第12話 動の修行 下

 翌日。


 アルベルトが、試したい事があると言って牧場に向かった。

 チャ子は、アルベルトの指示にしたがいランダムで木柱を立てた。


 アルベルトが言うには、アサトの戦い方は、型…構と言うモノが邪魔をしているとの事だった。

 構に入らなければ攻撃が出来ない、だから…。と言い。

 今日からの修行は、静を無くした動の部分だけで戦う修行になった。


 ようは、止まらない運動である。


 チャ子が立てた木柱は10本。

 アサトは木刀を持ち、走って、その木柱を斬るだけであった。


 ただ斬るではない。

 腰に木刀を携えたまま近くまで行き、間合いに入ったら木刀を抜いて斬る。である。


 一見簡単そうだが、やってみると、アルベルトのダメ出しが多かった。

 スムーズに木刀を出せ!間合いが近すぎる!間合いが遠すぎる!振った後の一歩が遅い!とにかく、ダメ出しが多すぎて心が凹んできていた。


 ある程度形になったら、今度は鍔迫り合いから斬る。を訓練する。

 鍔迫り合いは、木柱が不安定なので、一度木柱の前に立ち、鍔迫り合いの形を取ってから斬る。をやった。

 斬れば木柱が倒れるので、チャ子は木柱を立て直す係である。


 それもある程度、形になったら、今度は木柱の前で屈みこみ、右の足を軸に一回転しながら背後に回って斬る。の修行をする。


 それを10本の木柱を攻めたら、今度は左足を軸にやる。

 ナガミチの教えた剣技は基礎で、アルベルトが教えているのが応用。

 それがある程度形になったら、インシュア相手に今やった事を繰り返す。

 さすがにインシュア、アサトの繰り出す攻撃をすべて防いだ。


 そろそろ夕暮れである。


 最後の課題といい。

 アサトの一歩後ろにアルベルトが立った。


 そして、インシュアがアサトに対峙しての模擬訓練をする。


 なぜか、アルベルトは構えてから攻撃しろと言ったので、中段の構えからインシュアに攻撃を繰り出すが、インシュアに防がれると、インシュアの攻撃がアサトを襲う、思わずというか、条件反射で後退したときにアルベルトとぶつかった。


 「なぜ逃げた」とアルベルト。

 「えぇ?だって…」とアサト。

 「…いいか、逃げるは、相手の優勢を意味するんだ、退は違う。」と言い、アサトから木刀を取り上げると前に立った。


 「インシュア、来い」と言葉にすると、インシュアは、不敵な笑みを見せながらアルベルトに木刀を振り始めた。

 アルベルトは、インシュアの木刀に自分の木刀を当てながら後退する…後退?と何度か、後退したのち、インシュアの木刀を弾くと大きく後ろに跳ね、インシュアめがけて飛び込む、そして、インシュアの手前で屈むと、木刀で、足とわき腹…そして頭と流れるように叩いた。

 インシュアが頭を抱えて崩れた


 「…おまえ…しつこいぞ」と冷ややかな目で、丸くなっているインシュアを見下ろして言葉にするとアサトに向いた。

 「わかったか?これが、後退だ、あまりいい気になっていると、あぁなる」とインシュアを指さした。

 「そして、おまえのは逃げるだ。どこが違う?」と、冷ややかな目をアサトから外さずに言葉にした。

 「……わ…わかりません…」と言葉にすると、アルベルトが木刀を返して、アサトを見る。そして、

 「なら…よく見ていろ。」といい、自分の手を、木刀を持った型でかまえると、そのままの姿勢で後ろに下がる

 「…これが逃げる。」といい。

 再び、同じ構えをして、今度はその腕を振りながら、何かを払うように下がる。

 「…これが、後退だ」といい、アサトをみる。

 アサトは、その言葉を確かめるように動いてみる。


 …何が違う?ただ下がっているだけではないのか?木刀を構えたまま下がる…そして、何かを払うように…下がると

 「上体の位置を見ろ」とアルベルトが言う。

 その言葉に上体を確認しながらやってみると、

 「あっ」と声を上げる。

 そうである、ただ下がれば、上体は起きたままで、後ろに下がろうと言う力を感じる。

 腕を下ろし、払いながら…いや、腕をふりながら下がると、どうしても前に向く、

 「討て!」とアルベルトが声にする、その声に反応すると、スムーズに木刀が出た。


 そうなのだ、この修行は静ではない。

 動の修行。止まったらだめなんだ。

 「なんとなく…わかりました」と言葉にすると、アルベルトが目を閉じて言葉にする

 「ああぁ、何となくでいい。今の形がいいのではない。いまのようにだ。それだけでいい」と言うと、目を開けて。

 「…帰るぞ。腹が減った。」と言い、家路についた。


 その日の帰り道…黒ぶち眼鏡のクラウトが、噴水の壁に座って項垂うなだれていた。


 次の日から牧場で修行をした。


 この日の朝から基礎訓練をやって、ナガミチが最後に教えてくれた事の確認をやり、午後からは動の訓練をした。

 牧場主の許可をもらい、直径30センチ、長さ3メートルの木柱を、深さ1メートル程埋めて、ポドリアンとグリフが立ててくれた。


 これで、鍔迫り合いの訓練も出来る。


 テレニアも来てくれていた。

 チャ子はインシュアに訓練をつけてもらっていたが、どうも、チャ子が飛び回っているだけにしか見えなく、遊んでいるようにしか見えなかった。


 一日が終わると走って家に帰る。


 風呂に入ると、テレニアの治癒と回復の魔法で元気が全快、そして晩飯をいただく。


 …昔を思い出してしまうようだ…。


 でも今は、晩御飯が終われば、チャ子はサーシャと家に帰る。

 テレニアもアルベルトと共に帰る。

 残されたのは、インシュア…、インシュアは、みんなが帰るころには、もうソファーに横になっている。

 地下室の部屋に入ると、大きな机とその向こうの本棚…、そして、その部屋の横にある武器庫…。

 その武器庫の奥に鎮座している、妖刀3本…。

 それらを見てから、眠りにつく。と…朝が来る…。


 窓が無いので、朝日では目覚められない。

 チャ子が起こしに来るまで寝ている。

 そして、チャ子が来たら起きて、朝ご飯を食べ、歯を磨き、顔を洗って…、修行に向かう。

 太刀と木刀を一本ずつ、両手に持って…。

 秋が深まり始めている…、家のイチョウもそうだが、周りの木々も赤や黄色に変化を始めている。


 毎日見る。噴水広場にいる。

 黒ぶち眼鏡のクラウト…。

 日増しに生気が無くなっているように感じていた。


 そして…。


 かれこれ10日が過ぎた…。その日…。

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