第6話 ナガミチの遺産 下

 ナガミチはそれを容認したが、アズサが拒んだ。


 堂々巡りが続く中、クレアシアンは時間をあげるといい。

 ナガミチの家で放った、『ドラゴンの羽ばたき』の何倍かの威力のある魔法を放つ。

 パーティーは、そのまま後退した。


 その地には、それ以来、緑が覆う事は無かった。


 クレアシアンの怨念が伴った魔法は、地質も変えてしまったのだ、それ以来、クレアシアンの事を、『』と呼んだ。

 実質、これで、このパーティーがクレアシアンを襲うことが出来なくなり、旅の終わりを迎えることになった。


 アイゼンは、ギルドを立ち上げ、今に至っている。


 牧場主の好意を真似て、いざなわれた者たちの手助けをしている。

 立ち上げた時には、ウイザもアズサもナガミチもいたが、最初にウイザが抜け、街はずれの誘いの門の近くで武器防具屋を始めた。

 アズサは、ウイザに申し訳ないといい、いざなわれた街『スイルランド』に帰った。

 そして、ナガミチは、死ぬまでにやる事があるとの事で、ギルドを後にしたのだ。


 アサトは、アイゼンを黙って見ていた。


 アイゼンは、ゆっくりと思い出しながら話す。

 「掻い摘んで話したが…これが、私たちとナガミチ、そして、ウイザの物語だ」と言葉にする。

 その言葉に、いままで聞きたかったことが、一つずつ埋められて行く。

 アイゼンは立つと、壁に向かって歩き出した。


 アサトが使っているベッドの反対側の壁に手をあてると、そこにあるレンガを押す、すると何個かのレンガと共に扉のように開く。

 もう一つ向こうに部屋があった。

 「みんな来てくれ」と、みんなを呼び、その中に入ると、壁にあるトーチに火をつける。


 言われるがままにその部屋に入ると、奥行きが6メートル、幅が3メートルほどの部屋があった。


 向こうの壁全体が本棚となっており、そこにはぎっしり本が入っていた。

 「あの棚は、私やナガミチの旅の記録と、これまでの事柄、そして、色々な仮説などが書かれているようだ、わたしには読めないが、アサト君、きみなら読めるはずだ」といい、その本棚を見てから机を指さす。


 「君とナガミチの繋がり、同じ民族のつながりの証拠だ」と言う。

 本棚の手前には大きな机があり、その机には、”アサト”と書かれていて、その文字の下には、”ナガミチ”と書かれていた紙があった。

 その紙は、ナガミチと初めて会った時に、”名前を書け”と言われて書いた紙だった。

 アサトは、紙を手にすると「はい、読めます。これは、”アサト”と”ナガミチ”と書いています」と言い、紙を見せた。

 その言葉にアイゼンが頷く。

 「それじゃ、」といい、入って右側の壁に手を当てると、また、扉となって開いた。


 アイゼンが中に入り、壁の篝火の元に火をつける、そこは先ほどの部屋よりは小さいが、奥行きが1.5メートルほどで、長さが6メートルほどの部屋だった。


 入って突き当りの壁には、短剣が8本、両刃の大剣が4本、飾られてあった。

 「向こうの短い剣は、アルベルトへ、そして、その横にある両刃剣は、インシュアへ」と、アイゼンが言うと、二人は目を丸くした。

 「向こうにある長い太刀、ナガミチはと言っていた、そして、もう一本の太刀、それと…」と言うと、サーシャがアサトの肩を叩く、サーシャを見たら、その手には太刀が握られていた。

 それをアサトが手にする。

 「最後にクレアシアンを襲った太刀は、アサト君に」と言葉にした。


 「ここにもある」といい、入って来た扉の方の壁に、数十本の太刀がかべにもたれ掛けられていた。

 「これも、アサト君…そして、このすべてをアサト君に託すと言っていた。」と言葉にした。

 アサトは、アイゼンを見ているしかなかった。


 「本棚の文字は、アサト君しか読めない。我々に託されても、宝の持ち腐れだからね。」と言いながらその部屋を後にして、先ほどいた大きなテーブルにある椅子に座る。

 アサトらも後を追って座った。


 「アサト君、この世界のアカデミーは、最初の終了時に、師匠から武器を貰う慣例がある。銀貨5枚に対しての武器は、鉄屑に等しい粗悪品が多い、でも、君が手にするモノは、と言えよう。そして、今、君が手にしている太刀と、あの部屋の奥にある太刀と大太刀は、決して、誰も手にする事の出来ないモノであるし、君の命をも奪う危険が伴うモノだ。」

