第17話 無茶苦茶なパーティー 上

 翌日の朝。


 いつものようにチャ子と牧場へ修行に向かう。

 緩やかな上り坂を駆け上がると、女の人が立っていた。

 そのそばに来ると、女の人がお辞儀をする。

 アサトとチャ子は、その人を見てから、小さくお辞儀をして返した。


 「…朝早くからすみません、私はキャシーと言います、クラウトとお付き合いしている者です」と丁寧にあいさつをしてくれた。

 その人は、アルベルトにクラウトの捜索をお願いした、黒みがかった金髪の女性だった。


 「あっ、おはようございます。アサトと申します。」と言うと、ちょっと体をアサトにつけながら「ちゃ…チャ子です」とチャ子があいさつをした。

 「あの…昨日は、ありがとうございました」と再びお辞儀をする。

 「…あぁ~~いえ」とアサト。

 すると、キャシーが言葉を発した。

 「…夕べ、彼から聞きました。パーティーの件。」アサトは、その言葉に頷き、そして、思いっきり大きく頭を下げた、「すみませんでした!」と。

 その行動に、キャシーもチャ子も驚き、目を見開いてアサトを見た。


 アサトは、ゆっくり顔をあげると話し始める。

 「…いきなり、あんな事になってすみませんでした。アルさんにも夜にこっぴどく怒られました。でも、僕は間違っていないと思っています。すみません。ちょっと勝手に話させてもらいます。」と言い、キャシーと視線を合わせた。


 「…僕は、この先、ここでどう生きればいいかまだ判断できていません、狩猟人で生きるか、それとも、ここで平穏に生きるか…、でも、僕に技能を伝授してくれた師匠がいて、そして、今も、僕に稽古をつけてくれている、アルさんやインシュアさんがいます。それは、僕がどこにいても、自分を守れる強さを授けてくれているんです。だからなんだって思うかもしれませんが…。僕は…旅をします。その旅は、これからここで生きる為の方向を見つけ出す為の旅です。この旅がおわったら、どう生きるか決めるつもりです。…僕は、その旅に…クラウトさんが必要だと思いました。勝手ですよね。でも、僕の師匠も、アルさんも、インシュアさんも…勝手なんです。勝手に…、物事を決めちゃうようなところにいたせいか…僕も勝手な者になってしまいました。」と小さく笑って見せた。そして、


 「お願いです。もう一度、クラウトさんに生きる目的を与えてください、僕はクラウトさんと旅がしたい。その旅の結末に、クラウトさんが決められる未来があると信じて…」と大きく頭を下げた。


 「…そうですか…」とキャシー、そして、

 「…アサトさん。私は反対していました、彼をあそこまで追い詰める世界を恨んでいました。彼の仲間は本当にいい人ばかりでした、アルさんもそうです。そんな仲間を失った場所に…また行くのかって…。でも、そうですよね…クラウトも言っていました。また仲間と呼んでくれる人がいると…、ちょっと無茶苦茶で頼りなさそうだけど…彼は、僕を必要としていると…もし死ぬことができるなら…望んで死ぬより、誰かのために死んだ方が意味があるんじゃないかと…」と涙を流す、そして

 「死なれたら困りますけどね…」と小さく笑って見せた

 「頭を上げてください…アサトさん」と言われ、アサトは顔を上げ、キャシーを見る。


 すると、微笑みながら…

 「ありがとうございます、彼に居場所を与えてくれて…、彼は、この壁の外が好きなんです。彼が彼でいられる場所なんです。だから、よろしくお願いします。彼の事を…」と頭をさげた、その下げた顔からは、大粒の涙が落ちていた。


 アサトは大きく笑いながら、「…こちらこそ、最高の軍師が付いてくれるんです、最高の仲間を探さなければと思っています、そして、気を引き締めています。」と言うと、キャシーの肩に手をあて

 「頭を上げてください、キャシーさん」と言うと、キャシーはゆっくりと頭をあげる。

 「ぼくも…ほんとうにありがとうって…、思っているんです」と小さく言葉にした。

 その言葉にキャシーが微笑んで見せた。


 …そう、アルベルトの世代。アルベルトは自分の目的を持っている、狩りをするにも、アルベルトがいるから楽なのかもしれない、いつかはアルベルトやインシュアから卒業しなければならない、そうなれば…アルベルトがいない狩りには、不安がある…でも、その世代の軍師が付いてくれるとなれば…本当にありがとう…なんです。

 と思っていた。


 依頼所前の広場には、朝の賑わいがあった。


 2の鐘と共に張り出される依頼クエストを求めて、多くの狩猟者達がその広場を右往左往していた。

 広場中央の噴水の壁に、アルベルトが腰を下ろしてその状況を冷ややかな視線で見ていた。

 討伐戦以後のこの街は、狩猟者の数もめっきり減っていたが、最近は、隣街や村などに身を寄せていた者たちが集まりだし、討伐戦以前の数にはまだ至ってはいないが、ある程度回復し、このような賑わいになっていた。


 冬が近いせいもあるが、依頼の内容は、討伐よりも力仕事などが多く、金になる仕事と言えば、黒鉄くろがね山脈超えの護衛くらいであった。

 この地域では、春から秋は、この地で生計を立てる者が、冬には、黒鉄くろがね山脈以北にて生計をたてる者も多かった。

 真冬にあたる、6月から8月中頃は、デルヘルムも大雪に見舞われる日もある。

 ゴブリン等の種族も冬をきらい、山越えをする輩もいるので、この地域周辺は、冬の間は、その輩らの被害が少なかったが、反対に言えば、ここで越冬をしようと思っている種族は、冬前に村などを襲い、食料などの確保をする輩もいた、その時期は、4月の後半から5月で、5月後半は、特に被害が多い時期であった。


 現在は、4月後半。

 そろそろ、冬の到来を迎える時期である。

 黒鉄くろがね山脈以南にある大きな街、三つのうち、一番南がこのデルヘルムであった。

 デルヘルムで、最近話題を集めている依頼が、デルヘルムより約6キロ北西に位置する、黒鉄くろがね山脈山系の山にある洞窟。


 その名も『』である。

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