第14話 死にたがりの神官 下
ガチン!と前で音がした瞬間!「インさん、右に!」とアサト。
「ぉあぁぁ」と、インシュアが、ゴブリンの短剣ごと右に弾いた。
インシュアの背後から飛び出し、ゴブリンの前に出る。
ゴブリンはアサトに気付くと、そのまま転がり間を取ろうとする。
…動。止まるな!と言い聞かせながら、立ち上がったゴブリンの前に立つと太刀を抜き。
…軽くでいい、持っていない感覚で…走らせる…そう、刃を走らせる感覚なんだ。
一度止まり、右足を軸にして周り、大きく左足を、ゴブリンに向かって右横へと踏み出して背後に着く。
ゴブリンが振り返ると同時に
その傷口から血が流れる。でも止まらない。止まってはいけない!
今度は刃を返し、
腹から飛び、腕に傷が走った。
後退するゴブリンを追い詰めると、首にむかって一閃を放つ。
喉に深く、そして、肉の切れた感覚が刃から伝わる、傷口がガバッと開いて、赤黒い血が、細かな気泡を伴い押し出されている。
その気泡のなかに大きな気泡が1つ、2つ…と…。
体に残っている息を吐き出すと膝から崩れ、その場で肉の塊となった。
一度、深呼吸をする。
振り返ると、インシュアはゴブリンを片付けてこちらを見ていた。
アルベルトは、女狩猟者の背後からイチモツを挿入して、腰を振っていた一匹を片付けていた。
アサトは腰の布に刃を走らせ、ゴブリンの血を拭きとると、もう一匹のゴブリンに向かって駆け出した。
「…いいか、よく聞けクソガキ。もし、お前がゴブを倒したら、刃に血が付く。その血は、出来るだけ拭きとっておくんだ。肉には油が乗っている、血にもだ。その油をつけたまま戦いを続けたら、切れ味は下がる。だから、間合いができたら、必ず。刃についている油をふき取れ、これは、大人数相手の戦闘の時に必要な知識だ。少人数相手の時でも忘れずにやるんだ、体に教え込むんだ。それが自分を守る方法の一つだから」
アルベルトが、昨日の帰りに言っていた言葉だった。
なにげなく聞いていた。でも…アルベルトの言う事は、聞いておいて損はないはず…最強の男だから…
そのアルベルトが、もう一匹の方へと歩き出している。
「…アルさん!ぼくがやります!」と声にする。
その声に立ち止まり、短剣の刃から血をふき取り鞘に仕舞うと、腕組みをして止まった。
そこまで、そんなに時間はかからなかった、行為を行っているゴブリンの横に立つ、そして、刃をゴブリンの首に当てた。
「死期が近付いても…やめられないですか?……哀れですね…」と言うと、瞳を閉じて深呼吸をする。
鼓動…、流れ…、ゴブリンの呼吸…そして、力を込めて流す…体に力じゃない、体は楽にして…。と目を開けると、
刃を小さく下に落とし…刃に力を注ぎこんで流す!…と、思うと同時に、
ゴブリンの頭が宙を舞う。
…一瞬でいいんだ、切断は…一瞬、瞬発力の問題なんだ…。とその頭を見ながら思っていた。
ゴブリンの体から大量の血が噴き出すと同時に、切り離された体は、振っていた腰が緩やかな動きとなり、そして横に倒れた。
同時に、女狩猟者も前に倒れる。
インシュアが、もう一人の女狩猟者に自分の上着を羽織らせていた。
アルベルトが、倒れた女狩猟者に自分の上着を渡すと、
「今のは、…よかった。」と一言だけ言葉にした。
刃の血を拭き取り鞘に仕舞う。そして、空を見上げた。
…おやじ…ぼく…やったよ…と、言葉にならない言葉を心で言うと、なぜか涙が溢れてきた。
その涙の意味は…分からなかった。
柄に当てている手が小刻みに震える。
『いいか、よくみておけ、お前の目の前に広がっているのも『現実』。そして、ここからは、これから、お前が俺から学ぶ『現実』だ。』…ナガミチの言葉。
