第13話 死にたがりの神官 上

 「え?」とインシュア。

 「あやぁ?」とチャ子。

 「…ほぅ」とアルベルト…。

 「…あ…当たった…」とアサト…。


 確かにアサトが放った一撃は、インシュアの頭を叩いていた。


 「…ま…まじかぁ~~」と、頭を押さえながらインシュアが膝をついた、それを見ていたテレニアが微笑んでいる。

 少し沈黙があった後に、「いってぇ~~」とインシュアが叫び出した。

 チャ子がその声に対してビクッとしたが、次の瞬間、インシュアに駆け寄って何やら話している。

 少し後からテレニアが近付いてゆくと、

 「…気力がもったいないから魔法はいらない」と、アルベルトが言葉にした。

 「…アサト君が頑張った成果ね。」と微笑みながらインシュアの頭を撫で始めた

 「いやいやいやいや…。おれがアサトにやられるわけ無いし」と言いながら立ち上がった…。

 そう、今までは勝てると言うか、一本とれるような相手ではなかったインシュアから、一本を取った。


 時間をさかのぼる…。

 インシュアが目の前で踏み出し、右上から木刀を振り下ろす、それを木刀ではじくと、インシュアはその流れで一回りして、左腹を狙って木刀を振る…頭が開いているから踏み出すが、インシュアの誘いであり、その頭を狙った一撃をインシュアが弾く、後ろに下がるが、動きを止めないように木刀の先をインシュアに向けて次の攻撃を待つと、案の定、真上から振り下ろされる木刀…。

 それを弾くと、インシュアは力強いから、弾かれた木刀をすぐさま攻撃の反動に変えて、左から振り込み始める。

 それを右に弾くと、同じく、小さく動いてから、再び攻撃に出るインシュア…。


 そして、…なんだ…、やけに冷静じゃないか…、なんか、わかる…インシュアの息遣い…が…感じられる…。あっ、ここだ…。と思った瞬間。

 木刀がインシュアの頭を打った。


 インシュアの攻撃を弾かずに木刀を当て、インシュアの木刀の軌道を変えると、そのまま前にのめり込むインシュア、その頭をアサトが打った瞬間であった。


 「…インシュア…落ち着け。」となだめながら、アルベルトが近づいて来た。

 「この俺が言うのもなんだが、…今のは良かった。」と褒め?言葉を貰った。

 夕焼けが近付く牧場。

 「…明日、狩りに出る。」とアルベルト

 「…いいか、よく聞いて心に留めておけ、戦いに関して、焦りは負けに等しい。いついかなる時でも、冷静さを忘れるな。そして、相手をよく見ろ、経験がない今は、お前はまだ視界が狭い。経験を積めば視界は広くなる。視界が広くなるにつれて、冷静さに磨きがかかる。そして…、感じるんだ、呼吸を…生き物の呼吸。身に着けているモノの呼吸。相手の呼吸を捉えれば、自然と体が動く、いいか、動かすんじゃない、動くんだ。相手がこれからどう出る…こう来たらこうしよう。こうなったらこうしよう…では遅いんだ。考えている間もなく動くんだ、これが動の修行の神髄。これを得る為に狩りをして経験を積む。午後に立つ、それまで、今までやったことを復習していろ」と言葉を残すと歩き始めた。


 その後をテレニアが付いてゆく。

 チャ子はニコニコしていた、インシュアは頭を撫でながら木刀を担ぎ、帰るぞと合図を送っていた。


 確かに…インシュアの動きが見えていた、どれが呼吸なのかはわからないが、たしかに、なにかがいつもと違っていた。

 それは、なにかは…やっぱり、分からなかった。


 その日の夕方の依頼所のある広場。

 そこの噴水の壁に腰を下ろして、項垂うなだれているクラウト。

 その光景を遠くからアルベルトが見ていた。

 そのそばでアサトらも近づいてみていた…。


 翌日、午後の草原。

 「6匹。なんか…女の人の後ろで、変な事してるのが、2匹と…」とチャ子が言うと

 「…おっぉとぉ…」とインシュアが言いながら、チャ子の目を大きな白い手で塞ぎ、「…子供は、見ちゃだめだよ」と、日傘をさしてい座っている、テレニアの傍に連れて行った。


 「チャ子ちゃん、あっちむいて、援軍こないか監視していて」と、優しく声をかける、すると

 「チャ子、子供じゃないもん、あれ何しているかわかるもん」と声を発した。

 すると、

 「…おいネコ娘、これ以上面倒は十分だ、見たいなら見ろ、でも、見たら明日からは連れて来ない」と、アルベルト。

 その言葉に、チャ子は舌を出すと、後ろの方に視線を変えた。

 「こわぁ~い」と、テレニアは言いながらチャ子の頭を撫でていた。


 「…さて、作戦を立てるのは性に合わないが…、インシュアはタンクとして、2匹を押さえろ、まぁ~1匹くらいならやっても構わない。俺は2匹か3匹。クソガキは2匹で、メインアタッカーだ。インシュアが送り出したゴブを狩れ。チャ子はテレニアに守ってもらえ」と言いうと

 「はぁ~?」とインシュア。

 「俺がタンク?盾。持ってねぇ~ぞ」と怪訝そうな表情で言葉にすると。

 「仕方ないだろう、アタッカーだけが揃っている、ポンコツパーティーなんだ。まぁ…、俺一人でも十分なんだけど…我慢しろ」と冷ややかな視線をインシュアに向けて言う。そして

 「おいクソガキ…、いいか、よく聞け。」とアルベルト。

 「お前は大丈夫だ。ちゃんと狩れる…自分を信じろ。自分を信じれなければ、いままでやって来た意味が無い。いいか?」


 …その言葉…ナガミチも言っていた。お前は大丈夫、ちゃんと狩れる…。

 アサトは、目を閉じて深呼吸をした、

 …そうだ、大丈夫。自信持っていこう。と思うと。「ハイ!」と声を上げる。


 そのアルベルトが笑みを見せた。

 インシュアが前から親指立てて、アサトに向けた。

 チャ子も後ろを見ながらニコッとする。テレニアは、日傘の下で微笑んでいた。


 …そう、みんな助けてくれた。やるよ。ぼく。…見てて、親父!


 「行くぞ!」とアルベルトが発すると駆け出した。

 「しょ~がねぇな…、明日、ポッドから盾借りて来るか…来い!アサト」と言い、駆け出す。

 「ハイ。」と言い、インシュアの後ろにつく。


 アルベルトの気配に気づいたゴブリンが、駆け出してくるのを、インシュアの背中越しに見えた。

 インシュアの背中は、大きくて高い、そして、息使いも感じられる。

 “ギャ”っと、ゴブリンの断末魔が聞こえる。

 アルベルトだ、もうすでに一匹仕留めたようだ。

 「来るぞ!」とインシュアが声にする、その声に太刀の柄に手をのせて軽く握る。


 …冷静に…、アルベルトの言葉がよぎる。


 …これが…斬るだ。刃の感覚を覚えるんだ、そして、軽く…動かす…それだけで、傷は付けられる。呼吸を感じるんだ…呼吸を…。


 ナガミチの声が聞こえたような気がした。

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