギィ~~ガァ~~』…、あれはまずかったなぁ~」

 その言葉に周りの狩猟者達が、賛同のような声を上げていた。


 その向こうのカウンターには、真っ黒い肌の男がこめかみに青筋を立てながら、コップのエールを飲んでいる。


 「…それで、どうした?やったか?」と狩猟者の一人が声を上げると、レインは腕組みをして神妙な面持ちで「…いやぁ~~、それがさぁ~~。この俺が、聖剣『エゴイア』を抜いて『ギガ』に向けて睨んだわけよ」と、そのポーズをとって見せた。

 すると…「おぉ~~~」と、声が上がる、その声を聴いてレイン。

 「そしたら、なんと。…『ギガ』のやつ、いきなりデカい声を上げるとなっ」と言葉にする。

 「…あげるとなっ…」と周りの狩猟人が調子をとる。

 「…穴の奥に逃げていきやがった~~~しょんべんもらしてぇ~~~あっははははは…」と笑うと

 「おぉ~~」と声が上がる。


 その声に、肌の黒い男がテーブルに置いている手を思いっきり握る。


 「…んで…このぉ」と高々に手をあげるレイン。そして、

 「金の甲羅を持ち帰って来たわけよぉ~~」と、金色に輝く甲羅虫の甲羅一枚を高々にあげると、

 「おぉ~~」と声が上がった。


 「…ッチ、クソだな。」とアルベルトが声にすると、その声に弾かれたようにシスティナがその場に崩れた。

 それにクラウトが寄り添うと、インシュアが二人を見て目を閉じた。そして、アサトは…。


 「…ったく…『ギガ』って、たいしたこ…」と言ったところで、

 カウンターの男が大きくエールを飲み干し、コップをカウンターに叩きつけて立ち上がり、レインの方向を向く…と、そこには…。


 店内のランプの光が集まった冷たく輝く刃と、薄灰色の淡い蒼に染まっている刃丈はもん

 その刃と刃文はもんの境目が、冷たい殺気を帯びた光を流す、長細く、か弱く感じる刃を首に当てる少年の姿が目に入った。


 「…と……」といいながら、レインはその刃の先にある殺気を帯びた瞳が、自分の瞳を凝視しているのを見た。


 「ッチ」と、アルベルトが舌打ちをすると頭を抱える。


 「…だ…だれだ…お…」と言った瞬間に刃を首に押し当て

 「…もう…、そんな話…どうでもいいですから…お願いです…出て行ってもらえますか?」と、瞬きせずに見上げて言葉にする。

 すると、周りにいたレインのパーティーがアサトに武器を突き付けた。


 音の無くなった店内、異変を感じたチャ子がキッチンから出て、その光景をみて銜えていた干し肉を落とす。

 手を挙げていたレニィが、その手を辺りを見渡しながら下ろす。

 そのそばでゆっくり振り返るグリフ、その向かいでは、口に運んでいたコップの先でその光景を見ているポドリアン。

 インシュアが、システィナに寄り添っていたクラウトの肩を小さく叩くと、指を指した。

 その方向を見ながらシスティナに声をかけて、二人で立ち上がりその光景を見た。


 システィナの目が一点を凝視する。


 アサトの刃がレインの首を捉えている、その手には震えは無かった。

 ただレインの目を凝視して、一瞬でも動いたら…、その一線は…


 「…おぃクソガキ…、そんな物騒なもの、こんなところで披露するな。」と、柄を握る手に手をのせて言葉にしたアルベルト。

 その言葉に、反応を見せずレインを凝視する。

 「…ッチ」とアルベルト、そして「おぃ…クソ。」と言うと同時にアサトが言葉にした。

 「大丈夫です。一線は引いています。…ただ…」と言うと、小さくため息をついたアルベルトは、レインの仲間を見て

 「おまえらも、そんな物騒なもの仕舞え。」と言葉にする。


 その言葉に仲間はレインを見ると、レインは小さく頷いた。

 その動きを見て武器を仕舞う仲間。


 「おぃ…クソガキ、お前のそれは、こういう時に使う為のモノなのか?」とアルベルトが言葉にする。

 その言葉にゆっくり息を吐くと、首から刃を外して目を閉じ、ヒュッと音を立てながら柄を起点として、下回りで刃を半周させると後ろにむけた。

 目を開けて、レインを見ながら柄を手前に引き、そしてゆっくりと鞘に刃を収めた。


 「…もういいだろう。おまえの与太話は…。俺たちはこれから、ここで気分よく酒を飲みたいんだ。だから…帰れ」と、アルベルトがレインを見て言葉にすると

 「…こ、ここに…」とレインが唾を飲み込みながら言葉を発する。

 その言葉に冷ややかな視線を送る。

 「べ…、別にいいじゃねぇ~か…」とレイン

 「…あぁ、そうだな…、別にいてもいい。だがな…よく聞けクソムシども、俺の堪忍袋の緒は…お前らよりもしっかりしていねぇから、何かあったその時は、残念だがあきらめろ。こいつは一線は引いているようだが、おれは…たぶん引いていねぇ~、だから、お前らなんざ簡単に斬れる。それでもいいなら、いてもいい。お前らが、俺から自分の身を守れることが出来るならな。」と言葉にするとアサトの肩をつかみ振り返させる。


 「…アルさん…ぼく…」と言葉にすると

 「…後悔するくらいなら、あんなドラマチックな事はもうするな…こっちが面倒だ。」と返した。

 その言葉にうつむくアサト。


 その光景を、カウンターで立ち上がった男が鼻で笑うと座り、エールを頼んだ。

 チャ子が落ちた干し肉に気付いて、取り上げると再び口にする。

 レニィは、胸に手をあてて小さく息をはくと再び手を挙げた。

 インシュアは首をしぼめながらクラウトとシスティナに声をかけ、レニィ達の方へと進む。

 アルベルトに押されながら、アサトはみんなのいる方向へと進んだ。

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