第21話 どうしようもないやつら 上

 林の手前で昼食を取る事にした。


 サーシャが作ってくれた弁当は、パンで野菜などを挟んだ食べ物であった。

 チャ子は、サーシャのお弁当が好きみたいだ。

 干し肉ばっかり食べて、野菜はそこいらに捨ててあったが、とにかく干し肉入りの弁当が大好きそうだった。


 一休みしてから、洞窟へと向かった。


 その洞窟は入り口がかなり大きく、高さ10メートル、幅も同じくらいの大きさの口が開いていた。

 その山は、高さ1000メートルはあり、地下は5層まで攻略されているようであった。

 「おっきぃ~~い」とチャ子が声に出すと、冷ややかな視線でアルベルトが辺りを見渡し、「ッチ」と舌打ちをして、「外はなにもいね~か」と言葉にした。


 冷たい空気が、洞窟内から外に出てきていた。


 秋だが、今日はぽかぽか陽気であり、その風は陽気とぶつかって薄い霧になっていた。


 「まぁ~『ギガ』さえいなきゃ、なんとかなるだろう。」と言葉にすると、アルベルトが振り返りクラウトに指示をだした。

 「入るだけだが用心のために防御を」と、その言葉にクラウトは頷くと、光の神の力を借りて全員に防御の魔法をまとわせた。

 金色に淡く輝く光をまとうと、アルベルトを先頭にチャ子、アサト、クラウト、アサトの順で中に入った。


 なかに入ればそんなに寒くは感じなかった。

 クラウトの光の破片で、辺りを明るく照らす。

 下は土であり所々に水たまりがあり、ごつごつした岩の形が目に入ってきた。

 壁の下の方にうごめくものがあり、チャ子がアルベルトに聞くと、虫だと答えてあった。

 約30メートルくらい入った時に、チャ子が立ち止まり耳を立て、真っ暗な闇を見つめると、アルベルトにサインを送った。


 指を指すチャ子

 「…何が来る?」とアルベルトが言葉にする

 「足音…3…4…5…6…7………おっきいのが…くる!!」と、チャ子が身を屈めながら言葉にした。

 「…ッチ」と身構えるアルベルト、それを見たアサトは鞘に手を置いた。

 インシュアも背中の剣の柄に手を当てる。

 クラウトは前をじっと見ていた。


 すると、10メートルほど先にある、脇の坑道から弾かれたように人影が、一つ、二つと飛び出してくると、歓喜の声を上げて影が駆けてくる

 「…おぉ~、やった、やった!!今日は金が7枚手に入った。逃げろ、逃げろ!!」と背の高く、色白で目の細い男が、笑いながらアサトらの横を通り過ぎて行く。

 その後を「…おまえらも逃げろ!!」と、アサシンの男が叫びながら通り過ぎると、「やったね!!逃げたほうがいいよ」と神官の格好で、巻き髪の女が通り過ぎる。

 「ばいばぁ~い。」と、尖がり帽の女がニコニコ顔で通り過ぎて行った。

 そして、ちょっと遅れて盾持ちの男が来る、とっさにアサトは気づいた。


 …システィナの仲間だ!と。


 アサトの近くに盾持ちの男が来ると、前に立って先を遮る。

 直前で男は止まり、アサトを見下ろした。

 その男に「他の人たちは?」と聞くと「あぁ~~?しらねぇ~よ。もう食われたんじゃないの?とにかくどけよ!」と、アサトを突き飛ばすと外への道を走って行った。


 「…ッチ」と前から舌打ちが聞こえる、「…アルさん…」とアサトが言葉にすると、「…『ギガ』が来れば厄介だ、俺たちも逃げるぞ」といい、反転したとき。

 「…まだ…2人…足音聞こえる…人だよ」とチャ子が声にした瞬間。

 男たちが出て来た坑道から、魔法使いのローブ姿の女の子が飛ばされて出て来た。

 その後に、盾持ちの大きな体の男が出てくる。


 そして…

 灰色がった肌の色の大きな手が伸びてきて、盾持ちの男のすねをつかんだ…。

 男は剣を振り、その手から逃れようと抵抗をしていたが、観念したのか大きな声で叫んだ!!

