第16話 あなたの命。ぼくが貰います。 下
約1時間歩いたところに村があった。
ちょっとしたレンガの壁、高さ1メートルほどの壁に囲まれている、その村には、住人が30名ほど住んでいるようであった。
村は畑が一面にあり、住民の集落が、壁で囲われた区域の真ん中にあった。
軒数で言うと…10軒ほどである。
村の入り口には、駐屯兵らしき人も見受けられた。
そこで事情を説明し、ギルド証を見せて村の中に入れてもらう。
入り口から居住区までは500メートルはあるであろうか…、かなり長い距離を歩いた。
居住区までは、道の両端に畑があり、農作業をする人が珍しそうにこちらを見ていた。
その畑には、何が植えてあるのか分からないが、緑の丸いモノや、白い大きな根が少し出ていて、大きな葉をつけているもの、小さな赤い実をつけた物や、紫の実をつけた物が植えられてあった。
居住区の向こうには、牧草地がすこしあり、豚みたいな生き物が飼育されているようだった、それに牛も何頭かいた。
静かでのどかな雰囲気に包まれた場所であった。
門にいた駐屯兵に聞いて、この街の村長の家へと進んだ。
村長の家は平屋の小さな家で、村長のじいさんと孫の二人で暮らしているようで、探し人は村長の孫が看護しているようであった。
村長の家に着きノックをすると、女性の声がなかからした。
ほどなく扉が開く。
年齢は、アサトと少しも変わらない女の子が出て来た。
事情を話すと、一度中に入った、どうやら村長もそこにいるようである。
入り口から中をのぞくと、何やら話している二人が目に入った。
ロッキングチェアーに腰を下ろしている、髪の毛の無い頭部に、白く長い髭の年寄りがそこにいた。
村長なのだろう。
その村長と目が合う、すると、手招きをしていたので、招かれるままに中に入ると、居間のような場所に通された。
そこにあるソファーに座ると、赤い色の飲み物を出された。
聞くと、スイカと言う果物を潰した飲み物のようである。
このスイカは夏に収穫するが、この地域の地下には、天然の氷塊が数百メートル下にあり、そこで保存ができるようである、なので通年を通して、デルヘルムに食料を供給できるとの話であった。
そのジュースをいただくと、かなり甘く、はっきり言って、もっと飲みたい。と言う表現であった。
デルヘルムにもあるようだが、よく考えれば、街を歩いてみた事は、デルヘルムに来た日以外は無いような気がしていた。
今度、レニィに案内してもらおう…。
村長は、看護している男の話を始めた。
昨日の夕方にここへ来たらしい、自分では死にたいと言っていたが、どうも、言っている事とやっている事が、ちぐはぐに思えたようだ。
彼は魔法を使って、自分に防御の魔法をかけてあったという、おおかたゴブリンや亜人らと遭遇して、そこで死ぬ気だったと思うが、癖なのか、それとも臆病風に吹かれてなのか分からないが、自分に防御の魔法をかけて、ダメージを少なくしていたと言っていた。
だが、ここに来たときは、防御の魔法も切れかけ、気力も無くなりかけていたようであった。
アルベルトが面会を求めると、村長の孫が彼の部屋に向かった。
しばらくすると、会うとの事なのでその部屋に向かう。
部屋は、縦横2メートルの正方形の小さな部屋で、全員は入れなかった。
なので、アルベルトとアサトだけがその部屋に入り、残りは居間で待つことにした。
ベッドには、上体を起こして壁に背を預けている、黒ぶち眼鏡の男がいた。
頭には包帯が巻かれており、上半身も裸で、そこにも包帯が巻いてあった。
その男のベッド脇にアルベルトが座り、ベッドを挟んでアサトが座った。
「…おぃクソ眼鏡。死んでなかったのか…」と、アルベルトが男に言う
…クソ眼鏡って…。
アルベルトの言葉に、クソ眼鏡…、いや、本当の名は、クラウト。
そのクラウトがうつむく、そして…
「死ぬ気だった…」とつぶやくように吐く
「…あぁ、分かっていた。あの日以来、お前を見ていたが、日増しにそんな気が体にあふれていた。」とアルベルト
そう、アサトもそう思っていた。
あの牧場で泣いていたクラウトは、いつも酒に溺れ、そして、
…神官だから…守れなかった…から…自分に責任がある…と思っているのではないか…、そんな感じでインシュアが言葉にしていたのを思い出す。
「…なにが…最強の9-1だよ」と言葉にする
