第18話 無茶苦茶なパーティー 下

 この甲羅虫とは、文字通り背中に7枚の甲羅を背負い、危険があれば丸まる習性を持つ虫…言わば、団子虫みたいな生き物で、大きさは最大でも長さが50センチ、横幅が20センチ程の虫である。


 その虫の特徴は、石を食べる習性があり、坑内にある石を食べて体内で分解し、分解した物質を形成して、甲羅にすると言う特性を持つ虫で、その為、金だけを食っていれば、金の甲羅を持つ虫に、また、鉄鉱石だけを食べていれば、鉄鉱石の甲羅を持つ虫になるのだ、中でも珍しい7色石を食べている虫の甲羅は、医療や魔法石の生成、はたまた武器や防具の作成にも使われ、高額の換金であった。


 だが最近、グールと言う、と呼ばれる種族が、この洞窟を占拠していた。


 その中に『ギガ』グールと言われる、グールの中でも、最高位クラスに匹敵するグールがここに住みついており、度々、狩猟者や採掘者が被害を受ける事案が目立つようになってきていた。


 ノーマルグールと言えば、狩猟者内では下の上級クラスの魔物であったが、『ギガグール』となれば、中級以上の魔物に匹敵する個体もいる。


 グールの生態は、言語や知性などは備わってはいないが繁殖能力はある。

 だが、他種族との交わりは無く、他種族はすべて食料と言う位置づけのようだ。


 おおかたのグールは、共食いはしない。


 だがまれに…と言うか、なかには異形種と言われるグールが存在して、ある程度の大きさになると共食いをして、個体を大きくさせる種も出てくるようだ、そうなれば、最終的にこのような『ギガ』的な種が現れるのだ。


 ノーマルグールの大きさは、150センチから180センチが主である。

 180センチを超えたあたりから『ギア』グールと名前が変わり、凶暴さも若干あがる、220センチを超えたあたりから『グガ』グールと言われるようになり、このあたりから共食いや縄張りなどの主張が現れ始め、近辺に約3~6体のノーマルグールを引き連れて行動するようだ。

 300センチ超えたら『ギガ』グールになる。


 主食は人間だけになり、同族や人間以外には手を出さなくなるようだ。

 また、『ギガ』グールでも異形の者が存在する。

 男の肉しか食わないグールとか、女の肉しか食わないグールとか…、だが食わないだけで生かす事は無い。

 食わなかった人間らは、ノーマルグールがいただくようになっていた。


 最近では、黒鉄くろがね山脈南東側の山系に出現した、600センチ級のグールの討伐があったと噂されている。


 その『ギガ』グールが洞窟内に縄張りを這っているようだ。


 甲羅虫の採取が思うようにできなくなり、甲羅虫の甲羅の値が、以前よりも高騰をしていた。

 中でも七色に関しては、1枚、通常なら銀貨10から50枚ほどであったが、最近では手に入る事がめっきりなくなり、銀貨50枚から、質の良いモノだと金貨2枚で換金されているようであった。

 その為、商業組合が合同で討伐依頼を出しているが、その『ギガ』グール討伐依頼をする者はいなく、話しのまとにしかなっていなかった。


 金貨50枚では、生死をかけるだけの依頼と思っていない者が多いと言う事だ。


 この洞窟の第2層から3層あたりに行けば、七色とは言わないが、金の甲羅や銀の甲羅を持つ甲羅虫の採取が出来る、無理をせずにそこそここなせば、中級の狩猟者にはいい狩りのポイントであった。


 「…と、言うわけだから、大丈夫だ。俺らは狩猟人をやってもう6年。あの洞窟は5層までいっているし、危ないポイントも知っている、だから、大船に乗った気分で付いてきな」と、背の高く、色白で目の細い男が、5人組のパーティーを先導していた。


 その男がアルベルトの前を通る。

 アルベルトは何も言わず、相変わらず冷ややかな目でその男たちを見ていた。


 少し行くと、その仲間であろう、男2人と、女2人が待っているようであった。パーティーの内訳は…どうでもいいか。

 たぶん、連れていかれたのは初心者のパーティーだろう、皆、彼らの話を聞いていて、質問をする間もなく移動を始めていた。

 装備も貧弱であり、あれはアカデミー終了報酬の装備で間違いなく、防具も寄せ集めの品のようであった。


 「…アルベルト…」と、声をかけられたので、その声の方へと視線を移す。

 そこには、前日と違い、しっかりとした様相で立つクラウトがいた。

 「…あぁ~、やっと来たか。」と言いながら立ち上がると、先ほどの集団の方へと視線を向けたが、もう確認できるような感じでは無かった。

 「ッチ」と舌打ちをして、

 「…気に食わねぇ」と言葉にすると、クラウトを見る。

 「あっちは片付いたのか?」と聞くと、クラウトは眼鏡の真ん中のブリッジを、人差し指の第二関節を曲げ、その頂点でクィっと持ち上げて、

 「少し手間取ったが、大丈夫だ。すまないな、アルベルト」と言葉にした。

 「ッチ、クソ眼鏡のくせに…なら、行くぞ…」と言いながら、次の広場へと向かった。


 向かった先は、ギルド広場。

 そこにある、ギルド、パイオニア。

 その2階にあるアイゼンの部屋である。


 「君が、クラウト君だね。」とアイゼンが手を出す。

 その手を握って頷くクラウト。

 「ハイ、はじめまして、クラウトです。」

 「うむ。」とアイゼン。

 ラフな格好でクラウトを迎えたアイゼンは、鋭い視線をクラウトに送った。


 「…君が、アサト君のパーティーメンバーになったと言うのを、昨夜、アルベルトから聞いた。向こうのギルドの方は大丈夫なのか?」と言葉にすると。

 「ハイ、少し手間取りましたが、今はフリーの状態です。」と言葉を返した。

 「なら、君をこのギルドに迎えても大丈夫との事で、こちらは処理するが、いいかな?」と言う。

 「ハイ、大丈夫です。ギルド証を発行していただければ、壁外への出入りもできますから」と返した。

 「うむ、それにしても、エンパイアは大きな戦力を失う事になるな」

 「…そうでもないです。昨日までの私は、廃人同様な状況でしたから…」と言葉を返すと、アイゼンは小さく微笑み。

 「君のような、優秀な人材を受け入れる事は、とても名誉だよ。」と言葉にした。

 「…それで…」と言葉にすると、机の中からギルト証を出して、机に置いた。


 その証を見ながら、クラウトが言葉にする。

 「…アイゼンさん…、ギルドに入る前に、聞きたい事があるのですが」と、その言葉に、「いいだろう」と返す。

 「…言いにくいのですが、…昨日、アサト君が手にしていた武器…あれは何でしょうか?今まで、私の知る限り、あのような細い筋の剣は見た事が無いので、気になりました。」と言葉にする。

 「…うむ、戦略家として、いや戦術家として、メインアタッカーの戦力を分析するのも必要だからな、君がアサト君の専属戦術家である以上、知らなければならない事、…あの武器は“太刀太刀”と言う武器」と言葉にすると

 「…太刀たち?ですか?」と返す。

 「うむ、彼の師匠は、剣士、“サムライ”と言う職業の者。一子相伝の職業、すなわち、この世界に、この職業、そして…あの武器を扱うのは、ただ一人。アサト君しかいない」といいながら、小さく微笑んだ…。

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