アサトは噛みしめていた。
ナガミチ、インシュア、そして、アルベルトから学んだ『現実』を…。
それから一週間、草原で狩りをした。
順調…とは言い難かったが、それなりに形は出来ていたと思う。
インシュアの代わりに、たまにポドリアンやグリフが
討伐体数は16となったが、インシュアによると、ソンな数は、人前で言うな。と言われた、二けたなんて、まだヒヨッコの内で、それも最弱種族のゴブリンと来たら、お笑いの対象になるぞとの事だった。
それから3日が過ぎた、暖かな午後の始まり、狩猟に向かう為に南西の門へと向かった。
アサト、アルベルト、インシュアとテレニア、そして、チャ子の5人。
門の前に女の人が立っているのに気付いたのは、アルベルトだった。
「…あぁ~、イヤな予感がする…」と言うと、女の方へ進んだ、その後を4人が付いてゆく、
「キャシーどうした、こんなところで…」とアルベルトが声をかける
「アルさん…ごめんなさい。どうしてもお願いがあるの…」とキャシーと名乗った女性は、年頃は20代前半の黒みかがった金髪で、アルベルトより若干、背が低かった。
目の下に隈が出来ていて、気持ち、気疲れしている感じがしていた。
「あぁ…なんとなく察しはつく。クラウトか?」とアルベルト
その言葉に頷きながら、大粒の涙を流し始めた。
「…夕べから…帰ってこないの…」とキャシー
「…」アルベルトは、目を細めてキャシーを見ている。
「何かあったら…僕の事は、忘れて構わないから…って、一昨日の夜、言ったの、そして、昨日の午前中に街を出てから…帰ってこないの…。」と言葉にすると、アルベルトを見る。
「…いろいろな人に頼んでいるんだけど…だれも……、お願い…アルさん…」
その言葉に、小さくうつむき目を閉じる。そして、冷ややかな視線をキャシーに送ると
「…あぁ、分かった。でも期待はするな。何か見つけたら持って来る。」と言い、
キャシーは、膝から崩れ落ちると、嗚咽しながらアルベルトを見る、そして、4人に視線を移すと小さく礼をした。
その礼にアサトが返すと、4人は門へと向かった。
門を出ると森を進む。
その道の途中で、2メートルほどのハンティングベアーが前を塞いだが。
アルベルトが
「…今日は遊んでいる暇はない。違うやつを襲え。」と言葉にしながら、冷ややかな視線をハンティングベアーに送った。
すこしばかりにらみ合いをしたのち、ハンティングベアーが森へと消えて行った。
森を出るとインシュアが声をかけた。
「今日は、やけに殺気だっているな、久しぶりに睨みだけで、熊公を退散させた奴を見た。」と、アルベルトは、冷ややかな視線で草原を見ていた。
「…落ち武者の事かぁ?」とインシュアが言葉にすると
「死にたがりの神官め、面倒な事背負わせやがって…」とつぶやいた。
「どっかにあればいいな」とインシュア
「あぁ~、あるだけでいい」とアルベルトが答えた。
…あればいいって…もしかして…死体?
アサトは、チャ子を見た。
チャ子は、辺りを…と言うか、遠くを見渡していた。すると
「アル、こっち…ゴブ、集まっている所あるよ。ちょっと遠いけど」と指さした。
確かに、何かがうごめいている感じがあるところがあったが、その蠢いているモノが何かは、良く分からなかった。距離にして…500メートル?くらいじゃないかな。
「何匹だ?」とアル。
「うぅ~ん5匹くらいかな?」とチャ子が答えると、
「っチ」と舌打ちをすると駆けだした。
「おい…コラぁ」とインシュア
「お前らはゆっくり来い。俺が片付けておく」と言いながら、その場を後にした。
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