第20話 この現実から逃げられない 下

 「別に構わねぇ~、だがな、一つ言っておく」といい、姿勢を正した。


 「…これを読んだら、お前はこの現実から逃げられない。逃げてもいい、ただ言えるのは、その現実に立ち向かおうとしている俺たちがいる。それをどう見ようが構わないが、…いいかよく聞けクソ眼鏡。これは、お前らが今までやって来た事に比べれば、数段レベルの高い案件だ。相手は魔物でも最上位クラスを相手にする。怖気づいたらそうそうと尻尾をまけ…、だがな、俺の弟弟子は、…弱いが、それを相手しようかしないか、この旅で決めると言う選択肢を持っている。はっきり言う。あいつは、『』。それに付き合うつもりなら、俺もお前をそう見る。」

 と言うと、部屋から出ようとして、背中をクラウトにむけると、背中越しに

 「…お前の実力は分かっている。狩りは俺たちだけで充分だ。ここに居ていいが、この部屋と向こうの部屋の物は、俺の許可なくここから出すな。もし持って逃げたら…、俺がお前を殺す」と言葉にすると


 「あぁ~、分かっている。ここの書籍は…、ここから出してはいけない…」と言葉にした。

 その言葉に、アルベルトは冷ややかな目を一度クラウトにむけると、その部屋を後にした。


 クラウトは、その部屋に一週間ほど滞在して、ある程度の知識を得た。

 ナガミチの旅の軌跡に竜騎士の王、錬金術、太刀の事、荒れ地の魔女の事…、自分が知らない事、そしてこの世界の事。


 元の世界に帰れる事、誘われた意味。


 いにしえの賢者やいにしえの遺跡、遺物。電気…。

 いろいろな想像を超えた世界に胸が躍り、また、この書籍を読んだ事による、その使命感みたいなものも生まれてきた。


 …自分は弱いです。


 アサトの言葉は、いままで会った人でも、あんなにはっきり言う人はいなかった。

 それを恥ずかしくも無く言えると言う事は、彼は、彼で、自分が今いる現状を把握していると思った。

 アサトは現実と向き合おうとしている。

 彼は…、彼の出来る事を精一杯やるために、出来る事を増やそうとしているんだ…。と、クラウトは思った。


 その後、3日間、一緒に狩りに出る。

 決して上手に狩れている訳では無い…、だが、アルベルトやインシュアが、程よく手を貸し、彼に戦い方の道を教えていた。

 彼がこの旅の果てに、どんな選択をしても…、彼に預けた命。

 彼と共に進もうと思っていた。


 その日は、アルベルトが、この草原での狩りも、マンネリしていると言う事なので、日帰りで遠征できる場所に足を運んだ。


 「グール?ですか?」とアサト

 「あぁ…見るだけだ。」とアルベルトが言葉にすると

 「…グールは、ゼッペン洞で狩ったことがあるが…」とクラウトが言葉にした。


 ゴブリンの死体を漁っていたチャ子は、この遠出が楽しいのか、しきりに辺りを見渡しては駆け巡っていた。

 それをインシュアがたしなめ、漁り終わってからにしろと言葉にしていた。


 すると…近くの林から、10名近い集団が、ぞろぞろと歩いて来るのが見えた。

 甲羅虫の洞窟へと向かっているのだろう…。

 その道は、アサトらが甲羅虫の洞窟へと向かう道で、ここから約500メートル先の林を抜けると甲羅虫の洞窟であった。


 その一行を見ている。

 アサト、アルベルト、インシュアにチャ子、そして、クラウトの5人。


 神官が入ったのでテレニアは来なくなった、が、サーシャはクラウトを見て、チャ子の身を保証させると同行を許可したのだ。

 それはそうだろう、最強の9-1世代が2人もいるパーティーなのだから…。


 その時、かなり遠くから声が聞こえた。

 最初に気付いたのはチャ子であった。

 「…誰か、叫んでいるよ」と言いながら振り返る、一同もその声に振り返った。


 「…お前らは…どんな狩りの仕方してたんだ!!」と、怒鳴っている男が遠くに見えた。

 「俺の言っているようにやればいいんだよ、傭兵だろう。もっとうまく立ち回れ!!」と別の男

 「んだぁ~、的確な指示も出せないくせに、なに抜かしているんだ!!」とかなりご立腹の様子。

 「…今日は、盾持ちが病気だから仕方なかったけど、こんなに仲間を信じれない奴だとは思っていなかった。危険だと思えば動けばいいじゃないか!!」とリーダーみたいな男が言葉にすると

 「…だったら先にそう言え!!おれはゴブ3匹相手にしているんだ。お前らまで見れない!!傭兵に命預けるな!!」と言葉にして「あぁ~~、やめだ、やめ!!」と言いながら、男はその場を後にしていた。


 「…ジャンボか…」とアルベルトが言葉にすると、インシュアが答えた。

 「…あぁ~、ジャンボだ、あれは傭兵。力はあるんだけど、協調性が無いって言うか…仲間を信じれない…て言うかな…」と、言葉にしながらアルベルトを見る。

 「あぁ?なんで俺を見る。おれは言われなくても、言われた以上の事はする」と言葉にすると

 「…こういうのも、厄介なんだよな…」と肩をすくめながら言葉にした。


 インシュアの向こうで、甲羅虫の洞窟へ向かっていた一行が言い争いを見ていた。

 その一行の中に見かけた事のある人物がいた。

 「…あっ」と声にすると、その人も気付いたのか、こちらに向かって一礼をした。

 すかさず、小さく礼をして返す。


 尖がり帽子の魔法使い、システィナだった。

 4人の仲間は見た事あるが、他の5人は見た事が無かった。


 仲間が増えたのか?とアサトは思っていると

 「ネコ娘、ぼーっとしてないで早く集めろ」と、アルベルトはチャ子をせかすと、チャ子はいそいそと漁り始めた。


 アサトとインシュアも漁る。


 アルベルトはゆっくり振り返り、林の中に消えて行く一行を見ていた。

 「…知り合いか?」とクラウトが聞くと

 「…イヤ…でも、なんか気に入らねぇ」と言葉にした。

 冷ややかな目が、一層冷ややかになっていた。

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