第22話 どうしようもないやつら 下

 デルヘルムが見える高台の丘の上で小休止を取った。

 ここからデルヘルムまでは、そんなに時間はかからない、さっきの洞窟のある山はかなり小さく見えている。


 アルベルトが腰を下ろすと、かすれ声でシスティナが言葉を発した。

 「…ありがとう…ございました。」

 「ったく、こっちはえらい迷惑だった」とアルベルトが言葉にすると、水袋をシスティナに向けた。

 それを受け取ると、小さなコップに注いで一口飲む。


 チャ子は辺りを見て警戒している。

 「…なにがあった?」とクラウトが言葉にすると、システィナは小さくうつむく。

 少し風が出てきている、冷たい南の風が6人に当たっている。


 「…話したくなければいいんだよ…、とりあえず、一人でも助けられてよかった」とアサトが言う。

 「…まぁ、こっちのバカが暴走しなきゃ、おまえのパーティーも全滅だったからな」とアルベルトが言葉にした。

 「くぅはぁ~~」と、声をだしてインシュアが横になった。

 「…こっちは、お前らより歳なんだからな」と言いながら目を閉じた。

 「…すみません」とシスティナ。


 彼女が持っているコップが小さく揺れている。

 かなり動揺しているのだろう。

 目はコップに入っている水、一点だけを見ていた。

 何かを思い出しているのだろう。


 「…あいつらは…お前の仲間だったのか?」とアルベルトが聞くと、彼女は小さく首を横に振った

 「今朝…誘われました…」と…、そして、彼女は、がんばって事の成り行きを話し始めた。

 内容はこうであった。


 朝、依頼所のある広場にいると、レインと言う、背の高く、色白で目の細い男が声をかけてきた。

 その男が言うには、『お金になるし、レベルアップもできる、自分らはもう6年も狩猟人をやっていて、初級者の手助けをしている、グールが出るが、自分らならギガ以外なら大丈夫だから、それに、あの洞窟は5層まで行っているし、危ないポイントも知っている、だから大船に乗った気分で付いてきな。』といわれて、こちらも少しばかり、この草原での狩りにも慣れたところだったから、とりあえず付いて行ってみよう、と言う事になったようだ。


 その後、1層、2層まではグールに会わなかったが、3層の入り口で金の甲羅虫を発見して、それを捌いている内にグールに取り囲まれ、それをみんなで戦闘している内に『ギガ』が現れたようだ。

 レインのパーティーのタンクが、ノーマルグールを相手していたので、彼女のパーティーの盾持ちと戦士が、『ギガ』を止めたようだ。

 気付けば、グールを相手していたのは、彼女のパーティーだけで、レインのグループは、一人、一人と音も無く消えていた。

 それに気付いたのが、ちょっと太っている神官の男だったそうだ、剣士が止めている内に逃げろと言われたが、最初にやられたのが神官。


 ノーマルの餌食になったようだった。


 それに気を取られたアサシンが、違うノーマルにやられると、戦士が、『ギガ』につかまった。

 盾持ちが、システィナの手を取って2層に来た時に、レインのグループがグール4体と対峙していた。

 するとレインが彼女らを呼び、円を作って進む…が、上に続く坑道まで来ると、レインのグループが一斉に駆け上がり、彼女のパーティーの盾持ち一人で、4匹のグールを引き付けてしまった。


 そこに『ギガ』グールが現れると、そのノーマルたちは散ったので一気に1層まで来たが、逃げ切れずにアサト達と会った状況になったようだった。


 「ッチ」と舌打ちをするアルベルト

 「ったく…どうしようも無い奴らだな」とインシュアが、起き上がりながら言葉にすると立ち上がり…「…飲みに行こうぜ」と言葉にして歩き出した。


 『ジーニア』の店。

 ここは、デルヘルムの東地区にある酒場。

 安く飲める庶民派の酒場であり、初級狩猟者などがここを利用する。


 アサトにとっては初めてであった。


 お昼前から開店しているので、中級の狩猟者なども利用していた。

 インシュアのような酒好きは、お昼前から閉店まで居座る者もいるみたい…なので、インシュアが「飲みに行く」と言えばここのようだ。


 1階は6から8人掛けのテーブルが10個、2人から4人が座れるような小さめのテーブルも何個かあり、カウンターもあって、100人以上は入れそうである。

 また、2階は吹き抜けとなっており、上客専用のスペースもある、そこには大きめのソファーが並んでいた。


 壁には大きな暖炉が3つあり、中はほのかに暖かった。


 6人が中に入ると、大きく長い耳で後ろに白く丸い尻尾のある、ボディーラインを強調した女性がインシュアの前に来る、すると、インシュアの顏が、見られないほどに緩み、鼻の下が異様な長さになった。

 それを見て、アルベルトがお決まりの舌打ちをしている。


 その女性は、『ピッチ』と言う、人間と亜人の合いの子“イィ・ドゥ”のようだ、インシュアの話しだと、父親が人間で、母親が兎の亜人のようだ。

 この世界には、“イィ・ドゥ”は、人間の女性が、ゴブリン、オークや亜人などの魔物に犯され、やむなく生まれた者以外にも、このように、人間と亜人らが恋などをして、しっかり愛を育んだ結果の子供もいるようであった。


 チャ子はピッチと仲が良いようだ。

 干し肉をサービスで貰ってウハウハ顔であり、キッチンに勝手に入っていたのも、たぶんインシュアがたまに連れてきているからだと思う。


 ピッチには、もう3人姉妹がいて、4つ子のようだ。

 ここで働いていると言っていたが、残念。

 今日は長女と四女が休みで、次女は18時からの出勤のようだ。

 ピッチは三女のようである。


 インシュアはかなりの常連らしい。

 時間は6回目の鐘が、このデルヘルムに鳴り響いた時間であり、16時であった。

 晩御飯にはまだ早い時間、でも、牧場の修行にはちょっと遅い時間なので、社会勉強もかねて飲みに来た…と言うのは、インシュアの口実で、ただ飲みたかっただけなのかもしれない。


 中はすでに満席状態であり、ピッチが指さした先には、見た事のある形と笑い声が聞こえていた。

 ポドリアンとグリフだ。

 相変わらず笑っている、その近くに女性の形も見えていた。

 たぶん…レニィのようだ、二人の笑い声とともに、若く、透き通るような笑い声も聞こえて来た。


 インシュアが頷いていると、こちらに気付いたレニィが手を挙げていた。

 その方向に歩こうとしたら、「あっ」とシスティナが声を出す。


 システィナが見ていた方向には…

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