「最強の9-1?…あぁ、あれか…」とアルベルト、そして
「…なら、あいつらを殺したのは、お前であって、お前らだ。」と言葉にした。
アサトには、その意味が分からなかった…
アルベルトがたたみかける
「いいか、よく聞けクソ眼鏡。お前が死のうが生きようが、俺には関係ない。だがな、関係ある者もいるんだ、そのおかげで、関係ないと思っている者にまで、迷惑かけるんだ。ったく…どいつもこいつも…」と言葉にすると
「…すまない、アルベルト…キャシーだろう?」と返した、その言葉に「あぁ」と答える。
「まぁ…生きているなら、一緒に帰るぞ、いやなら、とっととくたばっちまえ。」と、相変わらず汚く罵る。
「…すまん…」とクラウト。
その答えに「ッチ」と舌打ちをする。
「…それで、どうするつもりだ?」と聞くアルベルト
「…僕は…これからどうしたらいいか…わからない…」と言葉にすると、アサトはハッと思った。
…ぼくと…同じだ…。でも、ちょっと違う?これは、僕の前にある選択肢とは違うけど、何か共通点があるような感じがする。
その何かは…分からないけど…でも、この人は生きようと思っている、でも、どう生きていいのか分からないだけなんじゃないかな?…だったら…。
「お前は…普通に生きればいい。また狩猟者になる気なのか?それとも…最強のなんとかって奴が邪魔して、なにもできないのか…」とアルベルト
そう、それなんだよ、彼が選べないのは…それが邪魔している。
たぶん…そうなんじゃないかな…
「死にたい…」
「あぁ…なら死ね。そうすりゃ、その最強も伝説になったかもな。…あの場所でなら」とアルベルトが言うと、クラウトが嗚咽を始めた。
…この人は、苦しんでいるんだ…どうしようもないプライドって奴に殺されそうなんだ…。
気づいてないんだ…もう、それは過去の栄光であって、デルヘルムでは、この人は笑われている事を…。
…僕は…、僕は…この人を助けられるのか?
体が動く。
相手に悟られぬように
「…っ、バカ」とアルベルトが声を上げる。
その声に、居間にいた3人が部屋の入り口に駆け込んできて中を見た。
アサトが太刀を抜き、クラウトの首に太刀を当てている。
「…すみません。質問していいですか?」と、アサトが言葉にすると、ゆっくり顔を上げてアサトを見る。
「…何が…辛いんですか?」とアサト
「…それは…」とクラウト
「…すみません…どうでもいいです」とアサト
「…死にたいんですか?」とアサト
「…」その問いに答えずに、アサトを見るクラウト
アサトと視線が合う
「…そうですよね、死ぬのは怖いですよね、僕も怖いです。でも、死なない為に、今も、アルさんやインシュアさんに稽古をつけてもらっています。そうです、僕は弱いです。でも、強くなりたいとも思ってもいません、『強い』の意味がわかりませんから」と言うと、ちょっと微笑み
「インシュアさんに言われた事を思い出してしまいました、今、思えば…そうですね。インシュアさんが言った意味が、分かるような気がします」と言葉にした。
入り口で、テレニアとチャ子がインシュアを見た。
ちょっと照れてるインシュア。
「…あなたは、死にたいのですか?」とアサト
「…わたしは…」とクラウト
その時、アサトは太刀の刃を少し上げ、そして…下ろした。
「…!」アルベルト、インシュア、テレニア、チャ子…そして、クラウトが驚く!
「すみません、今、あなたを斬りました。そして、その戦利品として、あなたの命。僕が貰いました」と言葉にすると。
「…おいクソガキ。何しているんだ」とアルベルトが言葉にした。
「…すみません。アルさん。独断で…と言うか、ぼく、この人とパーティーを組みたいと思っています」とアルベルトに言葉を返した。
「…パーティーだと?」
「はい、この人は、自分の命をどうするか迷っていました、面倒だったんで斬って、僕が戦利品でいただきました」とアサト
「…おいおいおい…そりゃ…無茶苦茶だろう…」とインシュアが言葉にすると、
「無茶苦茶で結構です。と言うか、これまでも無茶苦茶だった気がします」とインシュアを見ながら言い、そして、クラウトを見る
「すみません…、そう言う事なんで、とりあえず…帰りましょう、デルヘルムに」と言葉にした。
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