 「システィナ!!逃げろ。お前だけでも!!」と、するともう片方の手が男の右腕を掴むと骨が砕けるようなイヤな音がして、剣が地面に落ちた。

 すねを持っている手を小さな反動をつけて、男の足を引きちぎる。


 「きゃっ」とチャ子が声を上げる。

 「まじか…あれは、6メートル級に近いぞ!!」とインシュアが声にした。

 その言葉に坑内を見渡したアルベルトが、

 「…だめだ、俺たちまでやられる。逃げるぞ」といい、出口に向かって進み始めた。


 だがアサトは見ていた。

 グールが男の足をかじりながら、システィナに近付いて行くところを…

 ……


 彼女が、師弟関係登録所で微笑みかけて来た事を思い出した。

 彼女が、お辞儀をして走り去っていく。

 草原で、一礼をして微笑んでいた。


 …そんなに知らない子…でも、知っている子…が…食べられる……

 …僕は…今まで…こんな場面に何度も遭遇して、…なんども、…なんども…、

 自分の弱さを体験した…ぼくは……また…にげるのか…


 ……


 「…ぼく…」と言葉にすると、アルベルトが立ち止まる、そして、インシュア、クラウト、チャ子が立ち止まった。

 「…クソガキ。血迷うなよ。」と、アルベルトが言葉にすると同時にアサトは駆けだした。

 「…助けます!」と言葉を残し、その言葉に、「…ッチ、あのばか!!」と言葉にしてアサトをアルベルトが追う。

 「インシュア、俺とアサトが『ギガ』を止める。お前は女を頼む、クソ眼鏡はチャ子を連れて外へ!」と指示を出した。

 その言葉に各々が駆け出す。


 アサトはシスティナへと延びる腕の前に出ると鞘から刃を抜き、その腕を斬りつけた。

 固い感じが走る。


 白い肌のその化け物は、白目の無い黒い瞳でアサトを見た。

 もう片方の手の男は絶命しているようだ、肩が外れ、体が振り子のように振られている、そして、もう首に力が入ってない。


 うっすらと見えるその形。

 四つ這いになってこっちを見ている。


 システィナの前に出ると「…ほかは?」と聞く。

 彼女は言葉に出来ないほどぐちゃぐちゃに泣いていた。


 『ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ~』と、咆哮がうっすらと見える形から聞こえると、もっさもっさと小さな白い肌のモノが3体出てくる。と同時に…「ZAN!!」と声がすると、1体の頭と腕が宙を舞った。


 アサトは周囲を見渡す。


 そして、向かってくる1体に向かって一歩を出すと、うっすらと見える影から、大きな手が広がって出て来るのに気付いて体を翻し、その掌に向かって一閃を放つ。


 グゥッガァァァァァァァァァァ…と悲鳴のような声が聞こえ、腕を引いた。


 「アサト!!」と声がする。インシュアだ

 「インさん、彼女を!!」と言葉にすると、インシュアが泣いている彼女の前にひざまずき。

 「ごめんよ、担ぐよ!!」と言いながら、彼女を肩に乗せると「アル、逃げるぞ!!」と叫びながら出口に駆けだした。

 アサトの前に、さっきの小さなグールの1体が暗闇から出てくると、アサトは足を出して胸を斬りつける。

 その向こうで1体が倒れる音がすると、「潮時だ、下がれ」と、アルベルトが言いながら出口へ駆け出した。

 それを見ると同時に駆け出す。


 地鳴りが聞こえる。

 『ギガ』が横穴から出てくるのだろう、この坑内なら立ってこられる…。


 光が見えると、アサトとアルベルトは一気に駆け出し、出口からでるとわき目も振らずに林の中へと進んだ。


 木を壁にして身を潜める。

 アルベルトより先の方の木には、チャ子が木を壁にしてアサトを見ている。

 アサトの目の前の木には、インシュアとシスティナがいた。

 インシュアが彼女の口を塞いでいるようだった。


 恐る恐る入り口を見ると、暗闇から巨体が、大きな足音と地面を揺らしならゆっくりと出て来た。

 アルベルトの表情は、見た事がない程に緊張した表情だった。

 アルベルトと目が合う。

 すると『ばぁ~か』と口が動いた。


 その巨体は、入り口より若干小さい感じであり、灰色な肌に真っ黒な瞳、口には男の膝から下がぶらぶらと揺れ、その足の太ももを齧っている

 その後から白い肌に真っ黒な瞳、手が異様に長い3体のグールが現れる、その手にはなにか…武器みたいなものを持っていた。

 あれは、たぶん中で殺された狩猟者の持ち物だろう。

 ノーマルグールが、せわしなく辺りを見渡していた。

 しばらくすると、『ギガ』グールが天を仰ぎ、グック、グックと喉の奥から音を発し始める。

 その行動に「ッチ、見つかったか…」と、小さな声でアルベルトが声にした。


 一同に緊張が走った。

 息をひそめて、持っていた太刀の柄の手に力が入る。


 …あんなのと…どう戦うんだ…


 と思いながら、木の壁から洞窟を見ると、ノーマルグールが坑内へと進みだし、その後を追うように『ギガ』グールも中に入って行く。


 足音が遠のき、その影が見えなくなったのを確認すると、大きく息を吐く。

 少し離れた場所のアルベルトがゆっくり立ち上がると、「ひとまず…ここから離れよう」と言葉にして動き出した。

 前の方で、「悪いね、お嬢さん。担ぐよ…訴えないでね」といいながら、インシュアがシスティナを肩に担ぎ動き始めた。

 クラウトもチャ子と一緒にアルベルトの後を追う。

 アサトは、一度洞窟を見てから振り返りその場を後にした。

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