 「命ですか?」とアサト

 「そうだ、あの3本の太刀は、決して切れないモノを斬れる武器、そして、その血から怨念を食らい、その怨念を使用者に送り込む、『』…」と言うと、アイゼンは瞳を閉じた。


 「なら…」とアルベルト。

 「俺たちの武器も、その妖刀なのか?」と聞くと

 「…いや違う」とアイゼンは目を開いて言葉にする。

 「君らの武器は、現在、この世界で、最も切れ味に優れている魔石、『イミテウス鋼』とドラゴンの鱗を、錬金術で加工して仕上げた鉱石を使った武器である。ナガミチが言うには、ドラゴンは確実に斬れるだろうとの事だ」と付け加えると

 「ナンバー2ってところか」とアルベルトが言葉にした。


 「って…」とアサト。

 「うむ。あの3本は、ポッドとポッドの姪が3年かけて鍛えあげた太刀であるみたいだ、素材はドラゴンの鱗とあのドラゴンとの戦いで、竜騎士の王の腕を斬った時に持ってきた魔石。ナガミチは、その石を『』と名付けていたが、その石は、錬金術師が言うには、魔石の中でも、純度の高い魔石であり、ドラゴンの炎でなんらかの反応があり、ドラゴンか何かが宿ったのか、その鉱物にしたたっていた、死者の怨念が宿ったのかよくわからないが、極めてとなっている。その鉱物を叩いて鍛えあげた刃を持つ。先ほども言ったが、血から怨念を食らい、その怨念を使用者に送り込む。その怨念は、使用者の精神を蝕み、生命力を食らうようだ。だから…妖刀。と言っていた。」一息間を置くと、アイゼンは続けた。


 「壁に立てかけられている太刀は、その太刀を作る前の試作品だな。ナガミチの話だと、最初の半年は、太刀の打ち方をポッド達に教え、半年をかけて、鋼などで太刀を打ち、1年で、試作ともいえる、イミテウス鋼と鱗を掛け合わせた鉱石で、28本作り上げ、最後の一年で、あの太刀を3本仕上げたようだ」とアイゼン、その言葉にポドリアンが小さく頷くと言葉にした。


 「ナガミチ殿が言うには、自分は、元の世界では、刀鍛冶の家の長男だったらしい、10歳の時から跡継ぎと言う事で、これまでに何百本と刀を作って来た。と言っていた、それと、剣道?け、けん、どぉ?…よくわからないが、その太刀のようなモノを扱った試合?をしていたと言っていた。だから、俺にはこれが一番合うのかもしれないと…とも言っていた。」

 「おい、デブ髭。そのなんとかって言う、の元はないのか?」とアルベルトが言葉にすると、

 「それを叩くだけでも根気が必要だったし、また、うまくは行かなかった。ナガミチ殿は、お前らの分も作れたら良かったのに…と言っていた。ナガミチ殿の3本とアズサさんの2本を仕立てたところで、在庫切れになってしまってな…、お前たちが、ナガミチ殿に弟子に入った時には、もうすでに無かったんだ…。すまんな…。あの壁の武器は、お前たちが弟子入りした日に、依頼されて作っていた。あの鉱物でも、鍛えあげるのに骨を折ったぞ。」と言葉にする、

 その言葉に、アルベルトは目を閉じ、「…っチ」と舌打ちをした。


 「…とりあえず、これは、ナガミチの遺産だ。今日、ここに皆に集まってもらった、本題に入る。…ナガミチが自分の命を懸けて、クレアシアンから聞き出した事の話をしたい」とアイゼンが言葉にした。

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