第9話 アイゼンの提案 上

 無言の空気が流れる地下室。


 アイゼンが、ナガミチがクレアシアンから聞き出した事をすべて言いつくすと、そこには無言の空間だけが残った。

 重い空気が一同を包み込んでいるようだった。


 「…なぁ~」と最初に口を開けたのは、壁にもたれ掛かり、目を閉じて腕組みをしながら、小さくうつむいていたアルベルトだった。

 「…『』…てのは気になるが…、おれは最後の『』の方が気になる」

 「…あぁ、そうだな」とポドリアン。

 「うむ、私もその事を聞いた時に驚いたよ。」とアイゼンが賛同の言葉を言う。


 …『?』って、誰?と思いながら、アルベルトにアサトが視線を移した。


 「俺も色々な街で商人から聞いていたが、どうも北の方ではキナ臭いうわさが飛んでいるようだ」と言葉にすると

 ポドリアンもアルベルトを見て、「…キナ臭い?」と言葉にする。

 アルベルトは目を開けて、冷ややかな視線をポドリアンにむけると目を細めた。


 「壁の向こうの蛮族がどうもやばいらしい、壁を守るフクロウ達も、壁を越えて偵察に行っているようだが、どうも蛮族が何かから逃れるために、壁を越えようと思っているようだ。」

 「衝突か?」とポドリアン

 「いや、まだ無いようだが、何人かの蛮族の戦士が壁を越えているようだ。砦を占拠して、蛮族に壁を越えさせようと策略しているようだ」

 「壁の向こうの蛮族は、30もの部族に分かれている。その部族の一部が行動をしたとしても…」とポドリアンが、顎の髭を撫でながら言葉にすると

 「…いや、どうもそこがおかしいんだ」とアルベルト。


 その言葉にアイゼンが入る

 「おかしい?」

 「あぁ、どうもその部族が、誰かの手でまとめられているようなんだ」

 アイゼンが目を閉じ、ポドリアンも髭から手を放すと腕組みをして考えた

 「…まぁ、なにはともあれ、あれが動いたら多くが死ぬぞ」とアルベルト

 「…アル、行くのか?」とアイゼン

 「…あぁ、約束だからな。」と言葉にして歩みだし、テーブルに片手をついて話し始めた


 「…その前に、おれはこいつを強くしなきゃなんない、ナガミチさんとの約束だ。帰還のオーブだか何かは知らないが、話を聞けば、どうやら、そこらにたいそうに飾ってあるような代物でも無さそうだからな、そっちはアイゼン、お前に任せていいか?」と言葉にすると、アイゼンは頷く。


 「ナガミチの話しを整理して、私が独断で導きだした優先課題は、3っつだ。」と握った拳を目の前に出す。

 「…まずは、いにしえの賢者の捜索。」といい、人差し指を立てる。

 「…そして、誘いのオーブのコアの確保」といい、中指を立てる。

 「…最後に帰還のオーブの奪取だ」といい、薬指を立てた。


 「最優先事項として、いにしえの賢者を見つける事だ。この者が見つからない限り、『』への道も、『いざないのオーブのコア』も、『帰還のオーブの使用方法』も、何もかも不完全になる。この世界のことわりを知る者を見つけ出し、『』にある、『いざないのコア』をこの世界に持ってきて、この世界にいざなわれないようにする。帰還のオーブはその次でいい。まずは被害者を減らす。」と強く言葉にした。


 ポドリアンが口を開ける。

 「…それじゃぁ~、使いフクロウを使うか…でも、グンガたちは自由だし、俺たちの目的自体どっかで忘れているかもしれないからな…」と言うと

 アルベルトが、壁に向かって歩きながら舌打ちをして

 「…ったく、あのクソキチガイ野郎は、この世界で自由を満喫しているから、あいつは帰さなくてもいいぞ」と言葉にすると、一同が小さく笑う。


 「…そうだね、でも、一応パイオニアの遠征部隊と言う名目なんだし、フレディもいるから大丈夫じゃないかな?」とサーシャが言葉にした。

 「あぁ~、グンガとガレリオ以外はまともだからな。とりあえず遠征部隊に連絡する。もう海を渡っているのが3つあるから…まっ、グンガはどこにいるかわからないが、レノンあたりは北の国あたりいるようだから。アル?」とポドリアンがアルベルトを見る

 「レノンに一応、連絡をいれとくか?お前も近々いくかもって…」と言うと、アルベルトはアサトを一度見て

 「…あぁ、あの地域はおれもやばい事は分かっている。知っている奴がいれば心強い」と言葉にした。その言葉にポドリアンは頷く。

 「細かな調整は必要だな。とりあえず、この情報は時を見て公開するとしよう。」とアイゼンは言うと、アサトを見た。


 「…問題は、この事案にいずれ関わらなければならない者の存在だ」と言葉にする。

 「…竜騎士の王…か?」とポドリアン。

 「…あの人は、とても危ない感じだったわ。」とテレニアが言葉にする。

 「…あぁ、ナガミチ殿の機転がなければ、わしらも全滅だったのう」とポドリアンが言葉にすると、グリフが小さく頷いた。


 「…いずれにしろ、その者が『』の門番なら、戦わなければならないかもしれん。」とアイゼン

 「もし…」とテレニア

 テレニアは口に手を当てながら

 「もしもよ、いにしえの賢者が一緒なら、『』への門は開けてくれるのでは?…」と言うと

 「そうなれば、吉だ、だが、そうならなければ、凶。いずれ二つに一つ。まずは、総力を挙げて『いにしえの賢者』を探そう」とアイゼンは、アサトから一同に視線を送りながら言葉にした。


 その視線に一同が頷く。


 そして、アイゼンは、再びアサトを見る。

 「…それで、今までの話を聞いて、アサト君は、これからどうしようと思っているんだ。」と言葉にした。

 その言葉に、一度アルベルトを見て、そしてインシュアを見た。

 二人ともアサトを見ている。


 アルベルトは明日から修行を開始する、そして、ナガミチの遺言を忠実に行い、アサトを強くする。と言っていた。

 彼の瞳は、まっすぐであり冷静な言葉から本気を思わせた。


 インシュアもアルベルトと共に、アサトの修行に付き合うようだ。

 それよりも、自分が本当に強くなれるのかがわからないし自信も無い。


 弱いなりの戦い…と言って、ようやく、ほんとにやっとゴブリンを狩る事が出来たが…。

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